ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第31回 美しく食べるビーガン料理

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昨年、Free From食品を特集したときに、ベジタリアン(vegetarian)やビーガン(vegan)の人口がイギリスで増えているとレポートした。

あれ以降も、肉や魚を食べない人たち、特に乳製品や卵など一切の動物性食品を受け付けない「ビーガン」はますます勢いを増すばかりだ。

今年1月には、"January" と "Vegan"を掛け合わせた "Veganuary"という標語とともに、「年の初めに誓いを立てて、ビーガンに挑戦してみよう!」という呼びかけが世間に溢れた。

肉や魚を食べない生活など到底考えられない私だが、世間を賑わす「ビーガン」とやらはいったいどんなものなのか。ちょっと覗いてみようではないか。

 

1.スーパーマーケットへ

前回の特集で、スーパーマーケットに"Free From"食品が豊富に揃っていることを確認した。

今回はビーガン商品に絞って調査してみよう。まずは、お馴染みの Waitrose へ。

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食材のカテゴリー毎に、ビーガン商品が並ぶ。通常の献立をイメージしながら、ビーガン向けの代替商品を選べるように工夫されているようだ。

f:id:LarryTK:20180321195014j:plain  f:id:LarryTK:20180321185646j:plain 牛乳棚の横にココナッツミルク

f:id:LarryTK:20180321194246j:plain f:id:LarryTK:20180321190108j:plain デザートにもビーガン商品

f:id:LarryTK:20180321201318j:plain f:id:LarryTK:20180321201352j:plain ベジタリアンとビーガンの棚

 

ビーガン商品を3点購入して帰宅。

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サツマイモ&ココナッツスープに豆腐とゴマのステーキ、アーモンドヨーグルト。いずれもビーガン向けであることが一目瞭然なマークを付けている。

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では、恒例の試食タイム。

一口め。意外と味がしっかりとついていて、「これは結構いけるかも」と思わせる。しかし、3分の1くらい食べたあたりから、単調な味に飽きてきて、だんだんペースが遅くなる。

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素材が豆だったり芋だったりするわけだから、食べているうちに満腹にはなるが、なんだか満足感が得られない。

もぐもぐと口を動かしながら、「いろいろ美味しいものがあるのに、なんで俺は豆と芋ばっかり食べてるんだ」などと考え始める。自分がビーガンの境地に辿り着けない理由は、この心の壁にあるんだなと感じつつ、志半ばで挫折。

 

2.ビーガン専門レストラン

ビーガンのためのレストランが、ロンドンで最近人気らしい。何が秘訣なのだろうか。

"Farmacy"というこのお店は、"Pharmacy"(薬局)に"Farm" (農場)を掛けたネーミングのようだ。"Food is medicine"「食は薬」というスローガンを掲げていて、東洋の「医食同源」と通じるものがある。

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平日にもかかわらず、店内は満員。インテリアもオシャレなら、お客さんたちもスマートでめっちゃオシャレだ。

「食は薬」なんて言うので、お寺の精進料理のイメージでいたが、お説教じみた雰囲気はまったく感じられない。お客さんも修行僧のように生活を律しているわけではないから、オーガニックのワインなど飲みながら、仲間同士でワイワイやっている。

 

我々も、オーガニックビール片手にビーガン料理を注文してみよう。

"チーズ"や"ヨーグルト"とあるが、もちろんすべて植物性で、いずれもメニューにカッコが付いてる。「肉や魚が食べられないのなら、野菜でも食べてりゃいいんじゃないか」という安易な発想に陥らず、より健康的な食材をできるだけ美味しく食べようとするのがビーガンスタイルのようだ。

f:id:LarryTK:20180321185233j:plain 玄米マカロニ&"チーズ"

f:id:LarryTK:20180321184916j:plain f:id:LarryTK:20180321185309j:plain millet(ヒエ?)、黒豆とマッシュルームのバーガー

f:id:LarryTK:20180321185342j:plain f:id:LarryTK:20180321185417j:plain chia seeds(チアシード)とフルーツの"ヨーグルト"。チアシードがぬるりと粘る

話題の「スーパーフード」(健康に良い食材)がふんだんに使われていて、少し濃いめの味付けと不思議な食感が面白くて、どんどん食が進む。

いちばん印象に残ったのは、デコレーションの美しさだ。家で食べるビーガン料理では満足できない理由がわかった。美しくないからだ。

ビーガン料理の流行は、「美しく健康的に食べよう」というコンセプトからスタートしていることがわかる。おいしさの基準は、美しさの後ろにくっついてくるイメージだ。いかにもロンドンらしい食べ方だと思う。

 

3.日本食ビーガン

ロンドンにビーガン向けの日本食レストランがあるという。

「いただき膳」というこのお店のメニューは、すべてがビーガン料理となっている。

f:id:LarryTK:20180405074212j:plain f:id:LarryTK:20180405074257j:plain ビーガン・ジャパニーズと書いてある

 

お昼時の店内は満席。若い女性グループからビジネスマン風のおじさん達まで、客層は様々だが、日本人は私以外誰もいない。

f:id:LarryTK:20180405074349j:plain  f:id:LarryTK:20180405074442j:plain おひとりさま席がうれしい

メニューには「きつねうどん」などもあって、ビーガン専門といった特殊な感じはない。いろいろ試してみたいので、幕の内的な弁当ボックスを注文。

弁当ボックスの中身は、野菜かき揚げ、野菜春巻き、揚げ出し豆腐、サラダ、雑穀ごはんと海藻の佃煮、味噌汁。丸の内の定食屋さんで普通に出てきそうなメニューだ。

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野菜や豆は歯ごたえがあって、しっかり噛んでゆっくりと食べている自分に気づく。いつもの倍以上の時間をかけて完食した。これがビーガン料理の健康の秘訣だ。

とてもおいしくいただきながら、日本食とビーガン料理との親和性が高いことに気づく。日本には精進料理の伝統もあるし、普段食べている例えば「ナス味噌定食」なんかも、実はビーガン料理だったりする。

今更騒がなくても、日本人はずっと野菜・豆中心の健康的な食事を楽しんできたというわけだ。

 

4.ビーガン日本食を世界へ

日本食とビーガンとのつながりを深めたいと願って、面白いイベントを企画した。

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Whole Foods Market は、米国資本の自然派スーパーマーケットだが、イギリスでも店舗を展開している。今回、ロンドンのお店で、日本の食材を使ったビーガン家庭料理のワークショップを開催した。

 

評判のクッキングスクールAtsuko's Kitchenを主宰する敦子さんがビーガン寿司を作り、人気ブロガーShiso DeliciousのSaraさんがビーガン弁当を披露する。

f:id:LarryTK:20180321204428j:plain f:id:LarryTK:20180321204340j:plain かわいらしいビーガン寿司たち

f:id:LarryTK:20180321204546j:plain f:id:LarryTK:20180321204521j:plain  なんとも美しいビーガン弁当

お米だけでなく、味噌、醤油、海苔、ゴマ、ワサビなど、たくさんの日本食材を紹介することもできた。食材はすべてオーガニック日本食材を取り扱うClearspringの提供。

ご飯を炊いたことがないというビーガンたちに、和食の基礎を教え、美しい盛り付けを学んで、おいしいお寿司とお弁当を一緒に食べて楽しんでもらう。新たな経験にみんなが満足し、私たちにも笑顔が溢れた。

 

「動物福祉や環境保護のことが気になって、お肉や魚を楽しく食べることができなくなるの」と私の隣で語ってくれた女性は、10年以上のベテランビーガン。私たちとはちょっと違った視点から食を見つめる彼女にとっても、ビーガン日本食は新鮮に映ったようだ。 

おいしくて健康的な日本食と、美しくて華やかなビーガン料理の融合が、新たな食の世界を切り開いていく可能性を予感しながら、今回のレポートはここで終わりとしたい。