ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第26回 イギリスでみつける地域名産品

イギリスはどこへ行ってもFish & Chipsしか食べるものがなくて、がっかりするね~

というのはよく聞く話。これはある意味真実だ。私自身、イギリス国内を旅行するとFish & Chipsの食べ過ぎでいつも(さらに)太って帰ってくる。

ほんとうにイギリスには地域名産品といえる食べ物が無いのか?今回はロンドンの大手スーパーマーケットを巡りながら、実態を探ってみることにしたい。

 

1.スコットランドの牛肉

巨大な倉庫で食品や日用品を大量に売るCOSTCO(コスコ)。アメリカ資本だが世界中に展開し、日本にもイギリスにも巨大店舗を構える。ちなみに、日本で「コストコ」としてお馴染みのこのお店、英語では T を発音しないで「コスコ」と呼ばれている。

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ロンドン郊外にあるCOSTCOには、英国産にこだわる商品が多数揃っている。牛肉もすべて英国産で、特にScotch Beef(スコッチビーフ)を推しているようだ。

イギリスの最北端に位置するスコットランドは、広大な草原や荒涼とした自然といった英国人にとっての原風景の残る地域だ。そんな大自然の中で作られたスコッチウイスキーは味わいに深みがあるでしょう、ということで世界的に有名になったが、同じイメージでもってスコッチビーフのブランド化も進んでいるようだ。

 

早速購入してきたスコッチビーフの塊肉。ラベルの隅に、丸くて黄色いマークが付いているのにお気づきだろうか。このマークこそが、今回のレポートのテーマである。

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黄色いマークをさらに拡大してみよう。Protected Geographical Indicationと刻まれている。略してPGIと呼ばれるこのラベルは、日本語に直訳すると「保護された地理的表示」。特定の地域で生産・加工された農産物や加工食品で、その地域特有の品質や特徴をもち、高い評価を得ている製品をEU政府が認証したもの。

簡単にいうと、その地域でしか生産できない質の高い特産物に、国(EU)がお墨付きを与えた証拠である。例えばスコッチビーフでいえば、子牛が生まれてからお肉になるまでの一生をずっとスコットランドで過ごす。伝統的な餌やりの方法を守っているので肉の品質もいいという。

このマークを探し歩けば、イギリスのおいしい名産品に次々と出会えるのではないか??

 

次の名産品探しに出る前に、スコッチビーフを焼いておこう。既に糸でグルグル巻きにされている牛肉にフライパンで焦げ目をつけ、オーブンに放りこんで1時間。

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できあがり!いい色のローストビーフになった。この柔らかい肉質がスコッチビーフの特徴なのかな。グレービーソースをつけていただきます。

 

2.ウェールズのラム肉

次にやってきたのは、以前にもお世話になったドデカWaitrose。これまでに見たスーパーの中でもっとも品揃えがいい。

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肉コーナーには、牛肉、豚肉、鶏肉といっしょにラム(羊)肉が並んでいる。イギリスはラム肉の大生産国となっていて、豚肉と同じくらいの生産量がある。

棚に並ぶラム肉はすべて英国産。その中に、例の黄色いマークを発見した。

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Welsh Lambとはウェールズ地方のラムのことだ。イギリス西部のウェールズ地方は、未開発の自然が残るミステリアスな場所。以前レポートした、羊さんたちが道路にはみ出してきているところ。あそこがウェールズ。

larrytk.hatenablog.com

Welsh Lambは、ウェールズで育てられた羊であるのはもちろんのこと、ウェールズ固有の品種をルーツに持つとか、自然のままの草原で育てられるとか、高い肉質基準を満たしているとか、いろいろな要件をクリアしたラム肉のみにマークが与えられるとのこと。

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果たしてどのように優れているのか、実際に確かめてみることにしよう。

ローズマリーを乗せてフライパンでジュージュー。焦げ目がつけばできあがり。独特の風味をもつラム肉はちょっと苦手という日本人も多いが、ツボにはまると止められなくなる。Welsh Lamb はしっかりとした歯ごたえと濃厚な味が特徴。ラム肉ファンにはたまらない羊界の王様だ。

 

3.ポークパイ

店内を歩き回っていたら、パイ製品コーナーにもうひとつ黄色いマークを発見した。

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その名は、Melton MowbrayのPork Pie(ポークパイ)。Melton Mowbray(メルトン・モーブレイ)はイギリス中部にある小さい町の名前だ。

なぜパイに町の名前がついているのか。そこがポイントのようだ。

 

Melton Mowbrayのポークパイがただのポークパイと違っているのは、型にはめずに焼くので、外側が弓形(bow shape)となっていること(??)、熟成されない(uncured)豚肉を使っているので、詰め物の肉がローストポークのような灰色であること(???)だという。どのあたりがすごいのかにわかには理解できないが、とにかくいろいろとこだわりがあるらしい。

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黄色いマークを付けることができるのは、Melton Mowbray及びその周辺の地域で作られたポークパイに限られている。この地域でポークパイが作られた歴史は中世にまで遡るということだ。当時、このあたりに広がる草原へキツネ狩りに出かけるGentlemanが、おやつ代わりにポケットへ忍ばせたのがMelton Mowbrayのポークパイの起源だという。

なんてイギリス的な!!

 

みなさんも、旅行ついでにMelton Mowbrayへお立ち寄りの機会があれば(ないと思うが)、こだわりポークパイの素朴な味をぜひお確かめいただきたい。というか、ロンドンのスーパーでふつうに売っているので、ぜひお試しください。

 

4.ロンドンのスモークサーモン

Whole Foodsはアメリカから来たスーパーマーケットだが、英国のオーガニック食品や地場産品など、こだわりの商品を取り揃える。

スモークサーモンのコーナーにも、お高めのこだわり商品が並んでいる。その中でもひときわ値段の張るのが、黄色いマークの光るH Forman & Son社のスモークサーモンだ。

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原料のサーモンはスコットランド産だが、スモークハウスはなんとロンドンにあるという。"London Cure"(ロンドン燻製)と銘打たれたこの製法は、100年以上も前からロンドン東部のスモークハウスで守られてきたそうだ。

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London Cureでは、とれたてのサーモンをスコットランドから48時間以内にロンドンへ運び、オーク材で燻蒸し、人の手で皮と骨を取り除いて一枚ずつ丁寧にスライスしているという。

Forman家のひい爺さんが始めたこだわりの手作り製法を、子どもたちが今の時代まで受け継いできたところ、とうとうEU政府のお墨付きを貰うまでに至ったということやね。

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こだわりサーモンを試食してみよう。大量生産される薄切りサーモンと違い、肉厚があって表面がザラザラしている。しっかりした塩味もこだわりの味付けのようだ。

 

ということで、今回は4種類の名産品をご紹介できた。EU認証マークはイギリスの84商品につけられているというから、探せばまだまだ見つかるのだろう。

おっと。イギリスの名産品としていちばん有名なスティルトンチーズを紹介するのを忘れていた。しかし、イギリスのチーズ事情はなかなか奥が深くて、ここには書ききれない。次回に改めてご紹介することとしよう。