ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第9回 イギリスで買える日本食材(生鮮品編)

イギリスのスーパーマーケットにはいろんな野菜や果物が並んでいるけど、日本でお馴染みの食材とはちょっと違うな、と感じることはよくある。和食にはやはり日本の食材を使いたいところだが、果たしてイギリスでどれだけ日本食材が手に入るのか。

TESCOやSainsbury'sなどの現地系スーパーマーケットで手に入る日本食材は、大型店のアジアコーナーにほんのすこし並んでいる味噌や海苔くらい。生鮮品にお目にかかったことは一度もない。

日本食材のバラエティを求めるなら、Japan CentreやTK Trading、Atari-yaといった日系のお店に行くしかない。それでも店頭に並ぶ生鮮品の種類は限られている。

なぜ生鮮品が手に入らないのか。その原因は以下の3つに分類される。

①検疫上の理由などにより、日本から英国(あるいはEU)への輸出が禁止されている。(豚肉など)

②日本からの輸出時に商品を検査したり、日本で生産施設の認定を受ければ、英国への輸出は可能であるが、そのために必要となる多大な手間(コスト)をかける業者がいない。(ミカン、魚など)

③日本から英国への輸出に特に制度的な障壁は無いが、輸送時に傷んでしまったり、そもそも値段が高すぎて売れないといった問題があって、実際にはほとんど輸出されない。(イチゴ、メロンなど)

このように、課題は山積みではあるが、それでもなんとかイギリスまで辿り着いたいくつかの商品をご紹介していきたい。

 

1.野菜

野菜の多くは、日本から英国へ輸出するのに特別な検査や認定は必要とされない。日系スーパーをよくよく観察すれば、実際に日本産の野菜は少量ながら入ってきていることがわかる。

 

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キュウリやカボチャ、イモ類などは、現地系スーパーで類似の商品を見かけるが、やはり日本産とは品種が違っていて、和食の食材として使うとなると違和感は否めない。日本産が欲しければ、日系スーパーに走っていって、ちょうど入荷されていることを祈るしかない。

 

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今晩は鍋かなと思ったとき、現地系スーパーで野菜を揃えられるか。ほうれん草やレタス、クレソンなどの葉野菜は手に入るけれど、さっと湯通ししてポン酢で食べられるような野菜は少ない。中華系スーパーではハクサイなども見かけるが、ミズナのような柔らかい葉野菜は日系スーパーでないとなかなか手に入らない。

シイタケは最近のマッシュルームのブームに乗って、ヨーロッパでも多く作られているようだ。でも、日本産シイタケのような肉厚な商品にはお目にかかれない。

 

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大葉やわさびは、もともと英国の食生活には登場しなかった食材であるが、ハイエンドな日本料理店では見かけるようになってきた。イギリスのお金持ちの間にも浸透していくことを期待したい。

 

2.果物

果物は、病害虫を拡散させるリスクが高いため、輸出の際に検査が必要となるなど、手間がかかるものが多い。それでも、イギリスへの輸出が可能な商品はたくさんある。あとは、コストの問題さえ解決できれば、、、

 

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柿や梨は日本での輸出検査が必要であるが、イチゴやメロンは検査不要。いずれも、英国への輸出は可能なのに、なかなかスーパーの店頭には並ばない。果肉が軟らかくて傷みやすいという輸送面での課題も大きい。品質の高い日本産の果物に、ぜひとも南欧産と店頭で勝負してもらいたいものだ。

ミカンなどのかんきつ類の輸出は特に難しい。病害虫のまん延を防ぐため、登録された生産農園や選果施設からしか輸出ができず、このような登録を受けた農園・施設は日本国内にほとんど存在しない。(高知県北川村のユズ農園・施設くらい)

 

 3.水産物

魚や貝などの水産物は、認定・登録された施設からしかEUへ輸出できない。これは、EU域外から持ち込まれる水産物とEU内で流通する水産物との衛生管理のレベルを合わせるため。

EUへ水産物へ輸出するためには、卸売市場や水産加工施設などがEUの求めるHACCP基準(衛生基準)を満たしている必要がある。EUの要求する衛生管理のレベルは高く、例えば築地市場で売買される魚はEUへは輸出できない。

このため、イギリスのスーパーで見つけられる日本産の水産物の種類はかなり限定されている。

 

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日本産の冷凍ホタテは世界中で人気が高く、輸出体制も確立している。イギリスにもかなり入ってきているようだ。そういえば昔、アメリカでお馴染みのTrader Joe's の棚に並んでいるのを見つけて、びっくりしたことがある。

 

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水産加工施設の認定は、魚種や加工品目ごとに行われるので、輸出できる魚種の幅がなかなか広がらない。これまでに加工施設が認定されて輸出可能となった魚種は、ホタテ、ブリ・ハマチ、サバ、マグロくらいか。

日系スーパーで扱われている魚も、多くは日本からの輸入品ではなく、世界中の海から集められている。そもそも日本でも、寿司ネタのほとんどはノルウェー産だったりインド洋産だったりするわけなので、水産とはそういう世界なんだろう。海はつながっているしね。

 

4.肉類

肉類で日本からEUへ輸出できるのは牛肉だけ。豚・鶏肉や肉加工品、卵などは、すべて輸入禁止となっている。BSEや口蹄疫、鳥インフルエンザなど、いったん国内に持ち込まれると大打撃を食らうので、いずれの国も輸入には非常に慎重だ。

 

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和牛肉は、値段は高いが日系スーパーで手に入る。ちなみにHarrod'sでも手に入る。和牛を日本から輸出するには、認定を受けた施設で加工しなければならず、このような施設は日本全国に数か所しかない。

和牛は日本でもお高いが、ロンドンではさらに高い。なお、横に並んでいる和州牛はオーストラリア産。ブリティッシュレストランなどでも、"Wagyuバーガー"などがメニューに載っていることがあるが、オーストラリア産であることが多いので、店員に尋ねた方がいい。お値段は和牛に比べればお手頃。

 

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肉エキスなど、加工食品の原材料として使われる食材も、日本からの輸出は禁止されている。イギリスで販売されているカレールゥの原材料を見れば、肉エキスが含まれていないことがわかる。 

 

以上、いろいろと食材を見てきた。あれっ、こんなものも輸入できないのか。と思うものも多いけど、まずはそのことを知った上でスーパーの棚をチェックしてみよう。食品業界のみなさんの努力の成果が見えてくるよ。