第21回 英国のファームショップ巡り
イギリスの田舎道をドライブしていると、 "Farm Shop(ファームショップ)はこちら" という看板に出会うことがあります。
日本の「農産物直売所」に近い形態ですが、イギリスのファームショップは、農場を散策できたり、レストランが併設されていたりと、施設も充実していてバリエーションもずっと豊かです。そして、どのファームショップも、地元の人たちで大いに賑わっているのです。
そんな魅力たっぷりのイギリスのファームショップに、ぜひ立ち寄ってみましょう。
1.北西イングランドのコミュニティ農場
陶磁器のWedgwoodで有名なStoke-on-trent(ストーク・オン・トレント)へ向かう途中、ファームショップを探してちょっと寄り道してみました。
ここ、"Fordhall Farm"(フォードホール農場)と名付けられた農場は、隣接する工場の拡張に抗うため、一口オーナー活動を展開し、10年前に8000人の地主に支えられる農場となったとのこと。
早くからオーガニック農法にも取り組んできたというこの農場は、イングランド初の「コミュニティ農場」として活動が注目されています。
活発なコミュニティ活動
まずはファームショップを覗いてみます。
ニワトリがお出迎え
さすがオーガニックに長年取り組んできただけあって、地元で収穫されたオーガニックのキャベツやキノコ、ジャガイモなどが並びます。周辺の農家からも農産物を仕入れている模様。地域密着型の流通経路が出来上がっているのでしょうか。
精肉コーナーには、「この農場の牧草地に一年中放牧して育てた」との表示。肉製品に対するこだわりの強さが伝わってきます。
では、農場へ出てみましょう。
木戸の向こう側が農場
木戸をくぐった先は、豚が徘徊する放牧地。デコボコで水たまりだらけの牧草の上を歩いていくと、ずっと奥に羊の群れが見えます。どこまでが農場の敷地なのかぜんぜんわからんです。
はるか遠くに羊の群れが見える
農場散歩を終えて、カフェで休憩。
店員もお客さんも地元の人たちのようです。地域のコミュニティにしっかりと支えられているんですね。私たちも紅茶とケーキを注文してコミュニティに少しだけ貢献させてもらいました。
2.湖水地方の歴史保存農場
観光地として有名な湖水地方へ遊びに行ったついでに、近くの "Old Hall Farm" (オールドホール農場)へ寄ってみました。看板には 'Historic Working Farm'(歴史的動態保存農場)とあります。いったい何があるのかな。
快晴の湖水地方
Shopというほど商品は並んでいなくて、代わりにいろいろな味のアイスクリームがずらり。ここで作っているようなので、とりあえず1つ買って味見を。
素朴な味がしてうまい!
隣ではチーズ作りの実演もやってました。手作り感満載ですね。
それでは中へ。
この農場の売りは、動態保存されている農業機械の数々。100年前の蒸気トラクターや耕運機がまだ動ける状態で保存されています。
これがまた、ビックリするほど大きい!正面からみると、蒸気機関車が並んでいるようです。一日に50エーカー(20ヘクタール)を耕せると説明してあります。
「イギリスは農場が大規模化しているので、トラクターの大型化も進んでいる」と思っていましたが、少し理解が足りなかった模様。イギリスのトラクターは100年も前からとても大きかったのでした。
そのほかにも、70年前の籾摺り機やロードローラーなどが現役で動いていました。古いものを大切にするイギリスならではの光景ですね。
そろそろお腹が減ってきたので、ここでランチを。広場では家族連れがサンドイッチなど広げていました。絶好のピクニック日和ですね。
ハンバーガーには地元産の豚肉を使用している模様。野菜もたっぷりでおいしくいただきました。
ニワトリが分け前を要求しにきた
3.コッツウォルズのガーデンショップ
コッツウォルズをウロウロしていたら、 'Farm Shop' と書かれた建物を見つけたので覗いてみました。"Lowden Garden Centre"(ローデン・ガーデンセンター)という看板をめがけて、車が次々とやってきます。
野菜や果物がたくさん並んでいます。ただ、どこで採れた農産物なのかよくわかりませんでした。コッツウォルズは野菜生産が盛んというわけでもないので、他の地域から運んできたものも多かったかも。
ここの精肉コーナーにも「肉製品はすべて地元産」の掲示があります。どの農場も家畜を大切に育てているんですね。イギリスの農業がいかに畜産物を中心に成り立っているかがわかります。
ファームショップの隣は、ガラス張りの大きな温室のようです。車でやってきた人々が、みんな温室の中に入っていきます。
温室の中を覗いて納得。ここはレストランになっていました。ガラス屋根から差し込む太陽光、テラス席のようなテーブル配置、そこに覆い被さってくる鑑賞樹。
ぜんぜんゴージャス感はないけれど、「自然の中にいる」みたいな感覚がイギリス人にウケているようです。老夫婦がゆっくりとお茶を飲んでいる姿がたくさん見えました。
それでは私たちもランチにしましょう。ランチメニューが黒板に書かれていて、これが読みにくい!
解読できた範囲でいうと、レストランでも地元産の肉料理がウリとなっているようです。スペアリブのメニューにも 'Lowden' の冠がついているので、きっと地元産の豚が使われているのでしょう。もっとはっきり書けばいいのに。
巨大なスペアリブに大満足してレストランを出ると、隣のスペースでは植物の苗や庭の資材を売っていました。日本でも、郊外型ホームセンターの奥にガーデンコーナーがありますね。それと同じ雰囲気です。
そういえば、この店では野菜や苗をいろいろ売っているけれど、周囲には農場が見当たりません。そもそも店の名前が「ガーデンセンター」ですからね。植物の苗を売るガーデンコーナーがこの店のメインで、そこにレストランとファームショップがくっついているというのが、この店の正しい理解なのでしょう。
田舎好きの英国人にとって、緑あふれるファームショップは週末の絶好のお出かけ先なのでしょう。ファームショップに併設されているレストランやカフェは、とりわけ人気があるようです。
コッツウォルズで立ち寄ったお店のように、農場とは直接のつながりのないホームセンターのガーデンコーナーみたいなのにオシャレなレストランがくっついている形態は、あれ以降もロンドンの内外でいくつも発見することになりました。なぜこの組み合わせが英国人にウケているのか、分析はまた後日に。