ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第34回 現代に生きる王室御用達の名店コレクション(後編)

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前回より、英国王室御用達(royal warrant)のお店をご紹介しています。皆さんの身近なところで王室御用達の紋章がたくさん見つかっています。

では後半は、観光客の姿をあまり見かけないような、ちょっと風変わりなお店を探検しましょう。

 

1.H.R.Higgins

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Bond Street駅の近く、高級店の並ぶ Mayfair に、H.R.Higgins(H.R.ヒギンズ)は小さなお店を構えます。店の奥に並ぶ年季の入った缶の中に、選りすぐりのコーヒー豆と紅茶リーフが入っています。

コーヒーと紅茶、どちらも甲乙つけがたい品質の高さですが、このお店は女王陛下から「Coffee Merchants」(コーヒー商)の認証を受けているということなので、まずはコーヒーを買ってみましょう。

f:id:LarryTK:20180604170046j:plain f:id:LarryTK:20180504062435j:plain 日本人スタッフが応対してくれるときも

豆の種類を選ぶと、缶の中からザラザラと豆を取り出して、目の前で挽いてくれます。大きな天秤に分銅を乗せて豆の重さを測るところが楽しい!

挽いた粉は袋に密閉してくれるので、お土産として持ち帰り可能でしょう。それでもスーツケースに入らないよ~という方は、地下のカフェで挽き立てコーヒーを味わっていきましょう。アンティークに囲まれて、街歩きに疲れたときの立ち寄りスポットとしてもお勧めです。

f:id:LarryTK:20180604171240j:plain f:id:LarryTK:20180604170755j:plain 地下のカフェでくつろぐ

 

2.Berry Bros & Rudd

バッキンガム宮殿のすぐ近く、王室御用達の名店の立ち並ぶSt James's Street の一角に、ワイン屋さんがあります。このお店、Berry Bros & Rudd(ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッド)こそ、300年にわたって英国王室にワインとスピリッツを卸し続けている由緒正しきワイン商なのです。

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居並ぶワインの多くはフランス産。300年も昔から、英国貴族はフランスの良質なワインを好んできました。近年では世界中でワインが作られるようになって、このお店にも各国から選ばれたワインが加わっています。

王室や貴族を相手に商売をしているお店ですが、気後れする必要はありません。私のようなワイン音痴がフラフラと入っていっても、店員のおねえさんが丁寧に対応してくれるし、ワインの値段も(高いのもあるけど)10~30ポンド程度のものが揃っています。

 

勧められるままに、ボルドーの赤ワインを購入。ラベルの両脇に、女王陛下と皇太子殿下のマークが輝きます。

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お店に入ったらぜひ見てほしいのは、"ordinary" (オーディナリー)ワインシリーズです。「普通のワイン」シリーズ??

貴族向けの高級ワインだけではなく、価格を抑えたワインも取り揃えて、市民に幅広くワインの美味しさを知ってもらおうと作ったのが オーディナリー・ワインだとのこと。私たち一般庶民へのお裾分けということですな。

f:id:LarryTK:20180504075006j:plain 「素晴らしい普通の白ワイン」という名のワイン

「普通のワイン」のコンセプトをようやく理解したところで、さらにその横に"good ordinary"とか"extra ordinary"もあります。直訳すると、「良い普通」とか「素晴らしい普通」とかになるのでしょうか。良いのか普通なのかわけがわからんけど、いずれにしても、キリリと引き締まった味に"extra ordinary"感があるとか、勝手に解釈しておきましょう。

 

3.Carluccio's

Carluccio's(カルッチオ)は、ロンドンの至るところで見かけるイタリアン料理のチェーン店です。Covent Gardenの通りを歩いていて、カルッチオの店の前でお馴染みの紋章を発見。これはチャールズ皇太子の紋章じゃないですか。

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なぜレストランチェーンが皇太子の認証を受けているのかという疑問と、そもそもレストランのようなサービス業は王室御用達の認証を受けられないはずという、二重の不思議に包まれて店内に入ってみます。

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お店の中は、いかにもカジュアルな雰囲気のイタリアンレストラン。デート中のカップルも、ビジネスマンのグループも、観光客の若い女の子も、みんな楽しそうにパスタやピザを食べております。

 

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レストランの隣に、イタリア食材を揃えるショップがありました。このショップの存在が、王室御用達の源泉であるようです。

チャールズ皇太子はこのお店を「Supplier of Itarian Food and Truffles」(イタリア食材とトリュフの提供)と認証しています。店の歴史を調べてみると、元々このお店は、カルッチオさんというイタリア人がロンドンに開けたカフェが原点となっていて、その後チェーン展開するに至ったとのこと。

チャールズ皇太子はカルッチオさんと懇意の仲で、いっしょにトリュフ探しに出かけたりもしていたらしい。だから「トリュフの提供」なんですね。皇太子が実際にこのお店に来られるのかどうかわかりませんが、店と皇太子との親密さの証としての紋章だったわけです。

 

4.Waitrose

チャールズ皇太子と食とのつながりを語るには、Waitrose(ウェイトローズ)に触れないわけにはいけません。

ウェイトローズは、このブログでも何度も取り上げたとおり、高品質でこだわりのある品揃えに定評のある高級スーパーです。中でも特に力が入っているのが、"Duchy Organic"’(ダッチーオーガニック)というチャールズ皇太子と連携して立ち上げられたブランドです。

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チャールズ皇太子は、環境保護や動物福祉への関心が大変高く、自らHighgroveという王室所有地で有機農園を経営しているほどです。その皇太子が先頭に立って、有機栽培や放牧飼育に取り組む農家とともに質の高い食品を消費者へ提供し、収益の一部をチャリティーに寄付するというコンセプトで、「ダッチーオーガニック」ブランドが大々的に展開されています。

動物福祉に対する市民の関心の高いイギリスならではの、時代を先取りした取組ではないでしょうか。王室御用達の仕組みとは異なりますが、王室と消費者とのつながりの将来の姿が垣間見えるように感じられます。

 

ところで、ウェイトローズは女王陛下と皇太子から王室御用達の認証を受けています。買物袋にもしっかりと両方の紋章が入っています。

下の写真は、バッキンガム宮殿に近いBelgraviaのお店で見つけた紋章。ウェイトローズの店舗は全国に数多くありますが、紋章を見かけたことがありません。もしかすると、ここは王室がお忍びで買い物に来られる貴重なお店なのかもしれませんね。

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5.Wilkin & Sons

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ダルメインのマーマレード祭りでお世話になったWilkin & Sons社の方から、Tiptree(チップトリー)ジャム詰め合わせのプレゼントが届きました。

チップトリーのジャムには小瓶の一つ一つに女王陛下の紋章がついていて、日本でもお馴染みですね。

ところで、チップトリーとは何のことでしょうか。気になって調べてみると、なんとジャム工場のある地名のことでした。ロンドンから車で1時間半で行けて、カフェやショップも併設されているらしい。これは行ってみるしかないでしょう。

 

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チップトリーに到着しました。

オシャレなカフェで、チップトリーの商品をふんだんに使ったサンドイッチやティーを楽しんでいます。私もティーを飲みながらくつろいでいると、目の前に"Farm Tour"(農場ツアー)のチラシが。チップトリーの所有農場を案内してくれるとのこと。行くしかありません。 

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毎週土曜限定で行われる農場ツアーは、ショップの前から出発するトラクターに乗って広い農場を巡ります。おねえさんの解説付き。

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100年以上続くチップトリーのジャムづくりは、原材料となるフルーツの栽培から始まります。農場では常に最新の栽培技術を取り入れているそうで、高く持ち上げられた畝でイチゴづくりが行われていました。

ツアーが終わってショップに戻ってきました。あの農場で作られたイチゴやブルーベリーがジャムになったのね~と思うと、そりゃ爆買いしますわな。

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最後はいつものごとく農場巡り紹介となってしまいましたが、王室御用達シリーズはこれで一区切りです。

私の任期も残りわずかとなりました。書きたいことはまだまだたくさんあるのに。猛ダッシュであと数回は書き終えたいですな。