ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第5回 "Wagamama"と"Yo! Sushi"はなぜイギリス人にウケるのか

英国にある日本料理店で、現地の人に受け入れられ、もっとも幅広く展開しているにも関わらず、日本人が決して立ち寄らない店がある。それが、今回取り上げる "Wagamama" と "Yo! Sushi"だ。ロンドンの街を歩いていると、そこかしこに店舗が見つかる。

日本人には頗る評判の悪いこの2つの日本料理店、いや、結論を少し先取りしていうとすれば、"Japanese Style Restaurant"と呼ぶべきなのだろうが、これらの店に潜入し、英国人を惹きつける魅力がどこにあるのかを探るのが、今回のレポートの主題である。

 

1.Wagamama

Wagamamaは、1992年に中国系イギリス人によって始められ、現在、イギリスを中心としてヨーロッパその他世界各国に140店舗以上を展開する。

私が訪れたのは、ロンドン中心部から少し北にあるFinchley Roadそばのショッピングモールに入る店舗。休日の夕方、そろそろお腹が空いてくるかなという頃だ。

ガラス張りの店内はかなり広く、私が入ったときはまだガランとしていた。店の片隅に身を寄せて様子を探ることにして、カップルの隣のテーブルに落ち着く。そのときはまだ、私の"Wagamama"ライフがこんなに楽しいものになろうとは思ってもみなかった...

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Wagamamaのメニューは、ラーメンに焼きそば、丼もの、カレーなど幅広い。ウェイターがやってきて、何やらいろいろ説明したそうにしていたが、それを遮って焼きそばを注文。それからだった。笑いが溢れそうになるのをずっとガマンするはめになったのは。

まずは、私の右隣にいた東欧系のカップル。

注文をとりにきたこれまた東欧系の若いウェイターに、彼女がいきなり「私、お腹空いてないんだよね」と言い出す。「腹減ってなかったら店来るな!」と日本人なら怒り出すところだが、ウェイター君は嫌な顔ひとつせず、少食の女性にお勧めのメニューを次々と紹介し始める。ついでにお互いの母国の話なんかも出てきて、5分ほど楽しい会話が続く。この女、おしゃべりに満足して帰っちゃうんじゃないかと心配し始めた頃、ついにカツカレーをご注文。

ついでに彼氏の方は、日本語の勉強でもしているのか、したり顔で彼女に「ヤサイとはベジタブルのことだよ」とか解説している。そんな彼が注文したのはパッタイ。いやそれ、日本食じゃないから・・・

ちなみに、カツカレーを食べ始めた彼女さん。途中で「このディッシュにカレーは合わないわ」と言い出して、カレーの代わりにテリヤキソースをぶっかけていました。カレーの神様がきっと泣いてる・・・

 

さて次、私の左隣に白人の若いお姉さんが一人で座った。イギリスにも「おひとりさま女子」がいるんだ!

彼女は座るなりウェイターに「私の注文はもう決まってるの」と言ってラーメンを注文。そしてメモ帳を取り出して、夢中で何やら執筆活動を始める。

ほどなくラーメンがやってきたが、執筆活動を止める気配はない。3分経過・・5分経過・・・。お姉さん、ラーメンは早く食べたほうがいいと思うんだけど。。

もう十分に麺が伸びたと思われる頃、ようやく食べ始めた。それでも美味しそうに食べてるんだから、俺の心配は余計なお世話ということか。

 

さらに左隣に座ったのは白人の老夫婦。日本食は初めてなのか、店に入ったところから、しきりにメニューを見ながらウェイターに何かを聞いている。

途中から話し声が聞こえてきたのだが、どうやらラーメンのスープがどんな味なのかをすべての種類のラーメンについて詳細に聞いているらしい。これまたウェイター君は嫌な顔ひとつせず、丁寧に解説を繰り返している。残念ながら、この老夫婦が注文を決断する前に、私がしびれを切らして店を出てしまった。お望みのラーメンは見つかったのだろうか。

私と入れ違いに入ってきたのは、若い白人夫婦と2人の子供。子供ははしゃいで店内を走り回っている。若夫婦はメニューをテーブルに放り出して、何やら真剣に話しこんでいる...

 

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私が食べた焼きそばの味はどうだったかって?そんなことはどうでもいいんだよ。ちゃんと完食しました。

それよりも、この店にとって大切なことは、私といっしょにいた東欧系のカップルも、白人のお姉さんも、老夫婦も、若い家族も、家に帰ったときに「今日はJapaneseを食べて楽しかった」と思ってもらえること。そんなサービスをこの店は届け続けているのです。

 

2.Yo! Sushi

Yo! Sushiは、回転寿司スタイルのレストラン。1997年創立以来店舗を増やし、現在、ロンドンを中心に70店舗以上。海外にも進出している。

今回はBaker Street駅に直結した店舗に潜入。Wagamama同様、日本人駐在員の評判がかなり芳しくないこの店の実態に迫った。

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日曜午後3時という閑散時でもあり、私が入ったときにいた客は、東洋系4人家族とおひとりさまの旅行者らしいおばさんのみ。定点観測のため1時間ほど粘ったところ、その間に、白人と黒人のおじさん2人連れが来ては去り、白人の父子が来ては去り、東欧系の女性二人組が来ては去り、中華系のカップルが来るといった状況。かなり回転が速い。寿司の回転じゃなくて、客の、ね。

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ベルトコンベヤーには、カリフォルニアロール(写真左:£3.6=650円)と枝豆その他が少々回っている。コンベヤーはスカスカだが、店員は特にこれを埋める気はないらしい。

ちなみに、カリフォルニアロールにサーモンを載せて七味をかけるとサーモンドラゴンロール(写真右:£4.5=810円)となる。どの皿も蓋に値札のようなものが貼ってあって、これで製造時間がわかる仕組みになっている。

この店の寿司がマズいという日本人は多いが、果たしてどうか。現地系スーパーでサンドイッチと並んで売っている寿司ロールと比べて、どれだけ違いがあるだろうか。というか、カリフォルニアロールなんて、誰が作ってもウマくもマズくもならないように思うけど。

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この店の売りは、なんといってもメニューのわかりやすさにある。日本食の知識がまったくなくても、回っている皿をとるか、あるいはメニューの写真を指差せば注文ができる。実際、客の多くは、座ったらまずコーラを注文し、それからメニューを手当り次第に指差していた。

ところで余談だが、客の注文した寿司が既にコンベヤーで回っているとき、店員はどうするか。日本では必ず新しい寿司を握って出してくると思うが、ここでは店員がコンベヤーを見廻してヒョイとその皿を持ってくる。この国に「新鮮さ」という概念は無い。

 

店内には料理担当が2人、ウェイトレスが1人。シェフという雰囲気ではなく、客の注文に応じてマニュアル通りに淡々と小皿を作るアルバイト職人の様相。

スキルの不要な調理法を確立して、回転の速い客を捌く。サービスを最低限に抑え、広い店内を少ない店員で回す。わかりやすいメニューで一見客の敷居を下げる。これってまさにファストフードの戦略だよな。

"Japanese Style"と「回転寿司」というアイデアを活用した新たな形態のファストフード店。それがYo! Sushiだ。

そうだとすれば、日本国内で複数のハンバーガチェーンが競っているように、競合が現れればロンドンも激戦地帯となるだろう。Yo! Sushiの質が低いとみるならば、高品質にこだわって勝負することも可能だと思う。ただ、1500円超の時給が求められるハイパー物価高のこの地で、大規模なシステムを整えた寿司チェーン店を新たに立ち上げることができるかどうか。これまでのところ、そんな気概のある日本人を私は知らない。

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ロール系寿司3皿と焼きそば、味噌汁(お代わり自由)を注文して、£19ちょっと。これでお腹いっぱいにはなる。この国ではFish & Chipsとコーラで£15を超えるわけだから、まあまあ許容範囲か。

それから、焼きそばは完食できませんでした。どの店でも焼きそばはハズレがないと思っていたのだが。。