第29回 おいしいFish & Chipsを求めて
イギリスといえばFish & Chips!
日本からお客さんが到着したら、まずはパブへお連れして、ぬるいエールビールとFish & Chipsをお楽しみいただくのが定番のコース。
ついこの前も食べてきたところなのだが、初めて本場のFish & Chipsを食べた皆さんに共通の感想。
魚がでかい。
意外とおいしい。これなら全部食べられるかも。
⇒ ぱくぱくぱく ⇒ やっぱり全部はムリ。
おいしかった。でももう食べなくてもいい。
私自身の初Fish & Chipsは、3年前の夏。着任直後に勇気を振り絞ってパブに入り、注文したのをよく覚えている。そのときの感想を見返してみると、
残りの3年間はもう食べなくていいかな。
とFacebookに書き残してあった。
いやいや、そういうわけにもいかない。この3年間、なんだかんだで30回以上食べたでしょう。
そんなにたくさん食べたのなら、いったいどの店のFish & Chipsがいちばん美味しかったのか?と聞きたくなるよね。それが今回のテーマです。
1.Fish & Chips専門店
おいしいFih & Chipsを食べたければ、パブじゃなくて専門店に行かなくちゃ。
とはよく聞く話。
ここはロンドンでたぶん最も有名なGolden HindというFish & Chips専門店。ランチタイムには、地元の人たちや観光客、ビジネスマンで超満員になる。
100年の伝統を受け継いだという手作りの衣で揚げた白身魚は、ほどよいサクサク感とジューシーさが際立つ。LargeかSmallを選択できるのがありがたい。チップスも小ぶりだし、Smallだとムリなく食べきれて、程よい満腹感が味わえる。
Fish & Chipsに使う魚は、基本はcod(タラ)。イギリス近海でたくさん獲れたのでイギリス人のお馴染みになったということだが、最近は資源量が落ちているので実はそうでもない。
本格的なシーフードレストランへ行くと、cod以外にもいくつか選択肢がある。
ノッティング・ヒルのオシャレな街にあるオシャレなレストランGeales。codのほかに、haddock(これも日本語に訳すとタラ?)、skate(かすべ??)、plaice(カレイ)、hake(タラに似ているがタラではない???)が選べる。
いずれも淡白な白身魚で大きなフィレがとれるところが共通していて、揚げるとどれも似たような形になる。
haddock。codより味が濃くて好き嫌いが分かれる
skate。ジューシーで食べやすい
plaice。カレイの姿揚げを思い出させる味
勢いよく食べ始めたけれど、半分食べたところで手が止まった。衣がサクサクなのは嬉しいのだが、ちょっと油を使いすぎじゃないか?皿に敷かれた紙がボトボトに濡れている。
とても全部は食べきれないと思ったら、衣を剥がして残すとか、少し工夫した方がいいかも。もったいない神様には後で謝ろう。
Sea Shellもとても有名なFish & Chips専門店。こちらではメニューに「groundnut oil(ピーナッツ油)で揚げています」と誇らしげに書かれていて、たしかに軽い仕上がりとなっている。
この店には、Take Away(持ち帰り)コーナーとレストランが併設されている。もともとは持ち帰り店としてスタートし、最近になってレストランを増設したそうだ。
そう。Fish & Chipsは本来、持ち帰り用のファストフードなのだ。
フィンガーサイズで食べやすいFish Box。codであることとチップスの量が多いことに違いはない。
2.持ち帰り用Fish & Chips
持ち帰り店といえば、バラマーケットに行列のできていた'proper'(正統派)Fish & Chips店を思い出す。衣に香ばしい下味がついていて、ポーションも小さめだったので美味しく食べられた。larrytk.hatenablog.co
昨年夏にバラマーケットを訪れたときの写真を見返してみると、`National Fish & Chips Award`(全国Fish & Chips大賞)に優勝したとの垂れ幕が下がっていることに気づく。
これだ!
このAwardの受賞店を探していけば、おいしいFish & Chipsに辿り着くはず。と思って検索をはじめたら、なんと私の家のすぐ近くに''Top 10 best newcomer'(新規開店ベスト10)の店があるではないか。
私の家から車で5分のStones Fish & Chipsは、店内にテーブルの無い持ち帰り専門店。アツアツのFish & Chipsを家に持って帰ってきて、テレビでも見ながらフォークでグジャグジャと突いてだらしなく食べるのが、この料理の本当の食べ方だと聞く。
塩ドバドバドバ
モルトビネガーじゃぶじゃぶじゃぶ
Fish & Chipsとは、そもそもファストフードのスナックのようなもの。上品で美味しい料理を探していたこと自体、間違っていたのかもしれない。好きなだけ塩とモルトビネガーをぶっかけて、家の中でいかにも不健康に食べるのがいちばん美味しい食べ方かも。
チップスもしょっぱくてうまい
3.新世界のFish & Chips
「おいしいFish & Chipsは家の中にある」という、なんだか逆説的な結論に至ったわけだが、それでは物足りないという人々がいる。
ロンドンにはミシュランの星を獲得した日本食レストランが二軒ある。その一つがUMU(ウム)という京懐石料理店だ。
狭い路地の奥にひっそりと佇む
UMUの石井総料理長は、"Fish & Chips革命"というスローガンを引っ提げてNYからロンドンへ乗り込んできた。
その本来の意義は、イギリスでの鮮魚の流通形態を変えてやろうという活動にあるのだが、店で出てくる「魚と芋」は、それだけで十分に革命的だ。スナックとしてのFish & Chipsの姿が、見事に日本流に表現されている。
もちろんめちゃくちゃ美味しい
もう一つ挙げておこう。Street XOというナイトクラブのような怪しいアジアン料理店。店内は若者たちが大いに盛り上がっている。
すべてが怪しい
メニューのいちばん上に「ハマチ・カルパッチョ "Fish & Chips"」とあったので注文してみたら、出てきたのがこれ。
白い紙の上にハマチが並んで出てきた。これのどこがFish & Chipsなのかと、店員に聞かずにはいられない。
"よく見てよ。サツマイモの角切りとポテトチップが乗っかってるでしょ。これをハマチでくるむと、ほら’Fish & Chips`のできあがり!"
そこまでしてFish & Chipsにこだわる必要があるのか?と疑問は残るが、きっとイギリスの人たちは、魚と芋の組み合わせに何かしらの安心感を覚えるのだろう。
いろいろなお店を廻ってみたことで、Fish & Chipsはスナックだという事実を再認識することになった。石井シェフの創作「魚と芋」の姿がそのことを端的に表している。どの店がいちばんおいしいか?などとあまり肩に力を入れないで、しょっぱくて油っこいFish & Chipsをつまみながら、おいしいビールと楽しいおしゃべりの時間を過ごすのがいちばんじゃないか、というのが今回の結論。
さて、そろそろまた日本からお客さんが到着する時間だ。お馴染みのパブへ行って、エールビールとFish & Chipsで乾杯してこよう。