第12回 コッツウォルズの農園
イギリスのコッツウォルズには農家レストランがたくさんあって、田舎に憧れる都会人が訪れてとても繁盛している。
渡英前、私は複数の人からそう聞いてきた。では早速みてみよう。と、コッツウォルズへ行ってみたんだが、あれれ??
コッツウォルズに散在するいくつもの町を覗いてみたが、どの町にもパブはあるけど農家レストランなんて見当たらない。町の外には、羊しか見当たらない。農家レストランはいずこに?
イギリスの農業に詳しい私の師匠に聞いてみた。
ああ、それたぶん、ディルズフォードのことだよ。日本の農家レストランのイメージとはだいぶ違うけどね。
というわけで、ディルズフォードの農家レストランへ直行だ!
1.Daylesfordへ
ロンドンから車で西へ2時間も行くと、道の両脇が緑に覆われ、丘を登ったり下ったりし始める。右にも左にも羊が現れてきたら、そこはもうコッツウォルズだ。
ディルズフォードは、コッツウォルズの中心的な町のひとつ、モートン-イン-マーシュのすこし手前にあるということだ。視界の悪い緑のトンネルをナビを頼りに走り続け、あれ、迷ったかも?と思った頃に小さな看板を見つける。
到着!
入り口からして、とてもオシャレだ。建物も見かけは古いが、センスよく改装されている。これはレベルが高いぞ。
2.まずは農園に
出発前にHPをチェックしたら ~週末はいちご狩りできます~ とあったので、まずはそちらに。
建物の中に入るとすぐに、⇒農園はあちら⇒ の看板。
店の中を素通りして裏口から外へ。
するとそこにはお兄さんが。私たちの農園へようこそ!
なんでも採っていいよ。の声に押されて農園へ。
ディルズフォード農園は、35年前にオーガニック農園として別の場所で開園し、その後、コッツウォルズに移ってきたとのこと。そんな昔から有機農業に目をつけていたとは、イギリスは歴史の長さが違う。
いちご畑。
広い農園だなーと思って見ていたけど、これは900haある農園のほんの一部だそうな。日本の畑とは規模が二桁違う。
ビニールハウスの中では、トマトやキュウリ、シシトウなど、いろんな野菜が育ってる。この国に来て、麦と牧草以外の農産物を初めてみた。
ビニールハウスのことを、お兄さんはポリトンネルと言ってたな。夏でも涼しいイギリスだが、ポリトンネルの中は高温多湿。野菜の生育には最適な環境のようだ。
摘んできたいちごと野菜は、ここで量り売りされる。いちご一山とキュウリ2本、シシトウ1本。むかし銭湯にあったような大きな秤に、いちごをちょこんと乗せる。ぜんぶで£4くらいだったかな。売る方も買う方も、まあ適当。
3.そして、農家レストラン
今回の訪問の主目的は、農家レストランだった。
休日のお昼どき、お客さんは満員。家族連れ、お年寄りグループ、カップルなど、客層も多彩で活気あふれている。
オープンキッチンの店内は広く、白を基調とした明るく清潔なデザイン。親切でイケメン/キレイな店員たちに、こだわりポイントを丁寧に説明するメニュー。
せっかく農家レストランに来たんだからと、3種類のサラダのコンビネーションを注文したら、採れたて新鮮なオーガニック野菜が山盛り。
肉もチーズも自家製のオーガニック。こちらにも、付け合わせの野菜が彩りを添える。
う~ん、うまい。ロンドンから2時間かけてやってくる価値あり。
レストランに併設されたショップには、農園で作られた食品がずらりと並んでいる。オシャレなパッケージに、どれだけ丹精込めて作られたか書き込まれている。ちょっと高めでも、つい手が出る。
ショップの前の庭で、コーヒーを飲んでくつろぐこともできる。優雅だ。
4.ところで
ディルズフォードの商品は、実はコッツウォルズまで行かなくても買える。
ロンドンにアンテナショップを3店舗を構え、オンラインショップも開設されている。
写真は、ノンッティング・ヒル店。
店内にはオーガニックの商品がいっぱい。コッツウォルズの農園から運ばれてきたことが説明されている。カフェも併設。オシャレな街に溶け込んだオシャレなお店となっている。
でもやっぱり、いちどコッツウォルズの農園を訪れた後の方が、この商品のありがたみを感じられる。
5.結論
コッツウォルズには、農家レストランが少なくともひとつあった。自分のイメージする「農家レストラン」とは、なんか違うけど。なんでだろ?
レストランもショップも、とてもとても洗練されている。料理も商品も。「田舎臭さ」をまったく感じない。
そもそもイギリス人には、「都会=スタイリッシュ、田舎=野暮ったい」という感覚が無いのかも。田舎や農業には「土の匂い」がついてくると思うんだけど。
イギリス人にとっての「田舎」とは何か?新たなテーマを見つけたところで、今回のレポートはここまで。
第11回 Royal Ascot 大研究
イギリスがEUから離脱することになって、「なんてこった。イギリスはもうオワリだ。」という声をきく。そのとおりだ。これからのイギリスには、大きな変動と困難が待ち受けているだろう。
しかし、ひとつだけ確かなことがある。何百年と続いてきたイギリスの伝統、EUなんて影も形もなかった頃から受け継がれてきたイギリスの文化や習慣は、これからもちっとも変わらないということだ。
その代表格が、アスコット競馬場で開催されるロイヤル・アスコットだ。
ロイヤル・アスコットの起源は1711年に遡る。王室の居城であるウィンザー城から7マイルほど離れたこの地に、アン女王が「馬を走らせるのに最適だ」と言って競馬場を作らせたのが始まりとされる。それから300年以上もの間、イギリスの短い夏の幕開けを告げるため、ロイヤル・アスコットは毎年開催され続けてきた。
英国全土がEU残留か離脱かで揺れ動いた2016年6月もまた、ロイヤル・アスコットはいつもと変わらぬ華やかさで幕を開けた。
日本でも競馬好きの方ならロイヤル・アスコットの噂を聞いたことはあるだろう。ただ、その格式の高さゆえ、私なんてとてもとても行けないわ。と思っている人も多いだろう。
そんな皆さんに、今回は、華やかで楽しくて、そして実は誰でも参加可能な、ロイヤル・アスコットの魅力をお伝えしたい。
1.アスコット競馬場への行き方
アスコット競馬場はどこにあるのか?
アスコット競馬場は、ロンドンの西部約30マイルのところにあって、ロンドンから日帰りできる。電車なら1時間でアスコット駅に着いて、駅から10分歩けばもう競馬場だ。車でも1時間くらいで到着する。
近くのウィンザー城に住むエリザベス女王は、ロンドン中心部にあるバッキンガム宮殿との間を頻繁に行き来している。春にオバマ大統領が来英したときも、ウィンザー城で女王とランチした後にロンドンへ戻って、夕食はケンジントン宮殿だったはず。キャメロン首相が卒業したイートン校もこの近くにある。ここは、ロンドン郊外にありながら、ロンドンの中枢との強いつながりを持つ地域なのだ。
ところで、アスコット競馬場で競馬を楽しむチャンスは、ロイヤル・アスコットに限らない。
どういうことか。ロイヤル・アスコットとは、6月後半の5日間だけ、エリザベス女王臨席の下で行われる王室主催の競馬開催のことをいう。
昔は、ロイヤル・アスコットを開催する5日間しかこの競馬場は使用されなかったそうだが、現在では、7月のキングジョージ6世&クイーンエリザべスステークスなど、通常の競馬開催も行われている。8月には各国騎手対抗のシャーガーカップも行われ、毎年日本の騎手も参戦する。
これらは王室主催ではないが、アスコット競馬場の華やかな雰囲気を味わうには十分だ。夏休みにロンドン旅行を計画されている方は、ぜひ競馬場の開催日をチェックして、日程に組み込めるかどうか検討してみていただきたい。
ロイヤル・アスコットのときだけ、ウィンザー城の衛士が競馬場を警備しにくる。
2.いざ、ロイヤル・アスコットへ!
私は今回、車にて参戦した。11時頃に到着。事前に買った駐車券を提示し、誘導されるままに駐車スペースに入る。といっても、芝生の上に適当に止めていくだけだが。
車を降りてまずビックリ。周りの人々が次々とテントを組み立て始めた。テーブルの上にワインとサンドイッチを並べて、ピクニックの開始。あれれ~、競馬は見ないの??
そうなのだ。ロイヤル・アスコットの第一競走は、午後2時30分出走。なぜそんなに遅いかは後でわかる。とにかく、それまでは優雅にランチタイム。
で、競馬場はどっち?とまわりを見渡して、あっと気付く。ここ、競馬場の内馬場じゃないか。いつの間にかトンネルをくぐって場内に入っていたわけだ。
駐車場からスタンドまで、馬場を横切って歩いていく。ちなみに帰りも同じく馬場を横切る。レースの合間に観客が馬場を横断するなんて、日本では考えられないな。
3.噂のドレスコード
ロイヤル・アスコットといえば、厳しいドレスコードで有名だ。機関車トーマスのトップハムハット卿のような格好をしなければ中に入れないと思われているだろう。
アスコット競馬場は、実のところどのようなドレスコードを要求しているのか?競馬場のHPの記載を丁寧に読み解いていきたい。
その前に、入場券の仕組みを理解しておきたい。ロイヤル・アスコット開催には、ロイヤル・エンクロージャー(招待客のみ)、アン女王エンクロージャー(特別チケット)、ウィンザーエンクロージャー(一般チケット)の3つのカテゴリーがある。
アン女王エンクロージャーのチケットは誰でも買える。入場料は日によって異なるが、だいたい£70くらい。一般チケットは£25くらい。
ちなみに、ロイヤル・エンクロージャーも、招待客はチケットを買って中に入る。入場料£150。高けー
入場券の種類によって、競馬場内で観戦できるエリアが異なる。エンクロージャーとは「囲い込み」という意味。世界史で習ったとおり。場内を柵で囲い込んで、特別客用のエリアとしている。ゴール板前はロイヤル・エンクロージャー、その外側にアン女王エンクロージャーといった具合に。そして、エリア毎にドレスコードが違っている。
上の写真に見えるゲートがロイヤル・エンクロージャーの入り口。このようなゲートがいくつかあって、その内側の仕切られたエリアがロイヤル・エンクロージャーとなっている。
右の写真を見ていただきたい。手前側がロイヤル・エンクロージャーで、スタンドの真ん中に柵があって、その向こう側がアン女王エンクロージャー。人口密度が違っているのがわかるだろう。
それでは、エリアごとのドレスコードを見て行こう。
(1)ロイヤル・エンクロージャーのドレスコードは、評判通りの厳しさだ。
男性は「黒かグレーのモーニング・ドレス」と決まっていて、
・ウェストコート及びネクタイ着用
・黒かグレーのトップハット着用
・黒無地の靴着用
とある。まさにトップハムハット卿の世界なのだが、スタイルはほぼ1種類なので迷うことはない。貸衣装屋で「ロイヤル・アスコット向け一式」を借りてくるだけだ。
ちなみに、私もご縁があって「ロイヤル・アスコット向け一式」を借りて中へ。
やっぱり、日本人には、似合わね~。
一方、女性のドレスコードは次のとおり細かく決められていて、何を着ていけばいいのか迷うことこの上ない。
・ドレス・スカートは、膝上以上の適切な長さであること。
・ドレス・上着は、1インチ以上のストラップがあること。
・ジャケット・ストールがあった方がよい。ただし、その場合でもドレス・上着はドレスコードを守る必要がある。
・パンツスーツは認められる。この場合、長丈で素材・色が調和している必要がある。
・帽子着用は必須。帽子の代わりに直径10cm以上で固い素材でできたヘッドピースでもよい。
・ストラップレス、オフショルダー、ホルターネック、スパゲッティストラップは禁止。
・お腹は隠れている必要あり。
・ファシネーターは禁止。
こんなにルールが細かいと、着る服が見つからないとお困りだろうか。実際は、意外とそうでもない。
老いも若きも、みな思い思いにオシャレしている。まるで仮装大会さながらの衣装も見られる。それでもきちんとドレスコードは守られているのだ。
ロイヤル・アスコットでは、地味な服装の方がかえって目立ってしまう。自信をもってお気に入りのドレスを着て行こう!
(2)アン女王エンクロージャーでは、ドレスコードも若干緩くなる。
男性は、
・スーツ・Yシャツ・ネクタイ着用。
なので、スーツでオッケーということ。
女性は、
・帽子、ヘッドピース又はファシネーター着用。
・ストラップレス、薄生地のストラップは禁止。
・パンツは長丈。ショートパンツ禁止。
・お腹は隠れいてる必要あり。
となっている。つまり、肩とお腹をみせるな。スカートは長く。帽子をかぶってこい。ということ。ちょっとしたヨソ行きの服で大丈夫なようだ。
(3)ウィンザー・エンクロージャーでは、
・スマートな服が望ましいが、ドレスコードは無し。ただし、レプリカのスポーツシャツは禁止。
つまりは普段着でよいということ。ただ、周囲の人々の雰囲気を考えれば、それなりにオシャレしていった方がいいことは間違いない。
ロイヤル・アスコットに限らず、イギリスで競馬場へ行く機会があれば、少しばかりのオシャレをして行くことをお勧めする。なぜなら、この国では競馬場は美しく華やかな社交の場だからだ。肩肘を張る必要はない。ちょっといい服を着て、ワインやシャンパンを飲みながら、お気に入りの馬にすこしお金をかけて応援する。そんなイギリス流の楽しみ方をぜひ体験していただきたい。
4.女王陛下の到着
午後2時、スタンド前直線走路の向こう側に、エリザベス女王の乗った馬車が現れた。ロイヤル・プロセッションが始まる。昔はウィンザー城から馬車に乗って来たそうだ。つまり、女王がウィンザー城から競馬場に到着するのを待って、ようやく競馬を始めるというわけだ。だから、第一競走の発走が遅いのだ。
それはまた、女王の御召し物に全員が釘付けになる瞬間でもある。この日は、青空色のドレスにオレンジの帽子。なんと鮮やかな!帽子の色を賭けさせるブックメーカーがあったが、きっと万馬(帽)券に違いない。
女王を乗せた馬車は、メインスタンドの前をゆっくり通過する。マーチングバンドがGod Save the Queenを演奏し、一同が帽子を脱いでご挨拶する。
パドックをぐるっと1周して、女王が降車したところで、ようやく第1レースの馬がパドックに登場する。いよいよ競馬の開始である。
女王の観戦ブース。鮮やかな帽子のお陰で遠くからでもよくわかる。
5.レース開始!
ロイヤル・アスコット開催では、1日に6レースが組まれる。開始は遅いが、この時期のイギリスは日も長い(9時頃まで明るい)ので、焦ることはない。
レース自体は、通常開催とさほど変わるものではない。パドックの中も外も、トップハットと華やかな帽子で埋め尽くされるのが面白い。
パドックの観客席も、ロイヤル・エンクロージャーとそれ以外のエリアに分かれている。一般エリアは混雑しているが、馬の調子を見るには十分である。パドックの最前列に早い時間から陣取って、女王陛下の到着を待つことも可能だ。相当間近で見ることができる。
ブックメーカーも通常どおり馬券を売っている。£5か£10の単勝やガンバレ馬券を買って応援するのが、この国の競馬の楽しみ方のようだ。
この日、ロイヤル・アスコット開催3日目のメインレースはゴールドカップ(GⅠ)。2マイル4ファロン(4000m)という、日本の平地競走で最も長いステイヤーズステークス(3600m)よりさらに長い距離で争われるこのレースは、1807年から続いているというから、距離も長ければ歴史も長い、いかにもイギリスらしいレースである。
私の隣に立っていた美しいドレスの女性が、最後の直線で「○×号いけー」みたいな叫び声をあげていた。どの国でも競馬は楽しい。
長距離を走ってヘトヘトに疲れた馬と騎手が戻ってくる。優勝者には、エリザベス女王自らがトロフィーを授与するとのことで、パドックへ行ってみたが、関係者にもみくちゃにされてよく見えなかった。
6.レースの外で
レースを終えてスタンド裏に出ると、競馬そっちのけでおしゃべりに夢中な人がたくさん。ロイヤル・アスコットのもう一つの魅力は、多彩でおしゃれなお酒の数々だ。ワインにシャンパン、英国名物のピムス、もちろんエールビールも。イギリスのお酒の紹介は、また別の回に特集を組んでみたい。
優雅にアフタヌーン・ティーを楽しんでいる人たちもいる。競馬場の魅力はレースだけではない。巨大なピクニック広場、あるいはパーティー会場の真ん中で馬が走っているイメージ。
レースが終わっても帰る人は多くない。レース後にコンサートが行われる。パーティーはまだまだ終わらない。
第10回 英国コーヒー界の新参者 "Flat White"
イギリスは紅茶の国。と思って来てみたら、実は街中がコーヒー屋で溢れていた。地元の人々が飲んでいるのは、LatteやらMocaやら。東京とぜんぜん変わらない!と思いながらメニュー板をよく見たら、なにやら見慣れないものが。
その名は、"Flat White(フラットホワイト)"。カフェラテのようにカップのサイズが選べず、そしてすこし高い。これはいったい何なのか。試してみようではないか。
ということで、今回は、日本ではあまり馴染みのない"Flat White"を楽しみつつ、イギリスのコーヒーチェーンをご紹介していきます。
1.Flat Whiteとは何か??
"Flat White"をググってみると、これはいったい何か、ラテとはどこが違うのか、どうやって作るのかなど、 疑問とそれに対する答えがたくさん出てくる。やっぱりみんな不思議に思ってるんだね。
フラットホワイトは、オーストラリアやニュージーランドでは以前から飲まれていて、5年くらい前にイギリスへ持ち込まれたとのこと。アメリカに進出したのはほんの数年前。日本にはこれから入っていくのかも。
エスプレッソにミルクを注いで作るという基本的なコンセプトはラテと同じ。いまだにカプチーノとラテの違いも理解していないというのに、さらにバリエーションが増えたというわけだ。
ネット情報を辿ってみると、書いてあることが少しずつ違っていて余計に混乱するのだが、これをざっくりとまとめれば、フラットホワイトとはこういうもののようだ。
・ミルクの量がラテより少ないので、エスプレッソの味が前面に出てくる。
・ミルクを泡立てるときに、微小な泡(microfoam)を立てて、エスプレッソに注ぎ込む。その様子は「ベルベットのような(velvety)」と表現される。
さて、事前の勉強はここまで。いざ街へ出て、試してみようではないか。
2.Caffe Nero
いきなりビックリした!
カフェネロはイギリスのチェーン店だったんだ。イタリアから来た店だとずっと思ってた。だって、"The Italian Coffee Company"て書いてあるじゃないか。
気を取り直して。
カフェネロは、ロンドン中心部の賑やかな通りや駅前に数多く展開している。店構えは小さめで、商談の合間に時間を潰す風情のビジネスマンをよく見かける。テラス席でエスプレッソ1杯とタバコ1本吸って、すぐにまた出かけていくイメージ。
コーヒー豆はしっかりとローストされていて、濃い味わい。さすがに"Italian Coffee"を自認するだけある。
カフェネロは、イギリスに500店舗以上ある。他の国にも進出していて、世界全体で700店舗以上を展開しているようだ。
店の外も中も、かなりのFlat White押し。メニュー板には、手書きで欄外に付け足された形跡が。ブームが最近押し寄せてきていることを物語る。
じゃーん。カフェネロのFlat White。
エスプレッソの上にミルクをドバドバ入れるラテとは違って、エスプレッソの中にそっとミルクを注ぎ込む感じ。コーヒーに自分でスジャータを入れるとき、コーヒーが飛び散らないように、そっと注ぎ込むよね。あのスジャータがベルベット状の上品なミルクに置き換わったイメージ。
だから、フラットホワイトはサイズを選べないのだ。ラテのようにミルクの量を増やすことができない。
それでは飲んでみよう。一口めから、エスプレッソの味がガツンとくる。同時に、ミルクも入ってくるので、口の中に苦みが残ることはない。
これはうまいぞ。カフェネロご自慢の濃いエスプレッソが、さらに深い味わいとなった。早速、フラットホワイトのファンになりました。
2.Starbucks Coffee
スタバはイギリスにもたくさんあります。750店舗ほどあるらしい。
この国でもスタバは、ちょっとオシャレな雰囲気。店構えも一風変わったところが多くて、店内には若者が多い気がする。
東京でもそうだったけど、スタバに入るときには、「スタバに入っていく自分」を妙に意識したりして、なんか行動がぎこちなくなったりしませんか?そんなの俺だけかな。
イギリスにFlat Whiteを初めて持ち込んだコーヒーチェーンは、スタバだったらしい。2009年の暮れのこと。今ではメニュー板にもしっかりと載っている。
スタバのFlat Whiteは、エスプレッソ2杯で作っているようだ。たしかに味が濃い。
でもちょっと、ミルクが多いような気が。ラテアートが無いのは別にいいんだけど。ラテのダブルショットとの違いをあまり感じない。
フラットホワイトは、プラコップに入れるとミルクが上層に溜まってしまって、エスプレッソの中に「ベルベットのように」注ぎ込む感じが引き立たないのかもしれない。
3.Costa Coffee
さて次は、コスタコーヒー。イギリスでいちばんお店の多いコーヒーチェーン。その数は1700店舗を超える。ヨーロッパ大陸でもよくみかける。世界中に3000店舗ほどあるとのこと。
郊外にもたくさんあって、店内も広く、地元民の憩いの場となっている。私の家の近くのコスタは、週末になると中東系の移民がたくさん集まってきて、あちらこちらで賑やかに親交を深めておられます。
ちなみに余談ながら、コスタは高速道路のドライブインにも必ずある。通路の右側にコスタの店舗。左側にもコスタの店舗。
外に出ると、またコスタの店舗。ダメ押しで、コンビニの中にもコスタの自販機。いくらなんでも、コスタ多すぎない?
さて、本題に戻ろう。
フラットホワイトは、メニュー板のいちばん上に書いてある。コスタでは、スタバより少し遅れて2010年からイギリス全土に展開しているとのこと。
早速フラットホワイトを注文。バリスタのお姉さんが真剣な顔つきにかわった。エスプレッソに、そおっとそおっと、ミルクを流し込む。途中で何度もミルクのカップを台に置いて、トントンと底を揺さぶる。これが「ベルベット」を作り出す秘訣なのかも。
コスタのフラットホワイト。店内用も持ち帰り用も、見事な出来栄え。この1杯にかけるバリスタの情熱が、ラテアートに浮かび上がっている。
エスプレッソの深い味わいが、ベルベットのように柔らかなミルクとともに口の中に流れ込んでくる。これがフラットホワイトの醍醐味なのだろう。
満足しました。ごちそうさま。
第9回 イギリスで買える日本食材(生鮮品編)
イギリスのスーパーマーケットにはいろんな野菜や果物が並んでいるけど、日本でお馴染みの食材とはちょっと違うな、と感じることはよくある。和食にはやはり日本の食材を使いたいところだが、果たしてイギリスでどれだけ日本食材が手に入るのか。
TESCOやSainsbury'sなどの現地系スーパーマーケットで手に入る日本食材は、大型店のアジアコーナーにほんのすこし並んでいる味噌や海苔くらい。生鮮品にお目にかかったことは一度もない。
日本食材のバラエティを求めるなら、Japan CentreやTK Trading、Atari-yaといった日系のお店に行くしかない。それでも店頭に並ぶ生鮮品の種類は限られている。
なぜ生鮮品が手に入らないのか。その原因は以下の3つに分類される。
①検疫上の理由などにより、日本から英国(あるいはEU)への輸出が禁止されている。(豚肉など)
②日本からの輸出時に商品を検査したり、日本で生産施設の認定を受ければ、英国への輸出は可能であるが、そのために必要となる多大な手間(コスト)をかける業者がいない。(ミカン、魚など)
③日本から英国への輸出に特に制度的な障壁は無いが、輸送時に傷んでしまったり、そもそも値段が高すぎて売れないといった問題があって、実際にはほとんど輸出されない。(イチゴ、メロンなど)
このように、課題は山積みではあるが、それでもなんとかイギリスまで辿り着いたいくつかの商品をご紹介していきたい。
1.野菜
野菜の多くは、日本から英国へ輸出するのに特別な検査や認定は必要とされない。日系スーパーをよくよく観察すれば、実際に日本産の野菜は少量ながら入ってきていることがわかる。
キュウリやカボチャ、イモ類などは、現地系スーパーで類似の商品を見かけるが、やはり日本産とは品種が違っていて、和食の食材として使うとなると違和感は否めない。日本産が欲しければ、日系スーパーに走っていって、ちょうど入荷されていることを祈るしかない。
今晩は鍋かなと思ったとき、現地系スーパーで野菜を揃えられるか。ほうれん草やレタス、クレソンなどの葉野菜は手に入るけれど、さっと湯通ししてポン酢で食べられるような野菜は少ない。中華系スーパーではハクサイなども見かけるが、ミズナのような柔らかい葉野菜は日系スーパーでないとなかなか手に入らない。
シイタケは最近のマッシュルームのブームに乗って、ヨーロッパでも多く作られているようだ。でも、日本産シイタケのような肉厚な商品にはお目にかかれない。
大葉やわさびは、もともと英国の食生活には登場しなかった食材であるが、ハイエンドな日本料理店では見かけるようになってきた。イギリスのお金持ちの間にも浸透していくことを期待したい。
2.果物
果物は、病害虫を拡散させるリスクが高いため、輸出の際に検査が必要となるなど、手間がかかるものが多い。それでも、イギリスへの輸出が可能な商品はたくさんある。あとは、コストの問題さえ解決できれば、、、
柿や梨は日本での輸出検査が必要であるが、イチゴやメロンは検査不要。いずれも、英国への輸出は可能なのに、なかなかスーパーの店頭には並ばない。果肉が軟らかくて傷みやすいという輸送面での課題も大きい。品質の高い日本産の果物に、ぜひとも南欧産と店頭で勝負してもらいたいものだ。
ミカンなどのかんきつ類の輸出は特に難しい。病害虫のまん延を防ぐため、登録された生産農園や選果施設からしか輸出ができず、このような登録を受けた農園・施設は日本国内にほとんど存在しない。(高知県北川村のユズ農園・施設くらい)
3.水産物
魚や貝などの水産物は、認定・登録された施設からしかEUへ輸出できない。これは、EU域外から持ち込まれる水産物とEU内で流通する水産物との衛生管理のレベルを合わせるため。
EUへ水産物へ輸出するためには、卸売市場や水産加工施設などがEUの求めるHACCP基準(衛生基準)を満たしている必要がある。EUの要求する衛生管理のレベルは高く、例えば築地市場で売買される魚はEUへは輸出できない。
このため、イギリスのスーパーで見つけられる日本産の水産物の種類はかなり限定されている。
日本産の冷凍ホタテは世界中で人気が高く、輸出体制も確立している。イギリスにもかなり入ってきているようだ。そういえば昔、アメリカでお馴染みのTrader Joe's の棚に並んでいるのを見つけて、びっくりしたことがある。
水産加工施設の認定は、魚種や加工品目ごとに行われるので、輸出できる魚種の幅がなかなか広がらない。これまでに加工施設が認定されて輸出可能となった魚種は、ホタテ、ブリ・ハマチ、サバ、マグロくらいか。
日系スーパーで扱われている魚も、多くは日本からの輸入品ではなく、世界中の海から集められている。そもそも日本でも、寿司ネタのほとんどはノルウェー産だったりインド洋産だったりするわけなので、水産とはそういう世界なんだろう。海はつながっているしね。
4.肉類
肉類で日本からEUへ輸出できるのは牛肉だけ。豚・鶏肉や肉加工品、卵などは、すべて輸入禁止となっている。BSEや口蹄疫、鳥インフルエンザなど、いったん国内に持ち込まれると大打撃を食らうので、いずれの国も輸入には非常に慎重だ。
和牛肉は、値段は高いが日系スーパーで手に入る。ちなみにHarrod'sでも手に入る。和牛を日本から輸出するには、認定を受けた施設で加工しなければならず、このような施設は日本全国に数か所しかない。
和牛は日本でもお高いが、ロンドンではさらに高い。なお、横に並んでいる和州牛はオーストラリア産。ブリティッシュレストランなどでも、"Wagyuバーガー"などがメニューに載っていることがあるが、オーストラリア産であることが多いので、店員に尋ねた方がいい。お値段は和牛に比べればお手頃。
肉エキスなど、加工食品の原材料として使われる食材も、日本からの輸出は禁止されている。イギリスで販売されているカレールゥの原材料を見れば、肉エキスが含まれていないことがわかる。
以上、いろいろと食材を見てきた。あれっ、こんなものも輸入できないのか。と思うものも多いけど、まずはそのことを知った上でスーパーの棚をチェックしてみよう。食品業界のみなさんの努力の成果が見えてくるよ。
第8回 喧噪の街 愛しのEdgware Road
最近、引越しました。
これまで約半年、St John's Woodに住んでいました。とても静かできれいな住宅街。
ところが、そこから10分も歩いたところには、アラブ人の街、Edgware Roadが広がっているのです。センジョンとは打って変わって、昼も夜も人々がたむろし、店の明かりが消えない賑やかな街。
自分は、閑静な住宅街よりこっちの街の方が性に合ってたかも。ということで今回は、私の思い出アルバムの意味も込めて、愛すべきこの喧噪の街をご紹介します。
Edgware Road (エッジウェアロード)は、観光スポットのMarble ArchからSt John's Wood Roadまで、2マイルくらい続く道路沿いにいろんなお店が並びます。
どの店も、看板には必ずアラビア語が。たまに英語が見当たらない看板もあって、何を売ってるのかぜんぜんわからん!
レストランにはテラス席(歩道にはみ出してテーブルと椅子が並べてあるだけにみえるが、、)があって、水タバコの甘い香りが街を覆っています。おじさんたちが幸せそうに水タバコを吸ってるのをみると、いちど試してみたくなるなあ。
通りの中間地点にEdgware Roadという地下鉄の駅があります。これがまた、路線ごとに駅の位置がぜんぜん違っていて、しかも地下でつながっていない!ろくに案内板もないという、この街らしいグチャグチャな駅なので、来てみたいという方は要注意。
あと、この街の名物?といえば、歩行者の道路横断。片道2車線の広い道路を、老若男女が昼夜を問わず横切ります。彼らには、信号とか横断歩道とかあんまり関係ないみたい。夜中にこの道路を運転するときとか、マジで怖いよ。
さて、次はこのブログの趣旨にそって、Edgware Roadの食にスポットを当てましょう。
1.食料品店
この街には、小さな食料品店がたくさんあります。どの店も、野菜や果物が溢れんばかりに店先に並んでます。看板は当然アラビア語。
中に入ると、ピクルスの瓶がズラリ。アラブ人はきっと野菜が好きなんだな。イギリス人にも見習ってもらいたいよ。
何かを安売りしてたけど、肝心の品名が読めない!
別の店も覗いてみました。店の奥にはハラル対応の肉売り場。私たちには普通の肉屋との違いを見分けることができないけれど、ここの人々にとっては大事なことなのです。
2.チャーチストリート・マーケット
ロンドンにはオシャレなストリートマーケットがいくつもあって、地球の歩き方に載ってたりして日本人にも人気ですが、このマーケットはまったくオシャレじゃない!
毎日朝から昼過ぎまで、500mくらいの道路を封鎖して、古着やガラクタ(失礼。)、生鮮食品などのテントが並びます。いつも賑やかだけど、日本人どころかイギリス人の顔もあまり見ないな。
マーケットのテントでいちばん目立っているのが、魚やさん。発泡スチロールの中にたくさんの種類の魚が並んでます。店の裏ではお兄さんたちが魚を捌いてる。こんな人ごみの中で… とても気になるけど、買う勇気がでない。。
3.レストラン
Edgware Roadにはたくさんレストランがあります。どの店も、夜中まで家族連れやグループがワイワイやっていて、大変繁盛している様子。
えっ?アラブ人の女性は戒律が厳しいから、レストランに入れないんじゃないかって?ええ、彼女たちはロンドンでも街へ出るときは必ずブルカを被ります。そうやって戒律を守って、そしてレストランで友達同士で楽しく談笑していますよ。
シシカバブのお店。テイクアウェイができます。£8くらいだったかな。とても美味しかったので皆さんにも紹介したいけど、店の名前が長くて読めないのが残念。
焼きトマトと焼きししとう、それと山盛りのサラダにサルサ、ナンのようなパンとフライドライスがセットでついてきます。まるで日本の焼肉定食みたい。こうやって、肉・野菜・炭水化物をセットで提供する習慣は、ヨーロッパには無いよね。アラブは日本から遠く離れた地域だけど、同じアジア圏の食文化というところで、実はつながっているのかも。
この街にはチキン屋が多いのも特徴。この店もハラル対応してます。フライドチキンとチップスで£2.5は破格の安さ。味もしっかりついていて、ビールのおつまみに最適。
Cafeという名のケバブ屋さん。夜中まで客足が絶えません。チキンとラムを選べます。£5で大量の肉を包んでくれるから、これだけでもうお腹いっぱいだ。
以上、Edgware Roadのご紹介でした。半年通っていたくらいでは、この街の奥深さにまだまだ到達していないと思うけど、なにか、日本の下町の光景をみている気がしました。月島あたりとイメージが被るかも。
特に食べ物に関しては、野菜や炭水化物を大事にしていることや、味付けがしっかりしていることなど、我々のB級グルメと近しいものを感じるね。
私の愛しのEdgware Road。新しい家からはちょっと遠くなっちゃったけど、また訪れてみたいと思います。いっしょに探検してみようという勇気のある方、募集中です!
第7回 イギリスのおいしい朝ごはん
「イングリッシュ・ブレックファスト」という料理を知っていますか?
『イギリスで美味しい食事がしたければ、1日に3回朝食を取ればいい』 "To eat well in England, you should have a breakfast three times a day." (Somerset Maugham) という有名なフレーズには、昼にサンドイッチ、夜はパブでビールとチップスという質素な生活を送っていると、心から賛意を表したくなります。
ロンドンを一人で訪れたけれど、レストランでおひとりさまディナーはちょっと敷居が高いな...という方でも、朝のカフェなら気軽に入れるのも嬉しい。
今回は、そんな愛すべきイギリスの朝ごはん達のご紹介です。
1.フル・ブレックファスト
イギリスにやってきたら、まずは朝のカフェに入って「フル・ブレックファスト」(イングリッシュ・ブレックファスト)を注文してみたいところです。
私が渡英して初めてひとりで入ったお店がここ。ホテルの近くにあった "Cafe Concerto" というイタリアっぽい雰囲気のチェーン店ですが、お昼まではイングリッシュ・ブレックファストを出しています。
中を覗くと、一人でコーヒー飲みながら新聞を読んでるおじさんもいて、東京のカフェと変わらない様子。メニューもわかりやすい。
勇気を出して"English Breakfast, please."と頼んでみました。そして出てきたのがこれ。
目玉焼き(Fried egg)とソーセージにベーコン、焼きトマトとハッシュドビーフ、焼いたマッシュルーム、ひよこ豆のトマト煮とカリカリ焼いたパン。大変ボリュームのある朝ごはんでした。今日はこれで十分満足。昼飯の心配をする必要もなくなった!
イングリッシュ・ブレックファストは、こうして私のお気に入りとなり、その後もいろんなお店で試してみることに。
さすがに定番中の定番メニューだけあって、どの店に入ってもほぼ同じ顔触れ。すこししょっぱめの味つけもほぼ同じ。
付け合わせをどれにするかとか、焼き方をどうするかとか、ゴタゴタ聞いてこないのも楽ちん。(パンをホワイトにするかブラウンにするかは聞かれることがある。)
味音痴のくせに値段だけやたら高いレストランにぶち当たって、後悔することの多い日々にあって、これだけはいつも安定した出来栄え。やはり伝統の味なんだな~。
イギリスに着いたばかりでどこへ行けばいいかわからない方、英語に自信がなくてレストランに入る勇気のない方、朝ごはんにイングリッシュ・ブレックファストを食べて、元気をつけてロンドン見物に出かけましょう!
ちなみに、スコットランドのエジンバラで食べた朝ごはんがこれ。フル・スコテッィシュ・ブレックファストと書いてあって、スコットランド名物のハギス(羊の内臓のミンチ)を固めて焼いたもの(トマトの左下。その右側はブラックプディング)が付いてきました。いろいろ工夫されているものの、基本的なコンセプトはイングランドと変わらない感じ。
2.その他の定番メニュー
ロンドンのカフェの朝のメニューは、フル・ブレックファスト以外にもいろいろあります。でも、ラインナップはだいだいどこでも同じ。
いま住んでるアパートの近くにあるカフェ。これまたイタリア系。イギリスのカフェ、もっと頑張れ~。
左はスクランブルエッグとスモークサーモン。右はマフィンの上にポーチドエッグとハムを乗せたエッグ・ベネディクト。酸っぱめのオランデーズソースがかかっているのが特徴です。
ポーチドエッグの中身を開けると、半熟の黄身がトロリ。
エッグ・ベネディクトで卵の下敷きになっているハムをほうれん草に替えると、エッグ・フロレンティーナになります。写真は、ほうれん草がグラタン風になって出てきたもの。さすがイタリア人シェフ。料理に情熱を感じるな~。
さらにこの下敷きをスモークサーモンに替えると、エッグ・ロワイヤルとなります。食材を一つ変えるだけで別の料理になるなんて、ちょっとオシャレじゃないですか!
それで、ここまで見てきたまとめの感想をひとつ。イギリスの朝ごはん、食材がすごく限られているような。パン、卵、ハム、サーモン、ほうれん草、ソーセージ、ベーコン、ポテト、マッシュルーム、トマト、ひよこ豆。これくらいの食材を使って、調理方法と組み合わせを工夫していろんなメニューを作る。それがイギリスの朝ごはんの素性なんだなと、至極納得。
3.番外編
これ何だかわかりますか。お粥かな?いやいや、甘い。いや、考えが甘いとかじゃなくて、味が。
中に入っているのはオーツ麦。アメリカではオートミールと呼ばれますが、こちらでは「ポリッジ」"porridge"と呼びます。
ポリッジがお粥とは異なるポイントは、『甘い』こと。どうして甘いかというと、オーツ麦を水ではなく、牛乳で煮ているから。いや、それだけでは甘くないね。牛乳お粥の上に、ハチミツとジャムをどびゃーとかけるから。
この甘い牛乳お粥が、ロンドンの若者に人気のヘルシー朝ごはんなんだそうです。
ロンドン市内に多数展開するサンドイッチショップの"Pret A Manger"にも、朝はポリッジがずらりと並んでました。
ひとつ買って開けてみると、やはりオーツ麦の牛乳煮。ハチミツをドビャっとかけて食べます。甘い。お粥にはやっぱり塩かけて食べたいんだけどな。。
ああそうか、お粥だと思うからダメなんだ。牛乳を使うという意味では、お粥というよりも、コーンフレークに近いのかも。そう考えると、この甘さにも少しは納得できるかな。。。。
やっぱり俺は納得できねえ!!!
第6回 イギリスの田園風景
英国の首都ロンドンは、新旧の建物がひしめき合い、あらゆる人種が行き交う雑然とした街であるが、ここロンドンから車を郊外へ2時間も走らせれば、景色は一変する。
なだらかな丘を覆う一面の緑と、日がな草を食む羊や牛たち。こののどかな光景こそが、実はイギリスの多くの地域に見られる代表的な田園風景なのだ。
「田園風景」という言葉は、イギリスの田舎(Countryside)の描写としてよく使われるが、イギリスには田んぼが無いから、放牧地とじゃがいも畑が延々と広がっている光景を「田園」と称するのは若干ミスリーディングな気もする。
いずれにしても、英国の原風景ともいえるこの緑の丘から、私たちは、この国の奥深い歴史を学ぶことができそうなのだ。今回は、その第一歩を踏み出してみようと思う。
1.農地を取り囲む垣根
車を田舎に進めると、道は徐々に細くなり、対向車がすれ違うのも困難な道幅となってくる。そんな道の両脇には、高さ3メートルもありそうな生け垣が必ずそびえ立っていて、運転手の視界をさらに狭めてくる。
また、農地と農地の境目や、後で説明するフットパスと農地の間に、立派な石垣が組まれていることも多い。
(NFU HPより)
これらの 垣根は、農地をぐるりと囲んでいて、遠くからみても農地の境界が一目瞭然となっている。日本と違って一区画の農地面積がだだっ広い(農家1戸当たり農地面積は30倍以上!)から、一つの小高い丘を数枚のブロックに区切っているイメージだ。
垣根は、放牧された羊たちが外へ出ていかないように、部外者が農地に侵入しないように、しっかりと張り巡らされている。生け垣の保全に尽力する団体の情報では、英国内に40万km以上の生け垣があるそうだ。(出典:Hedgelink)
ああ、これがあの、歴史の教科書にむかし出てきた「エンクロージャー」(囲い込み)の結末なのね!などと勝手に感動していたが、なんだかどうも、何千年も前から農地は垣根で囲まれていて、英国の風物詩となってきたらしい。エンクロージャーによって新たに設置された垣根はほんの一部だとのこと。
イギリスの農地は、中世以前は開放耕地制(オープンフィールド)だったとか、16世紀と18世紀のエンクロージャーで多くの農地が囲い込まれたとか、俺に教えたやつ、ちょっとロンドンまで来い!
道路を走っていると、両脇に延々と生け垣やフェンスが続いていて、その向こう側に羊や馬が放牧されているのが見えるわけだが、あるとき、生け垣が突然途切れて、羊さんたちが道路脇にまではみ出している場所に出くわした。
なんだこれ、危ないじゃないか!と思って、なぜここにだけ垣根が無いのか、現地のおじさんに聞いてみた。
”ああ、ここはCommon Land だからね。”
おおおおおっっっ!!これが、あの「コモンズ」なのか!!!
私の感動を皆さんに伝えるのは難しい。私がむかし仕事で携わった「入会地」。日本の学者先生たちが好んで議論したがる「コモンズ」。それがいま、俺の目の前に広がっている!
すこし解説すると、コモンランド/コモンズ、日本語でいう入会地(いりあいち)とは、村人たちが共同で管理し、それぞれが自由に出入りして、英国であれば勝手に羊の放牧をしていい場所。日本ならシイタケや薪を取っていい場所をいいます。かなり古いデータだが、1989年時点で136万エーカー(54万ha)も残っているらしい。
単に勝手に入っていいよ、と言うだけでなく、それが村人たちの「権利」として確立しているところに、社会の成り立ちの複雑さが見え隠れする...
やっぱりうまく伝えられないや。今回のレポートは、羊さんたちが道路脇まではみ出してきていて、運転しているとヒヤリとする場所がある、というところまで。その先の解説は、私がもっと勉強してからご報告します。
2.フットパス
イギリス人はウォーキングが大好きだという話をよく聞く。田舎に行くと、たしかに必ずといっていいほどフットパス(遊歩道)が整備されている。
「遊歩道なんて、日本にもいっぱい整備されているよ」
いやいや、ここが違うんだな。「整備されている」というが、イギリスのフットパスは実はあんまり整備されていない。なになに、何言ってるの??
日本で遊歩道といえば、歩道がコンクリで固められて、両側を安全柵が囲んでいて、ところどころにベンチやら観光案内やらが置かれているイメージだが、英国のフットパスは、林の中の自然に踏み固められた獣道みたいなもの。たまに迷子にならない程度に、ドングリマークの標識が出ているくらい。
なんだ、そんなもんか。とガッカリしないでいただきたい。何の珍しさもないように見えるこの獣道みたいなものから、イギリスの社会と歴史が垣間見えてくるのだ。
下の写真をご覧いただきたい。フットパスを遮るように柵が設置されている。そう、この柵の向こう側は私有地なのだ。
フットパスの多くは、私有地を次々と横切って伸びている。だから、次の私有地に入るところには柵があって、頑丈なカギが掛けられている。何者かが柵を開けて羊を逃がしたりしないようにするためだ。
一方で、この柵には、フットパスを歩く人々が通り抜けられる工夫が施されている。2枚目の写真は、ロックをカチッと開けると扉が小さく開いて、すぐにまた元通りにロックされる仕組みだ。3枚目は、踏み台を登って柵をヒョイっと越えることができるようになっている。
なぜこんなに面倒な柵を作るのか。それは、フットパスが、市民の歩く「権利」を実現するために整備されているからだ。
誰だって、自分の土地に他人が入ってくるのは嫌だ。そのせいで、自分の持っている羊が逃げてしまうなんてもってのほかだ。しかし、地主たちは、長年にわたる権利闘争によって市民が得た「歩く権利」を保障しなければならない。その利害のせめぎ合いの結果が、こんなに奇妙複雑な柵の形状に表れているのだ。
コモンランドといい、フットパスといい、のどかな田園風景からは想像し難い、長い歴史と権利調整の過程が刻み込まれている。英国の土地を巡る長い歴史をたどる旅は、まだ始まったばかりだ。