ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第1回 ロンドンで日本食はどのように食べられているか。

ロンドンは物価がめちゃくちゃ高い。給与水準もそれなりに高いが、それでもウッと唸る高さだ。
特に、外食が高い。そのあたりのレストランに適当に入って、メニューの中で一番安い料理を頼んでも、£8.5+ドリンク£3.5はする。この中には20%のVAT(付加価値税)が含まれている。さらに、12.5%のサービスチャージを加えて£13.5になると、日本円で2500円を超える。(£1=190円で換算)

レストランで食事している人々を見ていると、恋人同士のデートだったり、週末の家族団らんだったり、特別な時間を過ごす場所という雰囲気で、友達や同僚と「なんか美味しいもん食べに行こうぜ」という感じではない。

寿司レストランなどは高級な方に入るので、誰もが気軽に入れる店ではない。では、「日本食が好き」と言うロンドン市民は、何を食べて「好き」と言っているのか。これが第1回のテーマである。

 

ロンドンの人々にとって最も馴染みのある日本食は何か。私の推測は、「テイクアウト(take away)の日本食」である。

外食のバカ高いロンドンでは、テイクアウト店が大繁盛している。なぜならテイクアウトにはVATがかからないからだ。地下鉄の駅前には必ずサンドイッチ店とコーヒーショップがあって、多くの人が利用している。これらの店と並んで必ずあるのが、「テイクアウト寿司店」である。

 

そこで今回は、ロンドン市民と日本食とのつながりを語るのに外すことのできない「テイクアウト寿司店」をご紹介したい。

 

 1.Wasabi

私がロンドンに来てから最も目にする店。ロンドンを中心に40店舗ほどあるらしい。

ガラス張りで店内に入りやすい雰囲気になっていて、夜遅くまで多様な人種でごった返している。店内には日本語表記がちらほら見られるが、店員に日本人はもちろんいない。日本語はデザインの一種なのだろう。

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£3.99(760円)のBox Set。陳列にあった握りのほとんどがサーモンだった。味は悪くない。枝豆は余計だが。

これでも、店内(ガラスの向こうに見えているテーブル)で食べると、20%のVATが加わって£4.98(950円)となる。


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サーモンテリヤキそうめん£2.99(570円)。何を目指しているのかわからん。
チキンテリヤキ弁当£4.95(940円)。アメリカが発祥だと思うが、テリヤキとは「甘くした醤油だれ」と認識されている。どちらかというと「あんかけ」に似ている気がする。

 

2.itsu

Wasabiの特徴は、明るくクリーンな店内と、ヘルシーな食材にあると思われるが、さらにこれに磨きをかけ、"eat beautiful" を前面に押し出したのが itsu である。

ロンドンに60店舗を展開する。店の前を通っただけでは、日本食店だと気付かない。店はとてもファッショナブルにできていて、レジでは白人の若い男女が笑顔で対応してくれる。店内で食べている客も白人の若者が多い。  

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寿司box£4.99(950円)。握りはマグロ、エビ、サーモンの3色。味噌汁は£1.99(380円)。このときは開店記念か何かで寿司に付いてきた。わかめがたくさん入っていて、普通に味噌汁の味がする。

サーモンテリヤキ弁当£4,19(790円)。こちらのご飯は固いものが多いが、これはそんなに固くない。テリヤキソースはやっぱり甘い。醤油をかけて食べればよかった。

 

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ここにも変わったスープがあった。中に春雨が入っている。"Classic Chicken Noodles"とある。

そうか。わかった!! チキンヌードルは決してクラシックな日本料理ではない。アメリカやイギリスでお馴染みの、塩味のスープにチキンとショートパスタを入れて、ハーブを散らす、あのチキンヌードルだ。そのショートパスタを春雨に替えて、ヘルシーにしているのだ。

考えてみれば、先ほどのWasabi のそうめんも、由来は同じかもしれない。和風テイストを工夫して導入した結果が、サーモンテリヤキそうめんになったのかも。

 

ここまで見てきて、あることに気が付いた。

itsu は、日本食レストランではないのかもしれない。ヘルシーでおしゃれな食べ物を求め続けた結果、日本食が棚の中心を占めるようになったのだろう。実際、寿司box の隣にはヨーグルトフルーツが置いてあって、healthy & beautiful を追求するこの店の姿が表れている。店内に日本語は一切ない。そもそも "itsu" が日本語かどうかも定かでない。

 

サンドイッチを食べ飽きたロンドンの若者の間で、寿司をはじめとする日本食が、healthy で beautiful なメニューとして受け入れられている。

第1回レポートはここまで。