第31回 美しく食べるビーガン料理
昨年、Free From食品を特集したときに、ベジタリアン(vegetarian)やビーガン(vegan)の人口がイギリスで増えているとレポートした。
あれ以降も、肉や魚を食べない人たち、特に乳製品や卵など一切の動物性食品を受け付けない「ビーガン」はますます勢いを増すばかりだ。
今年1月には、"January" と "Vegan"を掛け合わせた "Veganuary"という標語とともに、「年の初めに誓いを立てて、ビーガンに挑戦してみよう!」という呼びかけが世間に溢れた。
肉や魚を食べない生活など到底考えられない私だが、世間を賑わす「ビーガン」とやらはいったいどんなものなのか。ちょっと覗いてみようではないか。
1.スーパーマーケットへ
前回の特集で、スーパーマーケットに"Free From"食品が豊富に揃っていることを確認した。
今回はビーガン商品に絞って調査してみよう。まずは、お馴染みの Waitrose へ。
食材のカテゴリー毎に、ビーガン商品が並ぶ。通常の献立をイメージしながら、ビーガン向けの代替商品を選べるように工夫されているようだ。
牛乳棚の横にココナッツミルク
デザートにもビーガン商品
ベジタリアンとビーガンの棚
ビーガン商品を3点購入して帰宅。
サツマイモ&ココナッツスープに豆腐とゴマのステーキ、アーモンドヨーグルト。いずれもビーガン向けであることが一目瞭然なマークを付けている。
では、恒例の試食タイム。
一口め。意外と味がしっかりとついていて、「これは結構いけるかも」と思わせる。しかし、3分の1くらい食べたあたりから、単調な味に飽きてきて、だんだんペースが遅くなる。
素材が豆だったり芋だったりするわけだから、食べているうちに満腹にはなるが、なんだか満足感が得られない。
もぐもぐと口を動かしながら、「いろいろ美味しいものがあるのに、なんで俺は豆と芋ばっかり食べてるんだ」などと考え始める。自分がビーガンの境地に辿り着けない理由は、この心の壁にあるんだなと感じつつ、志半ばで挫折。
2.ビーガン専門レストラン
ビーガンのためのレストランが、ロンドンで最近人気らしい。何が秘訣なのだろうか。
"Farmacy"というこのお店は、"Pharmacy"(薬局)に"Farm" (農場)を掛けたネーミングのようだ。"Food is medicine"「食は薬」というスローガンを掲げていて、東洋の「医食同源」と通じるものがある。
平日にもかかわらず、店内は満員。インテリアもオシャレなら、お客さんたちもスマートでめっちゃオシャレだ。
「食は薬」なんて言うので、お寺の精進料理のイメージでいたが、お説教じみた雰囲気はまったく感じられない。お客さんも修行僧のように生活を律しているわけではないから、オーガニックのワインなど飲みながら、仲間同士でワイワイやっている。
我々も、オーガニックビール片手にビーガン料理を注文してみよう。
"チーズ"や"ヨーグルト"とあるが、もちろんすべて植物性で、いずれもメニューにカッコが付いてる。「肉や魚が食べられないのなら、野菜でも食べてりゃいいんじゃないか」という安易な発想に陥らず、より健康的な食材をできるだけ美味しく食べようとするのがビーガンスタイルのようだ。
玄米マカロニ&"チーズ"
millet(ヒエ?)、黒豆とマッシュルームのバーガー
chia seeds(チアシード)とフルーツの"ヨーグルト"。チアシードがぬるりと粘る
話題の「スーパーフード」(健康に良い食材)がふんだんに使われていて、少し濃いめの味付けと不思議な食感が面白くて、どんどん食が進む。
いちばん印象に残ったのは、デコレーションの美しさだ。家で食べるビーガン料理では満足できない理由がわかった。美しくないからだ。
ビーガン料理の流行は、「美しく健康的に食べよう」というコンセプトからスタートしていることがわかる。おいしさの基準は、美しさの後ろにくっついてくるイメージだ。いかにもロンドンらしい食べ方だと思う。
3.日本食ビーガン
ロンドンにビーガン向けの日本食レストランがあるという。
「いただき膳」というこのお店のメニューは、すべてがビーガン料理となっている。
ビーガン・ジャパニーズと書いてある
お昼時の店内は満席。若い女性グループからビジネスマン風のおじさん達まで、客層は様々だが、日本人は私以外誰もいない。
おひとりさま席がうれしい
メニューには「きつねうどん」などもあって、ビーガン専門といった特殊な感じはない。いろいろ試してみたいので、幕の内的な弁当ボックスを注文。
弁当ボックスの中身は、野菜かき揚げ、野菜春巻き、揚げ出し豆腐、サラダ、雑穀ごはんと海藻の佃煮、味噌汁。丸の内の定食屋さんで普通に出てきそうなメニューだ。
野菜や豆は歯ごたえがあって、しっかり噛んでゆっくりと食べている自分に気づく。いつもの倍以上の時間をかけて完食した。これがビーガン料理の健康の秘訣だ。
とてもおいしくいただきながら、日本食とビーガン料理との親和性が高いことに気づく。日本には精進料理の伝統もあるし、普段食べている例えば「ナス味噌定食」なんかも、実はビーガン料理だったりする。
今更騒がなくても、日本人はずっと野菜・豆中心の健康的な食事を楽しんできたというわけだ。
4.ビーガン日本食を世界へ
日本食とビーガンとのつながりを深めたいと願って、面白いイベントを企画した。
Whole Foods Market は、米国資本の自然派スーパーマーケットだが、イギリスでも店舗を展開している。今回、ロンドンのお店で、日本の食材を使ったビーガン家庭料理のワークショップを開催した。
評判のクッキングスクールAtsuko's Kitchenを主宰する敦子さんがビーガン寿司を作り、人気ブロガーShiso DeliciousのSaraさんがビーガン弁当を披露する。
かわいらしいビーガン寿司たち
なんとも美しいビーガン弁当
お米だけでなく、味噌、醤油、海苔、ゴマ、ワサビなど、たくさんの日本食材を紹介することもできた。食材はすべてオーガニック日本食材を取り扱うClearspringの提供。
ご飯を炊いたことがないというビーガンたちに、和食の基礎を教え、美しい盛り付けを学んで、おいしいお寿司とお弁当を一緒に食べて楽しんでもらう。新たな経験にみんなが満足し、私たちにも笑顔が溢れた。
「動物福祉や環境保護のことが気になって、お肉や魚を楽しく食べることができなくなるの」と私の隣で語ってくれた女性は、10年以上のベテランビーガン。私たちとはちょっと違った視点から食を見つめる彼女にとっても、ビーガン日本食は新鮮に映ったようだ。
おいしくて健康的な日本食と、美しくて華やかなビーガン料理の融合が、新たな食の世界を切り開いていく可能性を予感しながら、今回のレポートはここで終わりとしたい。
第30回 イギリスでお米はどのように食べられているか?
日本人はどの国に住んでいてもご飯が恋しくなるもの。ロンドンにある各国料理のレストランに入っても、"rice"をメニューに見つけるとつい注文してしまう。ところが、出てくる"rice"は日本のご飯とはまったく別ものだ。調理方法が和食と異なるだけでなく、お米の種類そのものが違っているようだ。
それではイギリスにはどんなお米があって、どのように食べられているのだろうか。片っ端から試してみようではないか。
1.お米バラエティ
こだわりの品揃えで評判のWaitrose(ウェイトローズ)には、世界各地のお米が揃っている。Waitroseのホームページには、様々なお米を紹介するページがあって、実に13種類の米が、食べ方と調理方法を添えて紹介されている。
ここで紹介されているのは、シチューに添えるロンググレインやブラウンライス、イタリアのリゾット米、カレー用のバスマティ米、タイ料理に使う香り米、ホールチキンに詰めるワイルドライスなどなど。これらと並んで、「日本の伝統的な寿司に使うモチモチした米」として"sushi rice"(スシ米)が紹介されている。
私の訪れた店舗にも米の専門コーナーがあって、バスマティ米やリゾット米、パエリア米などバラエティ溢れるお米が並んでいた。
ところが、我らのスシ米が見当たらない。あれれ、と思って店内を見渡していたら、別の棚にアジア食品コーナーを発見。スシ米はそちらに置かれていたのだった。
スシ米だけぽつねんと
珍しい米を買ってみようと、イタリア産リゾット米をゲット。日本の米と同じく、ずんぐりむっくりした形の短粒種のようだが、比べてみると日本の米よりはるかに粒が大きい。
左がリゾット米、右が日本の米
袋の裏の調理方法どおり、鍋で米を炒めてから徐々にスープを足していく。大きめの米粒がさらにふっくらして、おいしいリゾットができあがった。
チーズを溶かして美味しくいただく
2.粒の長いお米
イギリスではリゾットは必ずしもメジャーな料理ではない。
庶民向けスーパーのTESCO(テスコ)では、アメリカ産の長粒米(ロンググレイン)と南アジア産のバスマティ米が棚の大部分を占めていた。なおここでも、スシ米は別棚のアジア食品コーナーで発見。
こちらでもスシ米は仲間外れ
夫婦共働きの多いイギリスでは、レトルトや調理不要の食品の品揃えが豊富で、家に帰ってレンジでチンするだけというものが多い。お米コーナーにも、混ぜご飯や味付けご飯のレトルト製品がたくさん並んでいた。
一袋買って試してみたのは、egg rice というレトルト食品。中身の米にはロンググレインが使われている。袋を破ってそのまま電子レンジへ放り込み、90秒待つと出来上がり。
パサパサ
円筒形のロンググレインは、茹でてもふっくらしない。少し塩味が効いていて食べれなくはないが、シャリシャリする歯ごたえは私の知っている米ではない。五穀米に入っている粟や稗に似た食感を味わいながら、米も穀物の一種であることを実感した。
チャイナタウンにあるビュッフェ形式の中華料理店には、必ず白米と卵チャーハンが並んでいる。粒の形からするとロンググレインを使っているようだ。ご飯だけ食べるとパサパサしていても、脂っこい中華料理と一緒ならちょうどよい組み合わせとなる。
3.バスマティ vs ジャスミン
伝統的な英国料理にはお米は登場しない。イギリスが世界とのつながりを深める歴史の中で、各地の食文化とともに各種の米も流入してきたわけだ。
中華系の食品卸・小売店舗を展開するLoon Fung(ルーンファン)は、中華料理だけでなく、各種のアジア料理に対応した食材を揃える。この店で販売されている米は、先ほど試食した長粒米に、スシ米とバスマティ米、ジャスミン米。
巨大な米袋がずらり
バスマティ米とはいったいどのようなお米か、確かめてみよう。
袋から出てきたのは、細長い米。ロンググレインも細長いが、こちらはさらにひょろ長く、先っぽが尖がっている。
粒が長~い
鍋にお湯を入れて茹でなさいと指示されたとおりに作ってみる。お米だけだと味も匂いもそっけないが、本格的なインドカレーのお供には、やはりバスマティ米が必要だ。
バスマティ米が使われるのはインド料理に限らない。
トルコ料理店でも、串焼き羊肉の付け合わせとしてバスマティ米が出てくる。 バスマティ米は水分を含ませすぎないことが肝心なようだ。パラパラした米をスプーンで掬って食べるくらいがいちばん美味しい。
もう一種類、ジャスミン米も買ってみた。バスマティもジャスミンも同類の品種だということだが、比べてみると粒の形はかなり違っている。ジャスミン米は粒が小さく丸みを帯びていて、日本の米に近いようだ。
左がジャスミン、右がバスマティ
ジャスミン米は香り米と言われているそうなので、鼻をつけてくんくんと嗅いでみたが、どうもジャスミンの香りがするようには思えない。
そもそもジャスミンがどんな香りなのか知らないことに気づいて調べてみたところ、なんとジャスミン米の名前はジャスミンの白い花の色に由来するのであって、ジャスミンの香りがするわけではないらしい。
そうと知って、ジャスミン米をもういちど観察してみる。バスマティ米よりも米独特の匂いが強く、その違いは炊くとさらにハッキリする。日本で食べ慣れたお米の香りに近く、噛むと口の中に甘みが広がる。
安くて美味しいと評判のタイ料理店では、大きな炊飯器でジャスミン米が炊かれていた。スパイスの効いたおかずが、ご飯の甘みを一層引き出している。
うまい!
ここまでいろいろなお米を試してきたが、ジャスミン米は粒の形や香り、炊いたときの甘みなど、日本のお米と共通する特徴をいちばん多く持っているようだ。
4.日本のお米とショートグレイン
我々が日頃目にする日本のお米は、粒が小さくて短いので、短粒米(ショートグレイン)というカテゴリーに分類される。
私がロンドンへ来て間もない頃、スーパーマーケットのSainsbury's(セインズベリー)でショートグレインを見つけ、日本のお米の代わりになると思って炊飯器で炊いてみたことを思い出す。結果は大失敗であった。
べちゃべちゃで噛み応えがない
その後、知ることになるのだが、イギリスでショートグレインとは、デザートの一種であるRice Pudding(ライスプディング)の材料のことなのだ。
ミルクにお米と砂糖を加えて煮るライスプディングは、スーパーマーケットでも様々な種類の出来合いの製品が売られている。スプーンで掬うと、お米はドロドロになってもはや原形を留めていない。
ドロドロ
イギリス人の大好物だということだが、ライスプディングといい、ポリッジといい、穀物を甘く煮ることへの違和感が否めないのは、私だけかな。
日本へ帰ったとき、炊き立てご飯を食べてその美味しさに圧倒された。一粒一粒が立っている。イギリスの日本食レストランで食べるスシ米は、大抵お米がくっついてしまっていて、粒を見分けることもできない。
この違いをイギリスの人々にわかってもらうには、どうすればよいのだろうか。
左はバーミンガムで食べた丼物。右は新橋で食べたご飯
初めに紹介したホームページで解説されているように、スシ米は「モチモチ・ネバネバしている」(sticky)のが特徴だと信じられていて、実際、すごく粘りっけのあるご飯に出会うことが多い。時には、米粒の形が崩れて糊のようになっていることもある。
日本のご飯は「ふっくらつやつや」しているのが美味しさの特徴であって、決してモチモチ・ネバネバではない。その違いは、米の品質だけでなく、炊き方や保存方法によるところも大きいようだ。
これまで見てきたとおり、イギリスでは「この料理に合うのはこのお米」といった形で様々なお米が食べられている。スシ米が「寿司専用の米」と思われているうちは、日本のご飯の美味しさを伝えることは難しいのかもしれない。「ふっくらつやつや炊き立てご飯」を、これとよく合う料理とともに、イギリス人に味わってもらいたいものだ。
第29回 おいしいFish & Chipsを求めて
イギリスといえばFish & Chips!
日本からお客さんが到着したら、まずはパブへお連れして、ぬるいエールビールとFish & Chipsをお楽しみいただくのが定番のコース。
ついこの前も食べてきたところなのだが、初めて本場のFish & Chipsを食べた皆さんに共通の感想。
魚がでかい。
意外とおいしい。これなら全部食べられるかも。
⇒ ぱくぱくぱく ⇒ やっぱり全部はムリ。
おいしかった。でももう食べなくてもいい。
私自身の初Fish & Chipsは、3年前の夏。着任直後に勇気を振り絞ってパブに入り、注文したのをよく覚えている。そのときの感想を見返してみると、
残りの3年間はもう食べなくていいかな。
とFacebookに書き残してあった。
いやいや、そういうわけにもいかない。この3年間、なんだかんだで30回以上食べたでしょう。
そんなにたくさん食べたのなら、いったいどの店のFish & Chipsがいちばん美味しかったのか?と聞きたくなるよね。それが今回のテーマです。
1.Fish & Chips専門店
おいしいFih & Chipsを食べたければ、パブじゃなくて専門店に行かなくちゃ。
とはよく聞く話。
ここはロンドンでたぶん最も有名なGolden HindというFish & Chips専門店。ランチタイムには、地元の人たちや観光客、ビジネスマンで超満員になる。
100年の伝統を受け継いだという手作りの衣で揚げた白身魚は、ほどよいサクサク感とジューシーさが際立つ。LargeかSmallを選択できるのがありがたい。チップスも小ぶりだし、Smallだとムリなく食べきれて、程よい満腹感が味わえる。
Fish & Chipsに使う魚は、基本はcod(タラ)。イギリス近海でたくさん獲れたのでイギリス人のお馴染みになったということだが、最近は資源量が落ちているので実はそうでもない。
本格的なシーフードレストランへ行くと、cod以外にもいくつか選択肢がある。
ノッティング・ヒルのオシャレな街にあるオシャレなレストランGeales。codのほかに、haddock(これも日本語に訳すとタラ?)、skate(かすべ??)、plaice(カレイ)、hake(タラに似ているがタラではない???)が選べる。
いずれも淡白な白身魚で大きなフィレがとれるところが共通していて、揚げるとどれも似たような形になる。
haddock。codより味が濃くて好き嫌いが分かれる
skate。ジューシーで食べやすい
plaice。カレイの姿揚げを思い出させる味
勢いよく食べ始めたけれど、半分食べたところで手が止まった。衣がサクサクなのは嬉しいのだが、ちょっと油を使いすぎじゃないか?皿に敷かれた紙がボトボトに濡れている。
とても全部は食べきれないと思ったら、衣を剥がして残すとか、少し工夫した方がいいかも。もったいない神様には後で謝ろう。
Sea Shellもとても有名なFish & Chips専門店。こちらではメニューに「groundnut oil(ピーナッツ油)で揚げています」と誇らしげに書かれていて、たしかに軽い仕上がりとなっている。
この店には、Take Away(持ち帰り)コーナーとレストランが併設されている。もともとは持ち帰り店としてスタートし、最近になってレストランを増設したそうだ。
そう。Fish & Chipsは本来、持ち帰り用のファストフードなのだ。
フィンガーサイズで食べやすいFish Box。codであることとチップスの量が多いことに違いはない。
2.持ち帰り用Fish & Chips
持ち帰り店といえば、バラマーケットに行列のできていた'proper'(正統派)Fish & Chips店を思い出す。衣に香ばしい下味がついていて、ポーションも小さめだったので美味しく食べられた。larrytk.hatenablog.co
昨年夏にバラマーケットを訪れたときの写真を見返してみると、`National Fish & Chips Award`(全国Fish & Chips大賞)に優勝したとの垂れ幕が下がっていることに気づく。
これだ!
このAwardの受賞店を探していけば、おいしいFish & Chipsに辿り着くはず。と思って検索をはじめたら、なんと私の家のすぐ近くに''Top 10 best newcomer'(新規開店ベスト10)の店があるではないか。
私の家から車で5分のStones Fish & Chipsは、店内にテーブルの無い持ち帰り専門店。アツアツのFish & Chipsを家に持って帰ってきて、テレビでも見ながらフォークでグジャグジャと突いてだらしなく食べるのが、この料理の本当の食べ方だと聞く。
塩ドバドバドバ
モルトビネガーじゃぶじゃぶじゃぶ
Fish & Chipsとは、そもそもファストフードのスナックのようなもの。上品で美味しい料理を探していたこと自体、間違っていたのかもしれない。好きなだけ塩とモルトビネガーをぶっかけて、家の中でいかにも不健康に食べるのがいちばん美味しい食べ方かも。
チップスもしょっぱくてうまい
3.新世界のFish & Chips
「おいしいFish & Chipsは家の中にある」という、なんだか逆説的な結論に至ったわけだが、それでは物足りないという人々がいる。
ロンドンにはミシュランの星を獲得した日本食レストランが二軒ある。その一つがUMU(ウム)という京懐石料理店だ。
狭い路地の奥にひっそりと佇む
UMUの石井総料理長は、"Fish & Chips革命"というスローガンを引っ提げてNYからロンドンへ乗り込んできた。
その本来の意義は、イギリスでの鮮魚の流通形態を変えてやろうという活動にあるのだが、店で出てくる「魚と芋」は、それだけで十分に革命的だ。スナックとしてのFish & Chipsの姿が、見事に日本流に表現されている。
もちろんめちゃくちゃ美味しい
もう一つ挙げておこう。Street XOというナイトクラブのような怪しいアジアン料理店。店内は若者たちが大いに盛り上がっている。
すべてが怪しい
メニューのいちばん上に「ハマチ・カルパッチョ "Fish & Chips"」とあったので注文してみたら、出てきたのがこれ。
白い紙の上にハマチが並んで出てきた。これのどこがFish & Chipsなのかと、店員に聞かずにはいられない。
"よく見てよ。サツマイモの角切りとポテトチップが乗っかってるでしょ。これをハマチでくるむと、ほら’Fish & Chips`のできあがり!"
そこまでしてFish & Chipsにこだわる必要があるのか?と疑問は残るが、きっとイギリスの人たちは、魚と芋の組み合わせに何かしらの安心感を覚えるのだろう。
いろいろなお店を廻ってみたことで、Fish & Chipsはスナックだという事実を再認識することになった。石井シェフの創作「魚と芋」の姿がそのことを端的に表している。どの店がいちばんおいしいか?などとあまり肩に力を入れないで、しょっぱくて油っこいFish & Chipsをつまみながら、おいしいビールと楽しいおしゃべりの時間を過ごすのがいちばんじゃないか、というのが今回の結論。
さて、そろそろまた日本からお客さんが到着する時間だ。お馴染みのパブへ行って、エールビールとFish & Chipsで乾杯してこよう。
第28回 チーズから学ぶ英国の地理
チーズの本場といえばフランスやスイスを思い浮かべるかもしれないが、チーズへの思い入れの強さではイギリスも負けてはいない。なぜなら、この国でもチーズ作りは地元の伝統に密着しながら営まれているからだ。
英国産チーズの由来を知ることは、イギリスの地理と歴史を学ぶことにほかならない。
1.Stilton Cheese
ロンドンの中心を貫くピカデリー通り(Piccadilly)から1本ずれたジャーミン通り(Jermyn Street)は、細い道ながら由緒ある老舗のひしめく商店街となっている。
そのうちのひとつ、パクストン・アンド・ウィットフィールド(Paxton & Whitfield)は、200年以上も昔からチーズを取り扱う専門店だ。店内にはヨーロッパ各地から取り寄せられたチーズがこぼれんばかりに並ぶ。
王室御用達の紋章。左がチャールズ皇太子、右がエリザベス女王。この紋章についても後で特集を組みますよ
さて、今回の訪問の目的は、スティルトンチーズ(stilton cheese)を見つけること。イギリスの誇る地域名産品の代表選手だ。
店内を見渡すと、黒い瓶の並ぶ棚を早速発見。これがスティルトンチーズだ。EU認証マークがキラリと光っている。
スティルトンチーズはなぜ瓶に入れて売られているのか。瓶を開けるとすぐに答えがわかる。固まったヨーグルトのように青かびチーズが詰め込まれている。まとまって取り出すこともできず、スプーンでほじくり出すしかない。
ボロボロで食べにくいことこの上ない
どうしてスティルトンチーズはボロボロなのか。その答えを探るところから、今回の旅は始まる。
「スティルトン」でググってみると、ロンドンから北へ2時間、高速道路M1沿いにStiltonという町が見つかる。
Stiltonは昔はロンドンとエジンバラを結ぶ街道の宿場町だった
お~、これがスティルトンチーズ発祥の地か!と思ったみなさん。甘いよ。
確かにここはスティルトンチーズが「初めて売られた町」であるが、スティルトンチーズを作っているとは言っていない。実はその生産地はStiltonから北西へさらに1時間ほど進んだレスター(Leicester)に存在する。
どういうことか。レスター州は牧場の多い地域で、新鮮な牛乳が手に入る。ここでチーズを作って宿場町だったStiltonへ運び、スティルトンチーズと名付けて旅行客に売っていたというわけだ。
時代を下って、レスター州で作られたチーズが「スティルトン」と呼ばれるようになり、そのままロンドンへ届けられるようになった。そしていまや、EU認証制度により、レスター州周辺で作られたチーズしか「スティルトン」と名付けることができない。
山梨で「箱根まんじゅう」を作って箱根へ運んでいたら、いつの間にか山梨でしか「箱根まんじゅう」を作ってはいけないことになった、という感じ。
2.工場へ
うんちくの塊のようなスティルトンチーズ。その秘密をもっと知りたくなって、つてを辿って工場見学させてもらうことになった。
レスターから北へ20分、Long Clawsonという田舎町へ。スティルトンチーズを生産する7つの工場の中で、最大の生産量を誇る。
地元の牛乳を使うのも特徴のひとつ
工場内は撮影禁止のため、皆さんにお見せできないのが残念だが、意外と近代的でびっくりした。伝統的な製法を守りながら、できる限りの機械化を進めているとの説明を受ける。
スティルトンチーズの最大の特徴は、「プレスしない」ことだ。圧縮せずに何度もひっくり返すことで水分を抜き、円柱形に仕上げる。
そういえば、先ほどのお店にも、奥の冷蔵庫に円柱のチーズが保管されていた。あれがスティルトンチーズの元の姿だ。
やたらと嵩張るチーズだ
プレスせずに毎日ひっくり返して脆いチーズを作る。そんな面倒な製法を300年も守り続けてきた、いかにもイギリスらしいスティルトンチーズであった。
3.Red Leicester
レスターっ子には、岡崎選手のいるサッカーチーム、眞子様が通っておられたレスター大学のほかに、もうひとつ自慢があるという。それが、レッドレスター(Red Leicester)と呼ばれるチーズだ。ついでに、レッドレスターの地元も覗いてみよう。
レスターから西へ30分。Uptonというとっても小さな村に到着。ここにチーズショップがあるはずなのだが、何度村を行き来しても見当たらない。と思ったら、脇道に小さな看板を発見。 'Sparkenhoe Farm'と書いてある。もしかしてこれか??
看板がぽつねんと
砂利道を恐る恐る進んでいくと、レンガ造りの小屋を発見。中を覗くと、なんと、チーズが山のように積まれているではないか。
もっとお客にアピールしてよ!
チーズショップにはかわいらしいカフェも併設されている。黒板に書いてあったチーズトースティ(cheese toastie)を注文してみた。
とてもオシャレ
お姉さんがパンにチーズを挟んで焼き始めた。お馴染みのオレンジ色のチーズだったので、「これはチェダーですか?」と尋ねてみたら、「いやいや、この農場の牛乳で作ってますから、レッドレスターなんです」とのお答え。何か聞いてはいけない質問だったような気がする。
以前、あるレセプションで「シャンパンですか?」と聞いて「いえ、イングリッシュスパークリングです」と言われ、恥をかいたことを思い出す。仏シャンパーニュ地方で生産されたスパークリングワインしかシャンパンと呼ばないのと同じく、オレンジ色の固いチーズはどれもチェダーだと思っていた自分は間違っていたようだ。
それではと、レッドレスターの山からひとかけらを購入。レッドレスターは、熟成が進むほど濃厚な味が際立ってくるとのこと。塩気が強く、サクサクと食べられる。赤ワインの最高のお供だ。
4.Chedder
ロンドンに戻ってからも、先ほどのチェダーを巡る会話が心に引っかかる。ハロッズの裏手にあるチーズショップ、ファイン・チーズ・カンパニー(The Fine Cheese Co.)へ本物のチェダーチーズ(Chedder Cheese)を探しにやってきた。
英国産チーズの収集に力を入れるこのお店の棚には、イギリス各地のこだわりチーズが勢ぞろいしている。
その真ん中にあるのがチェダーだ。このチーズはもともとイングランド南西部のサマセット州チェダー村で作られたのが始まりとのこと。現在は世界各地で製造されているが、こだわりのチェダーは今でもサマセット州で作られている。
チェダーの本来の色はクリーム色。お馴染みのオレンジ色は着色してできるものだったのね。日本で見る四角いチェダーとは大違いで、まるでパルメザンのように硬い。職人が丹精込めて作ったチェダーは、味も硬さも格別なのであった。
このお店には小さなカフェがあった。すこし休憩して行こう。
ワイン無しには食べられない
チーズプレートを注文したら、3種類のイギリス産チーズが運ばれてきた。いちばん右はオールドウィンチェスター(Old Winchester)。ロンドンの南西、海にほど近いウィンチェスターの町で、とびっきり硬いチーズづくりに励んでいるとのことだ。
さすが牛と羊の国イギリス。各地でこだわりのチーズが生み出され、地域の誇りとしてその製法が受け継がれている。
最初のお店に戻って、壁に貼ってあったチーズマップを購入した。これまでに見てきたチーズのほかにも、チェシャー(Cheshire)やグロスター(Gloucester)など、各地のチーズが紹介されている。
私がイギリスにいる間にあといくつのチーズに出会えるだろうか。イギリスの魅力は、語っても語っても尽きることがない。
第27回 10ポンドでランチのできる日本食レストラン
ロンドンの外食は高い。ランチでも、料理と飲み物にサービス料を加えて18ポンド(2700円)くらいが相場だ。事務所近くに10ポンドの定食があって重宝していたが、最近12ポンドに値上がりしてショックを受けた。
ロンドンでは10ポンド出してもご飯が食べられないのか。。
絶望の中、ロンドンの雑踏を彷徨っていたら、そこには予想外に素敵なお店との出会いが隠されていた。
1.太郎(Soho)
ロンドンで最もごちゃごちゃした街ソーホーの一角に「太郎」の看板を発見。微妙な似顔絵が目に焼き付いて離れない。どんな店なのか、恐る恐る覗いてみる。
店内は大賑わい。家族連れに友達同士、ビジネスマン風の人もいる。人種も多様だ。みんな楽しそうに食事していて、するするっと店内へ引き込まれていく。
ところで、例の似顔絵はなんだったんだろうと思ったら、、、
目の前に、「太郎」さん。
名前を確認したわけではないが、彼が太郎さんでなければ、果たして誰が太郎さんであろうか。
テーブルは満席のため、カウンターに通される。 席の向こう側はキッチンとなっている。オープンキッチンというよりは、客席と厨房を隔てる壁を作り忘れたかのように、雑然とした厨房が丸見えとなっている。
メニューを拝見。鶏照焼丼7.90ポンド、スパイシーソースをかけても
8.90ポンドだから、10ポンド以下に収まる。今日のランチはこれにしよう。
目の前の厨房にはスタッフが6人ぐらいいて、焼きそばにカレー、餃子やラーメン、注文を次々と捌いていく。あ、チキンをザクザクと切っている。これは俺の注文だな。
5分も経たずに鶏照焼丼が目の前に。チキンが山盛り。2ポンド足すとさらにチキン倍増らしいが、そんなにたくさん食べられないわ。社員食堂のようなボリューム感だ。
ところで、「太郎」さんと俺。店員にもお客さんにも日本人が見当たらない中で、お互いにかなり気になっていた模様。食事のあとになんとなく会話が始まった。
太「どこにお住まいですか」
俺「ロンドンに2年いるんですけどね。この店は初めてですわ。ボリューム満点で美味しかったですよ。」
太「うちもね、そんなに恥ずかしいもの出してるつもりはないんだけどね。」
なんとまあ日本人的な謙遜と自信。いろんな人種に囲まれて、太郎さんも頑張ってるんだな。
スパイシー鶏照焼丼8.90ポンドにサービス料10%の80ペンス。10ポンドで30ペンスのお釣りが戻ってきた。
太郎さんとお友達になると、こっそり味噌汁を持ってきてくれたりして、ちょっと得した気分。また行きますよ。
2.東京ダイナー(Leicester Square)
昼も夜も人通りの絶えない中華街の東端に日本食レストランがあると聞いて、行ってみた。
「東京ダイナー」というちょっとカッコいい名前だが、店内は早稲田の定食屋のようで、いつでも気軽に立ち寄れる雰囲気だ。
お客さんも学生さんかと思われる若者が多い。早稲田と違っているのは、俺以外は全員イギリス人だという事実。
ランチメニューを見てみよう。茄子の揚げびたしセットが£8.50。惹かれますな。
隣のテーブルで、ビジネスマン風のイギリス人がメニューも見ずに「ナスノアゲビタシ、プリーズ」と 注文している。常連さんなんやね。俺もそれください。
料理を待っている間にお茶とお茶うけが出てきた。こんなの頼んでないよと思ったら、どのテーブルにも運ばれていて、店からのサービスのようだ。他の店だったらこれだけで£3とられるわ。なんてお客にやさしい店だ。
ナスノアゲビタシ定食登場。酢の物もついてきて、懐かしい日本の味が楽しめました。
この店のユニークなのは、店内のいろんなところに「チップはいただきません!」という張り紙がしてあること。メニューにも「No Tip!」と明記されている。日本のスタイルでやっているので、チップは受け取らない主義だということだ。なにもそこまで頑なに拒否しなくても、、と思って、お店のお姉さんに聞いてみた。
俺「なんでチップを受け取らないんですか」
姉「料金の中にサービスも含まれてるからね」
俺「くれるものは貰っといたらいいんじゃない」
姉「特別なサービスをしてるわけでもないのに、お客さんから余計なお金貰うなんて気持ち悪いわ」
下町っ子のような歯切れよさにこちらもすっきり。美味しいランチをいただいた感謝の気持ちだけ残して、お釣りの1.50ポンドは持って帰ろう。
3.名古屋(Marylebone)
ロンドンでもっとも賑やかなOxford Streetから北に徒歩10分ほど、オフィス街の広がる真ん中に「Nagoya」が出現する。控えめな外観なので、赤ちょうちんがなければ気づかずに通り過ぎてしまうかもしれない。
店内は純和風の小料理屋的な造り。昭和の時代がまだ留まっているような佇まいだ。イギリスには昭和時代はなかったけど。
こちらもなんだか落ち着いてきた。じっくりとメニューを確認する。
チキンカツ定食とから揚げ定食が8.90ポンド。では大好物のから揚げにしよう。
サラダもついて、食後のフルーツも出てくる。こうやってゆったりと食べていると、新橋の路地裏に隠れて昼休みを過ごしていた頃を思い出す。
目の前の板前さんが難しそうな顔をしているのが気になる。思い切って声をかけてみる。
俺「なんでこの店は『名古屋』なんですか」
板「えっ、なんですか?私が名古屋の出身なんでね。味噌カツとかメニューにあるでしょ」
俺「あちゃー。味噌カツにすればよかった」
なんだかぎこちない会話で始まってしまったが、話しているうちにだんだん打ち解けてくる。
板「うちは〇〇さんみたいな高いお金とる店じゃないからね」
俺「気軽にランチできますね。ありがたいお店ですわ」
会話が止まらなくなってきたが、次の予定があったので途中で離席。お釣りの1.10ポンドは、これからもお世話になりますという印にテーブルに置いていこう。
10ポンドでランチのできる日本食レストランは、どこも人情味にあふれるお店であった。
入れ替わりの激しいロンドンのレストラン業界ではあるけれど、こうやって地元に根付いて頑張っているお店は、探せばまだまだあるのかもしれない。ちょうど今日、11月24日は、いいにほんしょくで「和食の日」だそうだ。ロンドンにも「いいにほんしょく」がたくさんあることを、もっともっと皆さんにお伝えしていこう。
第26回 イギリスでみつける地域名産品
イギリスはどこへ行ってもFish & Chipsしか食べるものがなくて、がっかりするね~
というのはよく聞く話。これはある意味真実だ。私自身、イギリス国内を旅行するとFish & Chipsの食べ過ぎでいつも(さらに)太って帰ってくる。
ほんとうにイギリスには地域名産品といえる食べ物が無いのか?今回はロンドンの大手スーパーマーケットを巡りながら、実態を探ってみることにしたい。
1.スコットランドの牛肉
巨大な倉庫で食品や日用品を大量に売るCOSTCO(コスコ)。アメリカ資本だが世界中に展開し、日本にもイギリスにも巨大店舗を構える。ちなみに、日本で「コストコ」としてお馴染みのこのお店、英語では T を発音しないで「コスコ」と呼ばれている。
すべてが巨大だ
ロンドン郊外にあるCOSTCOには、英国産にこだわる商品が多数揃っている。牛肉もすべて英国産で、特にScotch Beef(スコッチビーフ)を推しているようだ。
イギリスの最北端に位置するスコットランドは、広大な草原や荒涼とした自然といった英国人にとっての原風景の残る地域だ。そんな大自然の中で作られたスコッチウイスキーは味わいに深みがあるでしょう、ということで世界的に有名になったが、同じイメージでもってスコッチビーフのブランド化も進んでいるようだ。
早速購入してきたスコッチビーフの塊肉。ラベルの隅に、丸くて黄色いマークが付いているのにお気づきだろうか。このマークこそが、今回のレポートのテーマである。
黄色いマークをさらに拡大してみよう。Protected Geographical Indicationと刻まれている。略してPGIと呼ばれるこのラベルは、日本語に直訳すると「保護された地理的表示」。特定の地域で生産・加工された農産物や加工食品で、その地域特有の品質や特徴をもち、高い評価を得ている製品をEU政府が認証したもの。
簡単にいうと、その地域でしか生産できない質の高い特産物に、国(EU)がお墨付きを与えた証拠である。例えばスコッチビーフでいえば、子牛が生まれてからお肉になるまでの一生をずっとスコットランドで過ごす。伝統的な餌やりの方法を守っているので肉の品質もいいという。
このマークを探し歩けば、イギリスのおいしい名産品に次々と出会えるのではないか??
次の名産品探しに出る前に、スコッチビーフを焼いておこう。既に糸でグルグル巻きにされている牛肉にフライパンで焦げ目をつけ、オーブンに放りこんで1時間。
できあがり!いい色のローストビーフになった。この柔らかい肉質がスコッチビーフの特徴なのかな。グレービーソースをつけていただきます。
2.ウェールズのラム肉
次にやってきたのは、以前にもお世話になったドデカWaitrose。これまでに見たスーパーの中でもっとも品揃えがいい。
肉コーナーには、牛肉、豚肉、鶏肉といっしょにラム(羊)肉が並んでいる。イギリスはラム肉の大生産国となっていて、豚肉と同じくらいの生産量がある。
棚に並ぶラム肉はすべて英国産。その中に、例の黄色いマークを発見した。
Welsh Lambとはウェールズ地方のラムのことだ。イギリス西部のウェールズ地方は、未開発の自然が残るミステリアスな場所。以前レポートした、羊さんたちが道路にはみ出してきているところ。あそこがウェールズ。
Welsh Lambは、ウェールズで育てられた羊であるのはもちろんのこと、ウェールズ固有の品種をルーツに持つとか、自然のままの草原で育てられるとか、高い肉質基準を満たしているとか、いろいろな要件をクリアしたラム肉のみにマークが与えられるとのこと。
果たしてどのように優れているのか、実際に確かめてみることにしよう。
ローズマリーを乗せてフライパンでジュージュー。焦げ目がつけばできあがり。独特の風味をもつラム肉はちょっと苦手という日本人も多いが、ツボにはまると止められなくなる。Welsh Lamb はしっかりとした歯ごたえと濃厚な味が特徴。ラム肉ファンにはたまらない羊界の王様だ。
3.ポークパイ
店内を歩き回っていたら、パイ製品コーナーにもうひとつ黄色いマークを発見した。
その名は、Melton MowbrayのPork Pie(ポークパイ)。Melton Mowbray(メルトン・モーブレイ)はイギリス中部にある小さい町の名前だ。
なぜパイに町の名前がついているのか。そこがポイントのようだ。
Melton Mowbrayのポークパイがただのポークパイと違っているのは、型にはめずに焼くので、外側が弓形(bow shape)となっていること(??)、熟成されない(uncured)豚肉を使っているので、詰め物の肉がローストポークのような灰色であること(???)だという。どのあたりがすごいのかにわかには理解できないが、とにかくいろいろとこだわりがあるらしい。
黄色いマークを付けることができるのは、Melton Mowbray及びその周辺の地域で作られたポークパイに限られている。この地域でポークパイが作られた歴史は中世にまで遡るということだ。当時、このあたりに広がる草原へキツネ狩りに出かけるGentlemanが、おやつ代わりにポケットへ忍ばせたのがMelton Mowbrayのポークパイの起源だという。
なんてイギリス的な!!
みなさんも、旅行ついでにMelton Mowbrayへお立ち寄りの機会があれば(ないと思うが)、こだわりポークパイの素朴な味をぜひお確かめいただきたい。というか、ロンドンのスーパーでふつうに売っているので、ぜひお試しください。
4.ロンドンのスモークサーモン
Whole Foodsはアメリカから来たスーパーマーケットだが、英国のオーガニック食品や地場産品など、こだわりの商品を取り揃える。
スモークサーモンのコーナーにも、お高めのこだわり商品が並んでいる。その中でもひときわ値段の張るのが、黄色いマークの光るH Forman & Son社のスモークサーモンだ。
原料のサーモンはスコットランド産だが、スモークハウスはなんとロンドンにあるという。"London Cure"(ロンドン燻製)と銘打たれたこの製法は、100年以上も前からロンドン東部のスモークハウスで守られてきたそうだ。
London Cureでは、とれたてのサーモンをスコットランドから48時間以内にロンドンへ運び、オーク材で燻蒸し、人の手で皮と骨を取り除いて一枚ずつ丁寧にスライスしているという。
Forman家のひい爺さんが始めたこだわりの手作り製法を、子どもたちが今の時代まで受け継いできたところ、とうとうEU政府のお墨付きを貰うまでに至ったということやね。
こだわりサーモンを試食してみよう。大量生産される薄切りサーモンと違い、肉厚があって表面がザラザラしている。しっかりした塩味もこだわりの味付けのようだ。
ということで、今回は4種類の名産品をご紹介できた。EU認証マークはイギリスの84商品につけられているというから、探せばまだまだ見つかるのだろう。
おっと。イギリスの名産品としていちばん有名なスティルトンチーズを紹介するのを忘れていた。しかし、イギリスのチーズ事情はなかなか奥が深くて、ここには書ききれない。次回に改めてご紹介することとしよう。
第25回 ロンドンで買える世界の食材
ロンドンは人種の博物館。街を歩いていても、地下鉄に乗っていても、英語以外の言語が常に聞こえてきます。そして、人種のバラエティに呼応するように、世界からあらゆる食材が集まってきます。世界中の食材が街中でいつでも手に入るなんて、すごく魅力的じゃないですか。
1.ポーランド
ポーランドは、2004年にEUへ加盟して以来イギリスへの移民が急増し、現在1千万人のポーランド人がイギリスに住んでいると言われています。移民の中で最大勢力となったポーランド人は、住居地域も広がっているようで、街中の至るところにポーランド食材店があります。
ロンドン中心部から西へ車で40分くらいの Greenford (グリーンフォード)の町。日本人の多く住む Ealingのお隣で、様々な移民の住む町です。いろんな場所でポーランド店を見つけるたびに店内を覗いてきましたが、ここは私が見つけた中で最大のマーケットです。
店内はあらゆる種類のポーランド産食品で埋め尽くされていました。ヨーグルトもインスタントラーメンも生卵も、ぜんぶポーランド産。スーパーマーケットが丸ごとポーランドから運ばれてきたみたいです。
対面コーナーには魚の燻製が並んでいました。日本の居酒屋でよく見かけるような商品がたくさんあってびっくり。
鮭とばに出会えるとは
圧巻だったのはハム売り場。
ハムがぎっしり
ショーケースの中があらゆる種類のハムで埋め尽くされています。しかもどれも美味そうだから困ります。店のおばさんがひとつひとつの特徴を丁寧に説明してくれました。
先ほどの鮭とばと、ロースハムと牛タン煮こごりを購入して、ルンルン気分で帰宅。さっそく試食ですね。ビールは冷えてるかな。
2.アラブ諸国
ロンドンの街中を歩いていると、顔を布(ブブカ)で覆った女性をたくさん見かけます。イスラム教の人々ですね。イギリスにはイスラム教徒が300万人いると言われています。イスラムの皆さんは、実はとても外出好き。若い女性たちが楽しくお買い物する姿や、夜中に家族連れでレストランに入っていく光景をよく見かけます。
Ealing (イーリング)にも、日本人だけでなく多くの移民が住んでいます。ポーランド食材店、ケバブ屋、タイ料理、アフリカンアメリカンの経営する散髪屋さんなど、様々な店が並ぶ中に、とてもきれいな外観のアラブ系スーパーマーケットがありました。
アラブ系スーパーマーケットの特徴は、店先に並ぶ色とりどりの果物と野菜と、ハラルの肉売り場。以前も特集しましたが、アラブの人々はイメージと違って野菜好きなんですよね。
この前の店と同じく、店内にはピクルスがわんさか。
ピクルスずらり
通路にまでピクルスの列が。日本の梅干しみたいにして売ってます。2ポンドと書いてあるけど、ほんまかいな。
向かいの棚には、豆類の袋がずらり。ここまでいろいろ種類を取り揃える必要があるのかなと思ってしまいますが、きっと食へのこだわりが強いんですね。
'ADZUKI'と書いてあるのは、どうやら日本の小豆のようです。「アズキ」が世界共通語になっているとは知らなかった!
アラブ系マーケットは未知の世界でとても面白いけど、さて何を買おうかと店内を見渡すと、意外と手にとれそうなものがない。いろいろ迷ったあげくに野菜だけ買って出てきました。
3.韓国
イギリスに住む韓国人は4万人。6万人いる日本人(在留邦人)よりすこし小さめの勢力です。しかしながら、イギリスの韓国コミュニティには大きな特徴があります。
ロンドン中心から電車で30分ほどのNew Malden (ニュー・モルデン)という駅を降りると、そこはまるでソウルのよう。多くの韓国人がこの地域に居住し、大規模なコリアン・タウンを形成しているのです。
New Moldenにはたくさんの韓国食材店や韓国料理店が集まっています。その中でひときわ賑わっているのがHMartというスーパーマーケット。韓国人のお客さんに交じって遠くから車で買い物に来る日本人もたくさんいます。私もその一人だ。
韓国マーケットの陳列棚をみると、なんだかホッとします。食材の種類が日本のマーケットと似ているからでしょうか。特に、野菜や果物の品揃えが懐かしさを呼び起こします。
ロンドンの日本食材店も立派ですが、 こんなふうに一つのお店ですべての食材が手に入るような大型マーケットは無いんですよね。うらやましいな。
もちろん、韓国スーパーですから、キムチと唐辛子の品揃えは半端ない。どのキムチを買おうか迷ってしまいます。
鮮魚コーナーも種類豊富。現地スーパーの魚は目が濁っているとお嘆きの皆さん。ロンドンにも新鮮な魚はあるんですよ!
韓国マーケットのいちばんのありがたみは、スライス肉が手に入ることです。店内のスライス機で一日中シャコシャコ肉を切っています。これも現地スーパーでは手に入らない逸品です。
スーパーマーケットをぐるぐる廻っていたら、お腹がすいてきました。New Malden には韓国レストランもたくさんあります。まずはチゲ鍋でもいただくことにして、後でお買い物に戻ってくることにしましょう。