ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第27回 10ポンドでランチのできる日本食レストラン

ロンドンの外食は高い。ランチでも、料理と飲み物にサービス料を加えて18ポンド(2700円)くらいが相場だ。事務所近くに10ポンドの定食があって重宝していたが、最近12ポンドに値上がりしてショックを受けた。

ロンドンでは10ポンド出してもご飯が食べられないのか。。

絶望の中、ロンドンの雑踏を彷徨っていたら、そこには予想外に素敵なお店との出会いが隠されていた。

 

1.太郎(Soho)

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ロンドンで最もごちゃごちゃした街ソーホーの一角に「太郎」の看板を発見。微妙な似顔絵が目に焼き付いて離れない。どんな店なのか、恐る恐る覗いてみる。

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店内は大賑わい。家族連れに友達同士、ビジネスマン風の人もいる。人種も多様だ。みんな楽しそうに食事していて、するするっと店内へ引き込まれていく。

ところで、例の似顔絵はなんだったんだろうと思ったら、、、

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目の前に、「太郎」さん。

名前を確認したわけではないが、彼が太郎さんでなければ、果たして誰が太郎さんであろうか。

 

テーブルは満席のため、カウンターに通される。 席の向こう側はキッチンとなっている。オープンキッチンというよりは、客席と厨房を隔てる壁を作り忘れたかのように、雑然とした厨房が丸見えとなっている。

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メニューを拝見。鶏照焼丼7.90ポンド、スパイシーソースをかけても

8.90ポンドだから、10ポンド以下に収まる。今日のランチはこれにしよう。

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目の前の厨房にはスタッフが6人ぐらいいて、焼きそばにカレー、餃子やラーメン、注文を次々と捌いていく。あ、チキンをザクザクと切っている。これは俺の注文だな。

5分も経たずに鶏照焼丼が目の前に。チキンが山盛り。2ポンド足すとさらにチキン倍増らしいが、そんなにたくさん食べられないわ。社員食堂のようなボリューム感だ。

 

ところで、「太郎」さんと俺。店員にもお客さんにも日本人が見当たらない中で、お互いにかなり気になっていた模様。食事のあとになんとなく会話が始まった。

太「どこにお住まいですか」

俺「ロンドンに2年いるんですけどね。この店は初めてですわ。ボリューム満点で美味しかったですよ。」

太「うちもね、そんなに恥ずかしいもの出してるつもりはないんだけどね。」

なんとまあ日本人的な謙遜と自信。いろんな人種に囲まれて、太郎さんも頑張ってるんだな。 

 

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スパイシー鶏照焼丼8.90ポンドにサービス料10%の80ペンス。10ポンドで30ペンスのお釣りが戻ってきた。

太郎さんとお友達になると、こっそり味噌汁を持ってきてくれたりして、ちょっと得した気分。また行きますよ。

 

2.東京ダイナー(Leicester Square)

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昼も夜も人通りの絶えない中華街の東端に日本食レストランがあると聞いて、行ってみた。

「東京ダイナー」というちょっとカッコいい名前だが、店内は早稲田の定食屋のようで、いつでも気軽に立ち寄れる雰囲気だ。

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お客さんも学生さんかと思われる若者が多い。早稲田と違っているのは、俺以外は全員イギリス人だという事実。

 

ランチメニューを見てみよう。茄子の揚げびたしセットが£8.50。惹かれますな。

隣のテーブルで、ビジネスマン風のイギリス人がメニューも見ずに「ナスノアゲビタシ、プリーズ」と 注文している。常連さんなんやね。俺もそれください。

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料理を待っている間にお茶とお茶うけが出てきた。こんなの頼んでないよと思ったら、どのテーブルにも運ばれていて、店からのサービスのようだ。他の店だったらこれだけで£3とられるわ。なんてお客にやさしい店だ。

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ナスノアゲビタシ定食登場。酢の物もついてきて、懐かしい日本の味が楽しめました。

 

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この店のユニークなのは、店内のいろんなところに「チップはいただきません!」という張り紙がしてあること。メニューにも「No Tip!」と明記されている。日本のスタイルでやっているので、チップは受け取らない主義だということだ。なにもそこまで頑なに拒否しなくても、、と思って、お店のお姉さんに聞いてみた。

俺「なんでチップを受け取らないんですか」

姉「料金の中にサービスも含まれてるからね」

俺「くれるものは貰っといたらいいんじゃない」

姉「特別なサービスをしてるわけでもないのに、お客さんから余計なお金貰うなんて気持ち悪いわ

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下町っ子のような歯切れよさにこちらもすっきり。美味しいランチをいただいた感謝の気持ちだけ残して、お釣りの1.50ポンドは持って帰ろう。

 

3.名古屋(Marylebone)

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ロンドンでもっとも賑やかなOxford Streetから北に徒歩10分ほど、オフィス街の広がる真ん中に「Nagoya」が出現する。控えめな外観なので、赤ちょうちんがなければ気づかずに通り過ぎてしまうかもしれない。

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店内は純和風の小料理屋的な造り。昭和の時代がまだ留まっているような佇まいだ。イギリスには昭和時代はなかったけど。

 

こちらもなんだか落ち着いてきた。じっくりとメニューを確認する。

チキンカツ定食とから揚げ定食が8.90ポンド。では大好物のから揚げにしよう。

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サラダもついて、食後のフルーツも出てくる。こうやってゆったりと食べていると、新橋の路地裏に隠れて昼休みを過ごしていた頃を思い出す。

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目の前の板前さんが難しそうな顔をしているのが気になる。思い切って声をかけてみる。

俺「なんでこの店は『名古屋』なんですか」

板「えっ、なんですか?私が名古屋の出身なんでね。味噌カツとかメニューにあるでしょ」

俺「あちゃー。味噌カツにすればよかった」

なんだかぎこちない会話で始まってしまったが、話しているうちにだんだん打ち解けてくる。

板「うちは〇〇さんみたいな高いお金とる店じゃないからね」

俺「気軽にランチできますね。ありがたいお店ですわ」

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会話が止まらなくなってきたが、次の予定があったので途中で離席。お釣りの1.10ポンドは、これからもお世話になりますという印にテーブルに置いていこう。

 

10ポンドでランチのできる日本食レストランは、どこも人情味にあふれるお店であった。

入れ替わりの激しいロンドンのレストラン業界ではあるけれど、こうやって地元に根付いて頑張っているお店は、探せばまだまだあるのかもしれない。ちょうど今日、11月24日は、いいにほんしょくで「和食の日」だそうだ。ロンドンにも「いいにほんしょく」がたくさんあることを、もっともっと皆さんにお伝えしていこう。