第17回 日本人の行かない日本食レストラン
ロンドンには日本食レストランがたくさんある。正統派の京都懐石からなんちゃって寿司ロールまで、種類も様々。新橋の居酒屋みたいなところもあって、私たち日本人に寛ぎの空間を提供してくれているのだが、果たしてイギリスの人たちにはどんなお店がウケているのか。
今回は、地元の人たちに人気で、いつもお客さんがいっぱい入っているんだけど、ついぞ日本人の姿を見かけたことがない、というお店をいくつかご紹介したい。
1.Sexy Fish
Berkeley Square House,Berkeley Square. London W1J 6BR
Sexy Fish | Asian Seafood Restaurant Mayfair London
高級レストランの集まるメイフェア(Mayfair)地区のど真ん中、バークリー広場(Berkeley Square)に面した通りに、2年前、忽然と姿を現した。
事務所の近くなので、店の前を通るたびにとても気になっていたのだが、窓にはスモークが貼られていて、中の様子をうかがい知ることができない。店の看板にカタカナで「セクシーフィッシュ」と書いてあったり、メニューにSushiとかRobataとかあるところから、いちおう日本をイメージしたレストランなのだろうと推測する。
店の中をみてみたい。行ってみよう!
こういった高級店は、ランチでも予約は必須。ネットで予約して、その日を待つ。
当日。予約時間どおりに店に入る。
うぉー。ぴかぴかだー。
大きな絵の描かれた天井、フカフカのソファー、壁には豪華な装飾品。時間がゆったりと流れる別世界に迷い込んだようだ。
店名どおりのセクシーな女性が私たちを席まで案内してくれる。ソファーへ落ち着いた瞬間に、イケメンサーバーがメニューと水を持ってくる。
これが、高級店のサービスというものか。。
ため息をつきながら、メニューを眺める。時間の感覚とともに、金銭感覚もマヒしてきたようだ。メニューの数字が気にならなくなってくる。
料理を頼もう。周りのお客さんがどんな料理を食べているか、他のテーブルをチェックしてみる。
食べてない。。
みんな、ワイングラスをもっておしゃべりに熱中している。テーブルの真ん中に寿司ロールが何切れか残っている。
そう、ここは社交の場だ。ご飯をガツガツ食べるところじゃない。私たちも、控えめに注文することにしよう。ということで、以下、料理の一部をご紹介。
Sexy Fish Roll。£14(2,000円)。ご飯が入ってない。
ホタテの炉端焼き。これで£30(4,000円)は随分強気。
常陸野ネストビールがあってビックリ。
デザートは前衛的な抹茶アイス。
てなわけで、ちょこちょこと料理つまみながらお酒飲んでぺちゃくちゃしゃべっていたら、あっという間に2時間くらい経ってました。その間も、イケメンが何度もやってきて、皿を取り替えたりお酒を注いだり。そういえば、「ちょっと、すみませーん」と店員を呼び止めることは一度もなかったかも。
サービスにお金を払う。そんな高級店には、繊細な日本料理が合うのかもしれない。
2.Chotto Matte
11 - 13 Frith St, Soho, London W1D 4RB
Home - Chotto Matte | Nikkei cuisine | London
ロンドンで最も賑やかな地区、ソーホーは、各国の料理店にパブやバー、なんだかわからん怪しい店がごちゃごちゃっと並んでいて、昼も夜も若者がワイワイやっている街。このレストランバーも、店の外にまでお客さんが溢れている。
ん?チョットマッテ?一寸待てよ。もしかして、これ、日本語か?(混乱)
いったん家に戻って店のHPを確認。"Nikkei Cuisine"て「日系」てこと?日本-ペルーの融合とか書いてある。どんな料理だ?(再び混乱)
これは行ってみるしかない。
改めてお店へ。大人気の店らしく、予約がとれたのが8:45pm。既に街は混沌としている。
店の中に入るやいなや、縦ノリの音楽と立ち飲み客の喧噪に包まれた。予約してあると伝えると、上の階へ。
かっこいい。薄暗い店内でテーブルの上のローソクがゆらめく。壁には青っぽい絵が浮かび上がっている。
周囲を見渡してみる。若者のグループやカップルたち、ビジネスマンに親族の寄り合いみたい人たちまで、いろいろ。これからクラブへ向かうであろう黒いドレスの女性たちもウロウロしている。
みんな、大いに飲み食いしているようだ。次々と酒と料理がテーブルに運ばれていく。Sohoのパワーの源を感じる。
よし、我々も負けずに注文しよう。天ぷら、餃子、寿司ロールあたりがNikkei料理のようだ、ペルー料理からポテトやししとう焼きなど。ペルー風のバーベキューを頼もうとしたら、「それはお勧めしない」とウェイトレスに断られてしまった。そんなフランクさもこの店の人気の秘訣なのか??
寿司ロールを目の前で炙る。炎が飛び散って結構危ない。
冷やしたスパークリング日本酒をわざわざ徳利に移し替えてくれる。突っ込みどころが多すぎて、かえって黙って盃を傾けることに。
めっちゃ立派なデザート盛り合わせ
いろいろ不思議なこともあったが、料理は意外とうまいし、値段もそれほど高くない。何より、店にいるだけで楽しい気分になってくる。十分に満足して下の階に降りると、縦ノリがますます激しくなっていた。Sohoの危なっかしい夜はまだまだ続くようだ。
こうやってみんなで楽しく食べられるのも、日本食の魅力なのだ。
他にもご紹介したいお店はいっぱいあるけれど、とりあえず今回はここまで。どちらの店も満員だったが、日本人客は私たちだけだった。日本人の知らない人気の日本食レストラン。私たちの周りのお客さんたちが、日本料理を食べる目的でこの店に来ているわけではないことは、なんとなく察しが付く。
ゆったりと時間を過ごしたい。仲間と楽しくワイワイやりたい。そんな期待をもってお客さんはお店を選ぶ。そして、そのお客さんの期待に応える料理が、どちらも日本食だったとしたら、それは十分に誇らしいことではなかろうか。