ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第22回 速報 オープン・ファーム・サンデー開催!

6月11日、年1度の農業イベント'Open Farm Sunday'(オープン・ファーム・サンデー)が開催された。

Open Farm Sunday とは、普段は都市住民との交流もない一般の農家が、年に1度だけそのゲートを開放し、農業の現場を見てもらうことで、消費者との距離を近づけようというもの。

2006年に始まり、今年で12回目となるこの取組は、英国全土で300以上の農家に20万人以上の市民が訪れる大掛かりなイベントとなっている。

Open Farm Sunday Logo

 

<農家訪問>

今年のオープン・ファーム・サンデーに家族を連れて訪問したのは、ロンドン郊外にある'Road Farm'。

Road Farm Countryways

Greater London(大ロンドン都)の外周を囲むM25(東京外環道のような高速道路)を越えると、風景は急に緑一色となる。開発が厳しく制限されているグリーンベルト地帯に入ったからだ。ロンドンの中心から1時間も経たないのに、既に静かな田舎のたたずまいとなっている。

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道路沿いの小さな看板を見つけて砂利道へ入る。開放された丘の上に車が30台ほど止まっていた。'Open Farm Sunday'のロゴマークと、小さく手書きされた'Road Farm'の文字を見つけて、間違いなく目的地にたどり着いたことを確認する。 

入り口におばさんが立っていて、農場の見取り図をくれる。入場料は無料。このイベントではお金儲けをしないことが原則だ。

 

f:id:LarryTK:20170612072804j:plain f:id:LarryTK:20170616154948j:plain 絵心あるね

この農家の経営耕地面積は約100ha。イギリスの農家の平均耕地面積が70haくらいだから、中規模程度の農家ということになる。どのくらいの広さかというと、見渡すかぎり丘のてっぺんまで全部が自分の農地という感じだ。

 

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農地の広さに比べると、家畜を飼っている畜舎は意外と簡素で小さい。つがいの牛が一組と子牛が2頭。羊の数も同じ程度か。。と思ったら、大間違い!!

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私が見たのは繁殖用の畜舎だった。残りの家畜は広大な牧草地に放し飼いされている。牛40頭に羊300頭いるそうだ。

 

農家のおじさんが、家畜を育てる苦労を一所懸命説明してくれる。最前列に陣取った子供たちにも何かが伝わったはずだ。

f:id:LarryTK:20170612072357j:plain f:id:LarryTK:20170612072444j:plain 鶏小屋で本物のエッグハント

蜂の生態を教えるおばさんや様々なパンフレットも用意されていて、このイベントが農業教育の場として高いレベルを実現していることがわかる。

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畜舎の一角が緑のカーテンで覆われている。フォークリフトがうまく使われているなどと感心しながら中を覗くと、、

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こどもアーチェリー会場。本格的な矢がビュンビュン飛び交う。親にイヤイヤ連れて来られた子供たちも、これで大満足だ。

 

こちらの農家では、牧草地の他に、畑で小麦とライ麦を栽培している。どちらも栽培面積はさほど大きくない(日本の農家よりはるかに大きいが)ので、市場に出荷するというよりも、主に自家用の家畜の餌となるのだろう。

 f:id:LarryTK:20170612072540j:plain f:id:LarryTK:20170612072632j:plain ライ麦畑。風が通るたびに緑が波打つ。

f:id:LarryTK:20170612072912j:plain 小麦畑。大麦・小麦・ライ麦の違いは、穂が出るまではほとんど見分けがつかないそうだ。

 

大自然の中で自由気ままに農業を営んでいるようにみえるが、実はイギリスの農業は非常に緻密だ。

ライ麦と小麦を栽培しているのは、環境にダメージを与えないための作物ローテーションの一環。牧草地の外周には一定距離以上の緩衝帯を設け、小鳥が巣作りする季節には生垣を刈ることができない。

f:id:LarryTK:20170615152252j:plain 細かく描き込まれた営農計画図

 

<散歩道> 

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小麦畑を散歩していると、ドングリマークのついたゲートを発見。これは例のfootpath(フットパス)の入り口じゃないか!まさか畑のど真ん中で出会うとは。

larrytk.hatenablog.com

小麦をかきわけるように細い道が続いている。footpathは、常に人が通行できるように整備しておかなければならない。これは広大な土地を占有するイギリスの農家の果たすべき社会責任なのだ。

f:id:LarryTK:20170612073041j:plain 「小麦畑でつかまえて♫」

footpathは小麦畑を突き抜けて、さらに先に続いていた。踏み台を使って策を乗り越えると、、

f:id:LarryTK:20170612073141j:plain f:id:LarryTK:20170612073235j:plain 「止まれ!見ろ!聞け!」

なんと、列車の線路に達していた。そしてfootpathは、踏切の無い線路を横断して、その先の畑の中へ続いていく。。

f:id:LarryTK:20170612073340j:plain 線路内無断立ち入りじゃないよ。

 

散歩を終えて戻ってきた頃にはお腹がペコペコ。ホットドッグがおいしいよ!という声につられて購入。

f:id:LarryTK:20170612072234j:plain f:id:LarryTK:20170612072112j:plain ぱさぱさパンに焦げた豚肉ソーセージがゴロン

イギリスの味を強く噛みしめながら美味しくいただいた。

 

<まとめ>

以上が、今年の現場からの報告。昨年訪れた農家では、トラクターの後ろに乗って畑を一周したりして楽しんだが、今年の農家はこじんまりとしていて、これまた非常に面白かった。

農家にとって、都市の住民を敷地内に迎え入れるのは、とても勇気のいる行動に違いない。家畜に害を及ぼさないだろうか、子供が怪我したりしないか、畜舎が汚いなどと非難されないだろうか。不安はたくさんあるだろう。

オープン・ファーム・サンデーを主催するチャリティ団体のLEAF(リーフ)では、イベントに参加する農家に対して、無理をせずできる範囲で市民を受け入れるようアドバイスしているという。不安が大きければ、開放時間を限定したり、立ち入り禁止区域を作ったり、宣伝を控えめにすればいい。人数を限定したツアーを組んでもいい。

LEAFから農家に補助金が出るわけではない。農家からの相談に丁寧に対応し、農家のやりたいことをHPに掲載し、都市住民に向けてPRすることで、農家と都市住民の距離を縮めていくことがLEAFの役割だという。とても柔軟なアイデアだと思う。

いつか日本でもこんな取り組みが広がればいいなと思いながら、来年のオープン・ファーム・サンデーの日付け(2018年6月10日)にしっかりとチェックを入れて、今回の報告はここまで。

第21回 英国のファームショップ巡り

イギリスの田舎道をドライブしていると、 "Farm Shop(ファームショップ)はこちら" という看板に出会うことがあります。

日本の「農産物直売所」に近い形態ですが、イギリスのファームショップは、農場を散策できたり、レストランが併設されていたりと、施設も充実していてバリエーションもずっと豊かです。そして、どのファームショップも、地元の人たちで大いに賑わっているのです。

そんな魅力たっぷりのイギリスのファームショップに、ぜひ立ち寄ってみましょう。

 

1.北西イングランドのコミュニティ農場

陶磁器のWedgwoodで有名なStoke-on-trent(ストーク・オン・トレント)へ向かう途中、ファームショップを探してちょっと寄り道してみました。

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ここ、"Fordhall Farm"(フォードホール農場)と名付けられた農場は、隣接する工場の拡張に抗うため、一口オーナー活動を展開し、10年前に8000人の地主に支えられる農場となったとのこと。

早くからオーガニック農法にも取り組んできたというこの農場は、イングランド初の「コミュニティ農場」として活動が注目されています。

f:id:LarryTK:20170531151325j:plain 活発なコミュニティ活動

 

まずはファームショップを覗いてみます。

f:id:LarryTK:20170529161136j:plain f:id:LarryTK:20170531151245j:plain ニワトリがお出迎え

さすがオーガニックに長年取り組んできただけあって、地元で収穫されたオーガニックのキャベツやキノコ、ジャガイモなどが並びます。周辺の農家からも農産物を仕入れている模様。地域密着型の流通経路が出来上がっているのでしょうか。

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精肉コーナーには、「この農場の牧草地に一年中放牧して育てた」との表示。肉製品に対するこだわりの強さが伝わってきます。

 

では、農場へ出てみましょう。

f:id:LarryTK:20170531151134j:plain 木戸の向こう側が農場

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木戸をくぐった先は、豚が徘徊する放牧地。デコボコで水たまりだらけの牧草の上を歩いていくと、ずっと奥に羊の群れが見えます。どこまでが農場の敷地なのかぜんぜんわからんです。

f:id:LarryTK:20170602154936j:plain はるか遠くに羊の群れが見える

農場散歩を終えて、カフェで休憩。

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店員もお客さんも地元の人たちのようです。地域のコミュニティにしっかりと支えられているんですね。私たちも紅茶とケーキを注文してコミュニティに少しだけ貢献させてもらいました。

 

2.湖水地方の歴史保存農場

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観光地として有名な湖水地方へ遊びに行ったついでに、近くの "Old Hall Farm" (オールドホール農場)へ寄ってみました。看板には 'Historic Working Farm'(歴史的動態保存農場)とあります。いったい何があるのかな。

 f:id:LarryTK:20170528160338j:plain 快晴の湖水地方

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Shopというほど商品は並んでいなくて、代わりにいろいろな味のアイスクリームがずらり。ここで作っているようなので、とりあえず1つ買って味見を。

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素朴な味がしてうまい!

隣ではチーズ作りの実演もやってました。手作り感満載ですね。

 

それでは中へ。

この農場の売りは、動態保存されている農業機械の数々。100年前の蒸気トラクターや耕運機がまだ動ける状態で保存されています。

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これがまた、ビックリするほど大きい!正面からみると、蒸気機関車が並んでいるようです。一日に50エーカー(20ヘクタール)を耕せると説明してあります。

「イギリスは農場が大規模化しているので、トラクターの大型化も進んでいる」と思っていましたが、少し理解が足りなかった模様。イギリスのトラクターは100年も前からとても大きかったのでした。

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そのほかにも、70年前の籾摺り機やロードローラーなどが現役で動いていました。古いものを大切にするイギリスならではの光景ですね。

 

そろそろお腹が減ってきたので、ここでランチを。広場では家族連れがサンドイッチなど広げていました。絶好のピクニック日和ですね。

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ハンバーガーには地元産の豚肉を使用している模様。野菜もたっぷりでおいしくいただきました。

f:id:LarryTK:20170528160503j:plain ニワトリが分け前を要求しにきた

 

3.コッツウォルズのガーデンショップ

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コッツウォルズをウロウロしていたら、 'Farm Shop' と書かれた建物を見つけたので覗いてみました。"Lowden Garden Centre"(ローデン・ガーデンセンター)という看板をめがけて、車が次々とやってきます。

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野菜や果物がたくさん並んでいます。ただ、どこで採れた農産物なのかよくわかりませんでした。コッツウォルズは野菜生産が盛んというわけでもないので、他の地域から運んできたものも多かったかも。

ここの精肉コーナーにも「肉製品はすべて地元産」の掲示があります。どの農場も家畜を大切に育てているんですね。イギリスの農業がいかに畜産物を中心に成り立っているかがわかります。

 

ファームショップの隣は、ガラス張りの大きな温室のようです。車でやってきた人々が、みんな温室の中に入っていきます。

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温室の中を覗いて納得。ここはレストランになっていました。ガラス屋根から差し込む太陽光、テラス席のようなテーブル配置、そこに覆い被さってくる鑑賞樹。

ぜんぜんゴージャス感はないけれど、「自然の中にいる」みたいな感覚がイギリス人にウケているようです。老夫婦がゆっくりとお茶を飲んでいる姿がたくさん見えました。

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それでは私たちもランチにしましょう。ランチメニューが黒板に書かれていて、これが読みにくい!

解読できた範囲でいうと、レストランでも地元産の肉料理がウリとなっているようです。スペアリブのメニューにも 'Lowden' の冠がついているので、きっと地元産の豚が使われているのでしょう。もっとはっきり書けばいいのに。

 

巨大なスペアリブに大満足してレストランを出ると、隣のスペースでは植物の苗や庭の資材を売っていました。日本でも、郊外型ホームセンターの奥にガーデンコーナーがありますね。それと同じ雰囲気です。

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そういえば、この店では野菜や苗をいろいろ売っているけれど、周囲には農場が見当たりません。そもそも店の名前が「ガーデンセンター」ですからね。植物の苗を売るガーデンコーナーがこの店のメインで、そこにレストランとファームショップがくっついているというのが、この店の正しい理解なのでしょう。

 

田舎好きの英国人にとって、緑あふれるファームショップは週末の絶好のお出かけ先なのでしょう。ファームショップに併設されているレストランやカフェは、とりわけ人気があるようです。

コッツウォルズで立ち寄ったお店のように、農場とは直接のつながりのないホームセンターのガーデンコーナーみたいなのにオシャレなレストランがくっついている形態は、あれ以降もロンドンの内外でいくつも発見することになりました。なぜこの組み合わせが英国人にウケているのか、分析はまた後日に。

第20回 "Free From"食品はどこへ向かっているのか?

イギリスはベジタリアンの多い国だ。動物の殺生を避けるために、肉や魚を食べず、植物性の食品だけで生活していこうとする人たちだ。

ロンドンのレストランには必ずベジタリアンメニューが用意されているし、スーパーにはベジタリアンコーナーがある。ある統計では、英国人の2%、100万人以上がベジタリアンだとされている。

話は変わるが、スーパーでグルテンフリーの食材を見かけたことがあるだろうか。小麦アレルギーやグルテン不耐性の人々向けの食品だ。イギリスでは新商品が次々と開発され、これらの体質をもつ方々でも豊かな食生活が送れるようになっている。

この一見何のつながりもないようにみえる二つの食生活が、いまイギリスで緩やかに結びつきつつある。今回は、そんな時代の最先端をいく英国食事情を追う。

 

1.自然食品展示会にて

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"Natural & Organic Products Europe" という英国最大の自然食品展示会には、キヌアフレークやらトーフバーガーやら、世の中の自然食品が一同に会するのでとても楽しみにしている。

昨年の流行は抹茶とココナッツだったが、さて今年の目玉は何だろうか?

f:id:LarryTK:20170427092959j:plain どっかーん

今年の会場では、奥の方の4分の1ほどのスペースを"Vegan World"(ビーガン・ワールド)が陣取って、華々しく新商品を展開していた。

Vegetarian(ベジタリアン)が肉や魚を食べないことは先ほど説明したとおりだが、Vegan (ビーガン)は、肉・魚だけでなく、乳製品や卵など一切の動物性食品を食べず、厳格に植物性食品だけを食べて生きていこうとする人たちのことをいう。

かなり特殊な食生活を送るビーガンだが、英国には50万人以上いて、年々増加しているという。ビーガンたちに向けた商品がこんなに多様に展開しているとは!と面食らいつつ、Vegan Worldに足を踏み入れていく。

 

なんじゃこりゃ。

「ラクトースフリー、グルテンフリー、パームオイルフリー」「ノー大豆、ノー精製糖」・・・。

もはや動物性食材に留まらず、ありとあらゆる物質がビーガン食品から追放されている。まるで、フリーの数が多ければ多いほど良いという風潮。

f:id:LarryTK:20170427093016j:plain f:id:LarryTK:20170427093026j:plain 無い無いづくし。

「〇〇フリー」を謳う商品を、欧米ではまとめて"Free From"(フリーフロム)商品と呼ぶ。

グルテンフリーやラクトースフリーといったフリーフロム商品は、もともとは小麦アレルギーや乳糖不耐症の人たちのための食材のはず。なぜビーガン向けにFree From商品が並んでいるのか?ビーガンが小麦を食べて何が悪いのか??

頭からハテナマークがいくつも飛び出しそうになったので、とりあえず目の前の試飲ミルクを一口。

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ううっ。よくみると、亜麻仁(flax)ミルクと書いてある。ミルクフリー、ラクトースフリー、グルテンフリー、大豆フリーらしい。頭も舌も混乱に陥ったまま、逃げるように会場から退散。

 

 2.健康なライフスタイルを求めて

いまやビーガン市場は、動物性食品を追放するだけでなく、あらゆる形態のFree From商品を取り込んでいる。グルテンフリーやラクトースフリーの食品が、アレルギーや不耐症と関係のない人々に購入されているということだ。

この現象をいったいどう理解すればよいのか?

ある調査によると、英国民の3分の1が Free From商品を半年間に1度以上購入しているという。そのうちの4分の1は、アレルギーのためというよりも「健康なライフスタイルを送るため」にFree From商品を購入したと答えている。

www.mintel.com

 この「健康なライフスタイル」という、わかったようで意味の分からん言葉がキーワードのようだ。その実態を追っていくうちに、耳慣れない言葉に辿り着いた。

"Clean Eating"(クリーン・イーティング

「クリーンな食生活」とでも訳せばいいのだろうか。加工食品を避け、果物や野菜を自分で調理して、健康な食生活を送る。日本でいう「ロハス」に近いかもしれない。

www.bbc.co.uk

 

いまイギリスで、クリーン・イーティングが大いに流行っている。

多くのセレブを虜にするクリーン・イーティング推進の立役者となっているのが、その名の通りのClean Eating Aliceさん。適切な食事と運動の組み合わせで、随分と痩せて美しくなったという。インスタグラムを多用して健康メニューの写真を投稿し、ブームに火をつけた。www.thesun.co.uk

 

彼女のやっていることは至極全うだ。果物や野菜を使った簡単な料理のレシピを公開し、美味しく食事しようと呼び掛ける、極めてシンプルな主張だ。

しかし、"Clean"という言葉を裏返すと、"Dirty"という概念が見えてくる。

クリーン・イーティングが勢いを増すのに合わせて、ダーティな食材を追放しようという動きが出てきた。肉、魚、乳製品、グルテン、ラクトース、精製糖、パームオイル、GMO、MSG、、。これらすべてをひっくるめて"ダーティ"の烙印を押し、市場から排除しようとしている。

クリーン・イーティングブームに乗じたダーティ追放運動。私が自然食品展示会で見たFree Fromの新商品の数々は、こんな動きに乗じた商売魂の現れといったところのようだ。 

 

3.スーパーマーケット探索

さて、フリーフロム商品は、英国の食品市場にどれだけ浸透しているのか。 実態を確かめにスーパーマーケットへ行ってみた。

ここは、ロンドン郊外の高速道路沿いにあるWaitroseの大規模店舗。品質重視の高級スーパーだ。

f:id:LarryTK:20170427093146j:plain でかっ。 

f:id:LarryTK:20170427093201j:plain f:id:LarryTK:20170427093219j:plain 店内もひ~ろびろ。

フリーフロム商品はどこに売ってるかなー。と探す間もなく、Free Fromコーナーを発見。

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それでは、ここで問題。このお店に、Free From商品はどれくらい置かれているでしょうか?

f:id:LarryTK:20170427093256j:plain ヒントはこの写真。

答え。上の写真に写っている商品、ぜんぶ。これがFree Fromコーナーの全容で、棚の中の商品すべてが「フリーフロム」なのだ。

グルテンフリー商品が棚の8割を占めていて、残りが乳製品フリーとこれらの組み合わせとなっているようだ。怪しい原材料のシリアルに乳製品を使わないチョコ、グルテンフリーの醤油まである。

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私が棚のチェックをしている間にも、お客さんがひっきりなしにFree From商品を買っていく。年齢層は様々。それぞれのライフスタイルに合わせた商品を選んでいるようだ。 

 

4.恒例の実食タイム

ここまできたら、やはり、Free From商品を自分で食べてみないわけにはいかない。ということで、これならたぶん食べられそう。。という商品をいくつか買って帰ってきた。

 

① Walkersのショートブレッド

"イギリスのお菓子といえばWalkers"と言っていいほど有名なショートブレッドにも、グルテンフリーバージョンがあった。普通の商品とグルテンフリー版を両方買って、食べ比べてみる。

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f:id:LarryTK:20170430065149j:plain グルテンフリー版には日本語表示が無い。日本へは輸出されていないようだ。

むむっ。グルテンフリーも意外とうまいぞ。サクサクしていて、いつものより食べやすいかも。と思いながら原材料をみて、納得。

原材料表記のトップに"rice"の文字が。これ、米粉クッキーじゃん!そりゃうまいわ。

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②グルテンフリーのパスタ

Free Fromコーナーに大量に並んでいたグルテンフリーのパスタも購入。少し透き通った感じの麺が特徴だ。

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 このパスタの正体は、トウモロコシ粉。茹でると汁が粉っぽくなるが、麺の茹で具合に違和感はない。

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茹で上がった麺をそのまま一口食べてみるが、特に味がしない。そもそもふつうのパスタも大して味はしないから、比べようがない。

ミートソースをかけちゃったら余計にわからんね。ふつうに美味しくいただきました。

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③ グルテンフリー✖ミルクフリーの食パン

Free Fromコーナーには、たくさんの種類の食パンが並んでいた。そのうち量がいちばん少なそうな商品を購入。グルテンフリー、小麦フリー、ミルクフリー、飽和脂肪酸低めとある。ヒマワリやら何やらの種を混ぜて、より健康食品的に仕上げてある。

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一口かじってみたら、なんだか弾力に欠ける。つなぎだけを選り分けて食べているみたい。原材料は、、タピオカスターチか。さもありなん。

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しかし、全体としてはよくできていると思う。バターを塗りまくって食べれば、もう違いなんかわからんね。

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以上、刺激的な食後感想文を待っていた方には期待外れだったかもしれない。業界誌に「Free From商品は美味しくなければ売れない」と書いてあった。美味しいかどうかは微妙だが、少なくともふつうに食べられるレベル。多くの食品メーカーが注目するFree From市場も、かなりの激戦区となっているようだ。 

 

この記事を書いている間にも、クリーン・イーティングを巡る賛否両論や、グルテンフリーの食生活はかえって健康を害するといったニュースなど、多くの話題を目にした。Free From市場の急速な拡大とこれを取り巻く様々な議論から、当面は目が離せないようだ。

 

第19回 湖水地方のマーマレード祭り

ロンドンから電車で北へ3時間、無数の湖と大自然で有名な湖水地方は誰もが知る大観光地であるが、その北の端、Ullswater(アルズ湖)を囲むあたりは、まだまだ未開の自然に囲まれた神秘的な空間が残っている。

f:id:LarryTK:20170402145120j:plain 自然に囲まれたUllswater

地域の起点となるPenrith(ペンリス)駅から車で10分ほどのところに、Dalemain(ダルメイン)と呼ばれる土地がある。古い屋敷と美しい庭園をもつダルメインでは、年に一度、マーマレード祭りが開かれている。今年も3月に開催されたマーマレード祭りにお招きいただいたので、ここでご報告をさせていただく。

 

1.ダルメインの歴史

f:id:LarryTK:20170329120102p:plain ©Hermione McCosh photography

ダルメインとは、ヘイゼル家が17世紀以来代々受け継いできた屋敷と庭と広大な領地のことをいい、現在は12代目となるジェーンさんがその歴史と伝統を守り続けている。

ジェーンさんは長年かけて庭の改良に取り組み、2013年にHistoric Houses Association によってBest Garden of the Year(2013年最高庭園)に選ばれた。その美しさは、NHKが昨年夏に放映した「魔法の庭 ダルメイン」によって日本にも広く知れるところとなっている。

www.nhk.or.jp

 

ジェーンさんの努力は庭園だけに留まらなかった。ダルメインの屋敷に代々伝わるマーマレードの秘伝のレシピを発見したことをきっかけに、2005年にマーマレード祭りが始まった。

World Original Marmalade Awards & Festival(世界初・マーマレード大賞祭り)と名付けられたこのお祭りも、初年度は50ほどしか出品者が集まらなかったというが、今では3,000以上の応募が寄せられる。英国内だけでなく、オーストラリアや米国、シンガポールなどからも応募があり、最近は日本からの応募が大変増えているという。

 f:id:LarryTK:20170404161353p:plain f:id:LarryTK:20170402145548j:plain ジェーンさんのマーマレード

 

2.マーマレード表彰式

世界中から出品されたマーマレードは、Artisan Awards(職人の部)とHomemade Awards(手作りの部)の二つのカテゴリーにわけて審査が行われる。審査員が3,000以上のマーマレードを実際に試食するというから大変だ。味だけでなく色や食感なども細かく審査され、それぞれに点数がつけられる。

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Artisan Gold Winners(職人の部金賞)は、プロフェッショナルにマーマレード作りを手掛ける人々の中から選ばれる。

選ばれたマーマレードは受賞シールを貼って売ることができるので、販売促進にも大きく貢献する。ジャムメーカーのMackaysや食品メーカーFortnum & Masonがスポンサーにつくなど、業界の注目度の高さもわかる。 

f:id:LarryTK:20170404162034p:plain 今年の金賞受賞者たち

 「職人の部」の表彰式はダルメイン屋敷内で行われ、50組余りの職人が金賞を受賞した。

日本各地のジャム工房などで活躍する方々も、ユズや日本酒をうまく取り入れたマーマレードの新製品を投入し、10組ほどが堂々と金賞を受賞していった。日本から遥々来られた着物姿のご婦人方が表彰式に参加されると、豊かな国際色がさらに彩りを増す。

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f:id:LarryTK:20170408152640p:plain ゲストとして招かれた鶴岡在英大使より表彰状を授与

 

Homemade Winners(手作りの部)には、世界各地のマーマレードファンたちから自慢のマーマレードが送られてくる。

日本からも数多くの応募があったという。瀬戸内海の小さな島からも、地域おこし協力隊と地元グループが丹精込めて作ったマーマレードが、おばあちゃんたちの写真を添えて国際郵便で送られてきたというエピソードも教えてもらった。

f:id:LarryTK:20170329120131p:plain ©Hermione McCosh photography

2,000を超える応募作は10余りのテーマに分けて審査される。「セビルオレンジの部」や「アイデア(twist)の部」もあれば、「子供の部」「男子の部」「お年寄りの部」などもあって、すべての作品に平等にチャンスが与えられているようだ。

朝、屋敷の前庭に出てみると、地元の人たちが大勢集まってきていた。地元小学生がかわいらしい歌をうたったあと、テーマごとの表彰式が行われた。こちらも国際色豊かで、アメリカやオーストラリアからも受賞者が駆け付けていた。

f:id:LarryTK:20170402145057j:plain 「マーマレードすきすき~」

マーマレードフェスティバルへの参加費用は、すべて地元の非営利団体に寄付され、ホスピスの運営費に充てられるとのことで、このイベントが地域コミュニティに暖かく迎えられている秘訣となっているようであった。

「子供の部」は地元の幼稚園が受賞した。小さなこどもたちが先生に引率されて前に出てきたとき、表彰式を見守る人たちの拍手は最高潮に達した。

 

3.地元の人たちと 

午後から屋敷は一般の人たちに開放される。駐車場にはみるみるうちに車が押し寄せ、満杯になった。マーマレード作りのデモンストレーションが行われ、受賞したマーマレードが飛ぶように売れる。お祭りの雰囲気が高まってきた。

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表彰式の後、ペンリスの町に戻ってきた。町の中心では、マーマレード祭りとの同時開催で ‘Go Orange’ キャンペーンが展開され、屋台でマーマレード関連商品が販売されたり、店のショーウィンドーがオレンジで装飾されたりして盛り上がっていた。

マーマレード祭りに合わせてペンリスでキャンペーンが開催されるのは2年目で、昨年よりも規模が大きくなったとのこと。祭りの主催者とペンリスの行政や商工会との連携がうまく機能しているようであった。

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4.ロンドンにて 

受賞した商品がFortnum & Mason(フォートナム・メイソン)で販売されていると聞いて、ロンドンに戻ってからピカデリィの本店を覗いてみた。

f:id:LarryTK:20170408070119j:plain 毎時、フォートナムさんとメイソンさんの人形が出てくる

 

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あった。あった。金賞受賞作がきれいに並べられ、華やかな店内にさらに彩りを添えている。日本から遥々やってきたユズ&ライムも並んでいる。透き通った黄色味とライム皮の緑が新鮮だ。

f:id:LarryTK:20170408070029j:plain 小ぶりの瓶が日本っぽい。

日本のマーマレードがさらに飛躍することを祈念して、一瓶買って帰ってきた。おいしくいただきます

第18回 個性あふれる英国の競馬場

競馬発祥の地イギリスには、たくさんの競馬場があります。ひとつひとつの競馬場は、規模もそれほど大きくないし、日本の競馬場のような立派な設備も整っていませんが、それぞれに特徴があって、多くの人に愛され続けています。

ロンドン近郊にもたくさんの競馬場があって、これまたすごく個性的なんですよ。

 

1.Royal Windsor 競馬場

エリザベス女王の居城Windsor城の近くには、Royal Ascotで有名なAscot競馬場がありますが、もうひとつ、'Royal'の冠の付いた小さな競馬場があるのです。

Royal Windsor(ロイヤル・ウィンザー)競馬場の発祥は150年前とのこと。歴代国王の住んでいた地だけに、王様や貴族たちが持ち馬を競い合わせていた時代から徐々に現代競馬が形作られてきた歴史を感じることができます。

 

競馬場への行き方がまたユニークなんです。車やバスでも行けますが、断然のおススメはこれ!

ボートに揺られて競馬場へ。

ウィンザー駅の近くにテムズ川が流れていて、そこから競馬場行きのボートが出ているのです。競馬場に着く前から、もうワクワク感満載!

f:id:LarryTK:20170213161942j:plain  f:id:LarryTK:20170213162017j:plain このボートに乗って行くのね!

ボートに揺られること約15分。船着き場の目の前は、もう競馬場の入り口です。

f:id:LarryTK:20170214170202j:plain いざ、場内へ。

 

ここで、Royal Windsor競馬場のコースを解説しましょう。

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なんだこの8の字コースは!?

日本ではゼッタイにお目にかかれないですよね。どうやって走るのかと混乱しそうですが、よく見れば非常に効率的な造りです。ゴールポストの裏側からスタートして、いったん直線走路を横切り、ぐるっと回ってまた直線に戻ってきます。

コースの交差するところで馬が衝突しないかって?馬は一団に固まって走るので、まあ、あり得ないでしょう。複雑な形をしているけど、事実上、コーナーの急な左回りコースと考えていいのではないでしょうか。それにしても、誰がこんな形を考案したのでしょうかね。

 

さて、場内を周ってみましょう。スタンドは小さいけれど、レースが始まる度に観客が集まってきて、結構な盛り上がりです。

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f:id:LarryTK:20170213162128j:plain  パドックでは手を伸ばせば触れる距離に馬が。

 

レースの合間には、仲間同士集まって、お酒を飲んだりご飯を食べたり。競馬場は大きなパーティー会場でもあります。Royal Ascotほど格式は高くなくても、みんなきれいなドレスを着て、優雅に楽しんでいます。これがイギリス競馬の姿ですね。

f:id:LarryTK:20170213162159j:plain  f:id:LarryTK:20170213162224j:plain 我々も英国名物Pimm'sで乾杯。

結局、戦績はどうだったかな。途中からお酒を飲んでたことしか覚えていませんわ。。

 

2.Epsom Downs競馬場

ロンドンから南へ電車で1時間くらいのところに、Epsom Downs(エプソム・ダウンズ)競馬場があります。ここも、こじんまりとした田舎の競馬場という感じです。

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この競馬場のコースの特徴は、なんといってもこれ。

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一周できない。

ずっと奥の方から走ってきて、ゴール板を通過したら行き止まり。内馬場はなんだか用途のわからない草原になっていて、真ん中を一般道が突き抜けていきます。

f:id:LarryTK:20170213162424j:plain f:id:LarryTK:20170213162336j:plain ゴール板の先にあるパブからは、入場料を払わずに競馬観戦できるらしい。

 

さらに、直線走路が内側に向けて斜めに傾いています。こんなところ走ったら、馬がみんな斜行するじゃないか!

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そして、この競馬場のいちばんの驚きは、こんないびつなコースで、競馬界最大のイベント、ダービーが200年以上開催されているという事実です。

f:id:LarryTK:20170213162316j:plain 2016年ダービー優勝馬の騎手の服

競馬の原点がみえるような気がします。だだっ広い原っぱで、貴族が自慢の馬を走らせてどっちが速いかを競わせたのが競馬の始まり。コースがぐにゃぐにゃ曲がってたり傾いてたりしていて当たり前なんですね。そんなワイルドなコースで勝ち残った馬にこそ、最強馬の栄冠が与えられるのです。

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将来の伝説の名馬をめざして、Epsom Downsでは今日も熱い戦いが繰り広げられています。 

 

3.Cheltenham競馬場

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イングランドの西部、ロンドンから電車で2時間ほどのところに位置するCheltenham(チェルトナム)競馬場は、コッツウォルズの丘のふもとに広がる世にも美しい競馬場です。

海外競馬のバイブル「グローバルレーシング」(アラン・シューバック著)には、「世界にチェルトナム競馬場より美しい競馬場があるとすれば、人はまだ目にしていない」という、最大限にまわりくどい褒め言葉が書き連ねられています。

f:id:LarryTK:20170213161858j:plain 丘と一体となったコース

この競馬場のコースは、ぐるぐると何周もできるように複雑に作られているのが特徴。その理由は、この競馬場が距離の長い障害レースをメインとしているからなんです。

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障害レース!

日本では、土曜の昼休みにこっそりとやってるような印象ですが、イギリスではとても人気が高いんです。夏は平地、冬は障害と、きっちりと住み分けができているのもこの国の特徴ですね。

 

障害レースにもいろいろ種類があって、hurdleレースでは、馬がぶつかるとヘニャと曲がってしまうような低い障害を飛びます。陸上のハードル競走を見ているようで、迫力があって面白いです。

f:id:LarryTK:20170219072357p:plain 資料画像

生垣や小川を飛び越えながら、広大な丘を馬たちが駆け回っていた時代の名残が、Cheltenham競馬場のコースにはまだまだ残っているようです。

 

4.Kempton Park競馬場

ロンドンから電車で西へ40分。Kempton Park(ケンプトン・パーク)競馬場は、ロンドン中心部にいちばん近い競馬場です。先の「グローバルレーシング」は、この競馬場がある町を「典型的なイギリスの村で、アガサ・クリスティ作品の推理小説でミス・マーブルがテーブルの下に死体を発見するかもしれないような村である」と褒めたたえています。

そしてこの競馬場では、ナイター競馬が開催されているのです。

よし。仕事帰りにGo!

f:id:LarryTK:20170301150227j:plain 急げ急げ

 

だんだん日が暮れてきて、暗闇に煌々とライトが映える頃、ようやくレースが始まります。

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この競馬場のもう一つの特徴は、オールウェザーコースがあることです。

なにそれ?

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 日本の競馬場には、芝とダートの2種類のコースがあります。人工素材を馬場全体に敷き詰めたオールウェザーは、見た目はダートのようですが、ダートとは別の第3のカテゴリー。雨が降っても水たまりができないとか、クッション性がよくて馬が故障しにくいなど多くの利点が言われる一方で、新しい製品なのでいろいろ難点が挙げられたり、こんなの本来の競馬じゃないと言われたり、議論百出のコースなんです。

  

ナイター競馬をみていると、いつもにも増して胸が高まってくるのは私だけでしょうか。途中から雨が降り出しましたが、白熱のレースにはまったく影響なし!なんといってもここはオールウェザーですからね。

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f:id:LarryTK:20170301150456j:plain f:id:LarryTK:20170301150439j:plain パドックも怪しく光る

このKempton Park競馬場が閉鎖されるというニュースが飛び込んできました。残念ですが、まだ何年も先のことらしい。それまでに美しいナイター競馬を十分に楽しんでおきましょう。

 

5.付け足し

最後に私信を一言。たくさんの競馬場をご案内いただいたF所長、ありがとうございました。これからも英国競馬場の探検を続けていきます。東京に戻られてもお元気で! 

 

 

 

第17回 日本人の行かない日本食レストラン

ロンドンには日本食レストランがたくさんある。正統派の京都懐石からなんちゃって寿司ロールまで、種類も様々。新橋の居酒屋みたいなところもあって、私たち日本人に寛ぎの空間を提供してくれているのだが、果たしてイギリスの人たちにはどんなお店がウケているのか。

今回は、地元の人たちに人気で、いつもお客さんがいっぱい入っているんだけど、ついぞ日本人の姿を見かけたことがない、というお店をいくつかご紹介したい。

 

1.Sexy Fish

Berkeley Square House,Berkeley Square. London W1J 6BR

Sexy Fish | Asian Seafood Restaurant Mayfair London

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高級レストランの集まるメイフェア(Mayfair)地区のど真ん中、バークリー広場(Berkeley Square)に面した通りに、2年前、忽然と姿を現した。

事務所の近くなので、店の前を通るたびにとても気になっていたのだが、窓にはスモークが貼られていて、中の様子をうかがい知ることができない。店の看板にカタカナで「セクシーフィッシュ」と書いてあったり、メニューにSushiとかRobataとかあるところから、いちおう日本をイメージしたレストランなのだろうと推測する。

店の中をみてみたい。行ってみよう!

こういった高級店は、ランチでも予約は必須。ネットで予約して、その日を待つ。

 

 当日。予約時間どおりに店に入る。

うぉー。ぴかぴかだー。

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大きな絵の描かれた天井、フカフカのソファー、壁には豪華な装飾品。時間がゆったりと流れる別世界に迷い込んだようだ。

店名どおりのセクシーな女性が私たちを席まで案内してくれる。ソファーへ落ち着いた瞬間に、イケメンサーバーがメニューと水を持ってくる。

これが、高級店のサービスというものか。。

ため息をつきながら、メニューを眺める。時間の感覚とともに、金銭感覚もマヒしてきたようだ。メニューの数字が気にならなくなってくる。

 

料理を頼もう。周りのお客さんがどんな料理を食べているか、他のテーブルをチェックしてみる。

食べてない。。

みんな、ワイングラスをもっておしゃべりに熱中している。テーブルの真ん中に寿司ロールが何切れか残っている。

そう、ここは社交の場だ。ご飯をガツガツ食べるところじゃない。私たちも、控えめに注文することにしよう。ということで、以下、料理の一部をご紹介。

f:id:LarryTK:20170114223853j:plain Sexy Fish Roll。£14(2,000円)。ご飯が入ってない。

 f:id:LarryTK:20170114223930j:plain ホタテの炉端焼き。これで£30(4,000円)は随分強気。

 f:id:LarryTK:20170114224002j:plain 常陸野ネストビールがあってビックリ。

f:id:LarryTK:20170114223947j:plain デザートは前衛的な抹茶アイス。

 

てなわけで、ちょこちょこと料理つまみながらお酒飲んでぺちゃくちゃしゃべっていたら、あっという間に2時間くらい経ってました。その間も、イケメンが何度もやってきて、皿を取り替えたりお酒を注いだり。そういえば、「ちょっと、すみませーん」と店員を呼び止めることは一度もなかったかも。

サービスにお金を払う。そんな高級店には、繊細な日本料理が合うのかもしれない。

 

2.Chotto Matte

11 - 13 Frith St, Soho, London W1D 4RB

Home - Chotto Matte | Nikkei cuisine | London

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ロンドンで最も賑やかな地区、ソーホーは、各国の料理店にパブやバー、なんだかわからん怪しい店がごちゃごちゃっと並んでいて、昼も夜も若者がワイワイやっている街。このレストランバーも、店の外にまでお客さんが溢れている。

ん?チョットマッテ?一寸待てよ。もしかして、これ、日本語か?(混乱)

 

いったん家に戻って店のHPを確認。"Nikkei Cuisine"て「日系」てこと?日本-ペルーの融合とか書いてある。どんな料理だ?(再び混乱)

これは行ってみるしかない。

 

改めてお店へ。大人気の店らしく、予約がとれたのが8:45pm。既に街は混沌としている。

店の中に入るやいなや、縦ノリの音楽と立ち飲み客の喧噪に包まれた。予約してあると伝えると、上の階へ。

かっこいい。薄暗い店内でテーブルの上のローソクがゆらめく。壁には青っぽい絵が浮かび上がっている。

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周囲を見渡してみる。若者のグループやカップルたち、ビジネスマンに親族の寄り合いみたい人たちまで、いろいろ。これからクラブへ向かうであろう黒いドレスの女性たちもウロウロしている。

みんな、大いに飲み食いしているようだ。次々と酒と料理がテーブルに運ばれていく。Sohoのパワーの源を感じる。

よし、我々も負けずに注文しよう。天ぷら、餃子、寿司ロールあたりがNikkei料理のようだ、ペルー料理からポテトやししとう焼きなど。ペルー風のバーベキューを頼もうとしたら、「それはお勧めしない」とウェイトレスに断られてしまった。そんなフランクさもこの店の人気の秘訣なのか??

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f:id:LarryTK:20170114224822j:plain 寿司ロールを目の前で炙る。炎が飛び散って結構危ない。

f:id:LarryTK:20170114224916j:plain 冷やしたスパークリング日本酒をわざわざ徳利に移し替えてくれる。突っ込みどころが多すぎて、かえって黙って盃を傾けることに。

f:id:LarryTK:20170114224859j:plain めっちゃ立派なデザート盛り合わせ

 

いろいろ不思議なこともあったが、料理は意外とうまいし、値段もそれほど高くない。何より、店にいるだけで楽しい気分になってくる。十分に満足して下の階に降りると、縦ノリがますます激しくなっていた。Sohoの危なっかしい夜はまだまだ続くようだ。

こうやってみんなで楽しく食べられるのも、日本食の魅力なのだ。

 

他にもご紹介したいお店はいっぱいあるけれど、とりあえず今回はここまで。どちらの店も満員だったが、日本人客は私たちだけだった。日本人の知らない人気の日本食レストラン。私たちの周りのお客さんたちが、日本料理を食べる目的でこの店に来ているわけではないことは、なんとなく察しが付く。

ゆったりと時間を過ごしたい。仲間と楽しくワイワイやりたい。そんな期待をもってお客さんはお店を選ぶ。そして、そのお客さんの期待に応える料理が、どちらも日本食だったとしたら、それは十分に誇らしいことではなかろうか。

第16回 急成長中!イングリッシュワイン

イギリス産のワイン?こんな寒い国でまさかという皆さんにお伝えしたい。イギリスでもワインを作ってます。しかも、この数年間に急成長を遂げているというから、驚き!

 

1.イングリッシュワインを飲もう!

ロンドン中心部のデパート、M&Sの食品コーナーでイングリッシュワインを売っているという噂を聞いて、現場を尋ねてみました。

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おおー。ありましたわ。スパークリングワインが4種類、白ワインが11種類。赤ワインが2種類。こんなに簡単に手に入るとは!

 

見つけたからには、買わないという選択肢も無い。スパークリングと赤白を1本ずつ抱えて帰ってきました。

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それでは、試飲。う~ん、うまい!

どんな味かって?ワインの味をうまくお伝えできる自信も無いので、ここはプロの方の表現をお借りして、

『トーストしたカラメル・ブリオッシュの香りに、リンゴ・ナシ・アプリコットやキャンディ・アーモンドがほのかに感じられ、すっきりとした辛口の酸味とキャンディ・ブリオッシュの後味が残る。』Glass of Bubbly

まあ、だいたいそんな感じかな。ブリオッシュがなんなのかよくわかんないけど。

 

2.Chapel Down

イングリッシュワインの代表格としてあげられるのが、Chapel Downという銘柄。

今年、Downing 10(首相官邸)の公式サプライヤーになったというニュースが話題になりました。首相官邸では、フランス産のシャンパンを止めて英国産のスパークリングワインを使うようになったとのこと。 

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では早速試飲。ふむふむ、キリッとした酸味が舌を刺激する。食前酒には最適かな。(語彙が貧祖ですみません。)

M&Sを覗いたとき、日本産の甲州ワインが1種類だけ置いてあるのを発見したので、ついでに買ってきました。北半球の島国からやってきたワインということで、共通するものがあるかも、と思って飲み比べてみたところ・・・

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ほ~。こんなにも違うのか。

さらりとした甲州ワインと、後味しっかりのイングリッシュワイン。甲州ワインを飲んでいると、なぜか日本酒のイメージが浮かんできます。イングリッシュワインには、フランスのシャンパンの風味がしっかりと引き継がれている。これがアジアとヨーロッパの文化の成り立ちの違いなのでしょう。

 

3.イングリッシュワインの産地

イングリッシュワインはどこで作られているのか?

ガイドマップの地図をご覧ください。(見にくければ、リンクを開いてみてね。) 

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mapはこちら 

 ロンドンの南東、KentやSussexといわれるイギリスで最南端に位置する地域に、ワイナリーが集中しているのがわかります。ドーバー海峡を隔てた向こう側はもうフランス。かの有名なシャンパーニュ地方とは、直線距離で200kmくらいしか離れていません。

気候が冷涼なためにブドウが育たなかったイギリスですが、このあたりの土質はシャンパーニュ地方とだいたい同じだそうで、地球温暖化の影響で平均気温が上がってくると、ワイン作りに最も適した地域に生まれ変わりつつあるといわれています。逆に、シャンパーニュ地方では夏の日照りが強すぎて、いいワインを作るのが難しくなっているとか。

 

4.ワイナリーへ行ってみよう!

なんと、ロンドンの近くで作っているんじゃないか。行くしかない!

ロンドンから車を飛ばして約2時間。Tenterdenという蒸気機関車の走るかわいらしい街の外れに、Capel Downのワイナリーがありました。 

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ワインの並ぶショップには後で入ることにして、まずは2階のレストランで腹ごしらえ。

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オープンキッチンのオシャレな店内。席が空くまで、スパークリングワインを片手にバーで優雅にくつろぎます。

食事も本格的でした(写真撮るの忘れた)。大満足。さて、お腹いっぱいになったら、ショップの裏のブドウ畑を散歩してみましょう。

f:id:LarryTK:20161212033832j:plain ブドウ畑はこちら⇒ 

 

美しい。。

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イギリスの土地で、ブドウはたしかに育っていました。なだらかな傾斜地に太陽が燦々と降り注いでいます。林に囲まれた畑には、ブドウの木がずらり。

ちょうど秋の収穫が終わったあとのブドウ畑には、熟れたブドウの実があちらこちらに摘み残されています。区画ごとにわざわざ違った種類のブドウを栽培して、お客さんがぜんぶ見られるように配置されていました。

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左が(たぶん)Bacchus、右は(きっと)Chardonnay

f:id:LarryTK:20161212034040j:plain f:id:LarryTK:20161212034012j:plain ブドウ畑はまだまだ続きます。

f:id:LarryTK:20161212034105j:plain これは(おそらく)Pinot Noir

 

ブドウ畑をぐるりと周ってショップに戻ってくると、1本ずつのボトルごとに違いが見えてくるような気がしてきます。ロンドンではお目にかかれない商品もたくさん。あれも買いたい、これも買いたい。。

f:id:LarryTK:20161211083115j:plain f:id:LarryTK:20161212034132j:plain 工場は激しく稼働中。

迷った末に、いちばん変わり種のNectarを買って帰ってきました。ボトルが細い。

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名前のとおり、甘~いデザートワインでした。イギリスではこんなワインまで作れるのね。イングリッシュワインの奥深さを堪能したところで、今回のレポートはここまで。