ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第30回 イギリスでお米はどのように食べられているか?

f:id:LarryTK:20180219063413j:plain

日本人はどの国に住んでいてもご飯が恋しくなるもの。ロンドンにある各国料理のレストランに入っても、"rice"をメニューに見つけるとつい注文してしまう。ところが、出てくる"rice"は日本のご飯とはまったく別ものだ。調理方法が和食と異なるだけでなく、お米の種類そのものが違っているようだ。

それではイギリスにはどんなお米があって、どのように食べられているのだろうか。片っ端から試してみようではないか。

 

1.お米バラエティ

こだわりの品揃えで評判のWaitrose(ウェイトローズ)には、世界各地のお米が揃っている。Waitroseのホームページには、様々なお米を紹介するページがあって、実に13種類の米が、食べ方と調理方法を添えて紹介されている。

www.waitrose.com

ここで紹介されているのは、シチューに添えるロンググレインやブラウンライス、イタリアのリゾット米、カレー用のバスマティ米、タイ料理に使う香り米、ホールチキンに詰めるワイルドライスなどなど。これらと並んで、「日本の伝統的な寿司に使うモチモチした米」として"sushi rice"(スシ米)が紹介されている。

 

私の訪れた店舗にも米の専門コーナーがあって、バスマティ米やリゾット米、パエリア米などバラエティ溢れるお米が並んでいた。

ところが、我らのスシ米が見当たらない。あれれ、と思って店内を見渡していたら、別の棚にアジア食品コーナーを発見。スシ米はそちらに置かれていたのだった。

f:id:LarryTK:20180219064822j:plain f:id:LarryTK:20180222171101j:plain スシ米だけぽつねんと

 

珍しい米を買ってみようと、イタリア産リゾット米をゲット。日本の米と同じく、ずんぐりむっくりした形の短粒種のようだが、比べてみると日本の米よりはるかに粒が大きい。

f:id:LarryTK:20180221171742j:plain f:id:LarryTK:20180221170633j:plain 左がリゾット米、右が日本の米

袋の裏の調理方法どおり、鍋で米を炒めてから徐々にスープを足していく。大きめの米粒がさらにふっくらして、おいしいリゾットができあがった。

f:id:LarryTK:20180221170705j:plain f:id:LarryTK:20180221170744j:plain チーズを溶かして美味しくいただく

 

2.粒の長いお米

イギリスではリゾットは必ずしもメジャーな料理ではない。

庶民向けスーパーのTESCO(テスコ)では、アメリカ産の長粒米(ロンググレイン)と南アジア産のバスマティ米が棚の大部分を占めていた。なおここでも、スシ米は別棚のアジア食品コーナーで発見。

f:id:LarryTK:20180219071209g:plain f:id:LarryTK:20180222171155j:plain こちらでもスシ米は仲間外れ

夫婦共働きの多いイギリスでは、レトルトや調理不要の食品の品揃えが豊富で、家に帰ってレンジでチンするだけというものが多い。お米コーナーにも、混ぜご飯や味付けご飯のレトルト製品がたくさん並んでいた。

 

一袋買って試してみたのは、egg rice というレトルト食品。中身の米にはロンググレインが使われている。袋を破ってそのまま電子レンジへ放り込み、90秒待つと出来上がり。

f:id:LarryTK:20180224073436j:plain f:id:LarryTK:20180224073530j:plain f:id:LarryTK:20180224073622j:plain パサパサ

円筒形のロンググレインは、茹でてもふっくらしない。少し塩味が効いていて食べれなくはないが、シャリシャリする歯ごたえは私の知っている米ではない。五穀米に入っている粟や稗に似た食感を味わいながら、米も穀物の一種であることを実感した。 

 

f:id:LarryTK:20180222171429j:plain f:id:LarryTK:20180222171536j:plain

チャイナタウンにあるビュッフェ形式の中華料理店には、必ず白米と卵チャーハンが並んでいる。粒の形からするとロンググレインを使っているようだ。ご飯だけ食べるとパサパサしていても、脂っこい中華料理と一緒ならちょうどよい組み合わせとなる。

 

3.バスマティ vs ジャスミン

伝統的な英国料理にはお米は登場しない。イギリスが世界とのつながりを深める歴史の中で、各地の食文化とともに各種の米も流入してきたわけだ。

中華系の食品卸・小売店舗を展開するLoon Fung(ルーンファン)は、中華料理だけでなく、各種のアジア料理に対応した食材を揃える。この店で販売されている米は、先ほど試食した長粒米に、スシ米とバスマティ米、ジャスミン米。

f:id:LarryTK:20180219082737g:plain 巨大な米袋がずらり

 

バスマティ米とはいったいどのようなお米か、確かめてみよう。

袋から出てきたのは、細長い米。ロンググレインも細長いが、こちらはさらにひょろ長く、先っぽが尖がっている。

f:id:LarryTK:20180221170308j:plain f:id:LarryTK:20180226163451j:plain 粒が長~い

鍋にお湯を入れて茹でなさいと指示されたとおりに作ってみる。お米だけだと味も匂いもそっけないが、本格的なインドカレーのお供には、やはりバスマティ米が必要だ。

f:id:LarryTK:20180221170511j:plain f:id:LarryTK:20180225060100j:plain

 

バスマティ米が使われるのはインド料理に限らない。

トルコ料理店でも、串焼き羊肉の付け合わせとしてバスマティ米が出てくる。 バスマティ米は水分を含ませすぎないことが肝心なようだ。パラパラした米をスプーンで掬って食べるくらいがいちばん美味しい。

f:id:LarryTK:20180226002205j:plain f:id:LarryTK:20180222172558j:plain

 

もう一種類、ジャスミン米も買ってみた。バスマティもジャスミンも同類の品種だということだが、比べてみると粒の形はかなり違っている。ジャスミン米は粒が小さく丸みを帯びていて、日本の米に近いようだ。

f:id:LarryTK:20180224072047j:plain f:id:LarryTK:20180226163542j:plain f:id:LarryTK:20180226163810j:plain  左がジャスミン、右がバスマティ

ジャスミン米は香り米と言われているそうなので、鼻をつけてくんくんと嗅いでみたが、どうもジャスミンの香りがするようには思えない。

そもそもジャスミンがどんな香りなのか知らないことに気づいて調べてみたところ、なんとジャスミン米の名前はジャスミンの白い花の色に由来するのであって、ジャスミンの香りがするわけではないらしい。

f:id:LarryTK:20180224072151j:plain

そうと知って、ジャスミン米をもういちど観察してみる。バスマティ米よりも米独特の匂いが強く、その違いは炊くとさらにハッキリする。日本で食べ慣れたお米の香りに近く、噛むと口の中に甘みが広がる。

 

安くて美味しいと評判のタイ料理店では、大きな炊飯器でジャスミン米が炊かれていた。スパイスの効いたおかずが、ご飯の甘みを一層引き出している。

f:id:LarryTK:20180224072735j:plain f:id:LarryTK:20180224072808j:plain f:id:LarryTK:20180224072843j:plain うまい!

ここまでいろいろなお米を試してきたが、ジャスミン米は粒の形や香り、炊いたときの甘みなど、日本のお米と共通する特徴をいちばん多く持っているようだ。

 

4.日本のお米とショートグレイン

我々が日頃目にする日本のお米は、粒が小さくて短いので、短粒米(ショートグレイン)というカテゴリーに分類される。

私がロンドンへ来て間もない頃、スーパーマーケットのSainsbury's(セインズベリー)でショートグレインを見つけ、日本のお米の代わりになると思って炊飯器で炊いてみたことを思い出す。結果は大失敗であった。

f:id:LarryTK:20180222173053j:plain べちゃべちゃで噛み応えがない

その後、知ることになるのだが、イギリスでショートグレインとは、デザートの一種であるRice Pudding(ライスプディング)の材料のことなのだ。

ミルクにお米と砂糖を加えて煮るライスプディングは、スーパーマーケットでも様々な種類の出来合いの製品が売られている。スプーンで掬うと、お米はドロドロになってもはや原形を留めていない。

f:id:LarryTK:20180222172349j:plain f:id:LarryTK:20180222172423j:plain f:id:LarryTK:20180222172457j:plain ドロドロ

イギリス人の大好物だということだが、ライスプディングといい、ポリッジといい、穀物を甘く煮ることへの違和感が否めないのは、私だけかな。

 

日本へ帰ったとき、炊き立てご飯を食べてその美味しさに圧倒された。一粒一粒が立っている。イギリスの日本食レストランで食べるスシ米は、大抵お米がくっついてしまっていて、粒を見分けることもできない。

この違いをイギリスの人々にわかってもらうには、どうすればよいのだろうか。

f:id:LarryTK:20180226024622j:plain f:id:LarryTK:20180225172921j:plain 左はバーミンガムで食べた丼物。右は新橋で食べたご飯

初めに紹介したホームページで解説されているように、スシ米は「モチモチ・ネバネバしている」(sticky)のが特徴だと信じられていて、実際、すごく粘りっけのあるご飯に出会うことが多い。時には、米粒の形が崩れて糊のようになっていることもある。

日本のご飯は「ふっくらつやつや」しているのが美味しさの特徴であって、決してモチモチ・ネバネバではない。その違いは、米の品質だけでなく、炊き方や保存方法によるところも大きいようだ。

これまで見てきたとおり、イギリスでは「この料理に合うのはこのお米」といった形で様々なお米が食べられている。スシ米が「寿司専用の米」と思われているうちは、日本のご飯の美味しさを伝えることは難しいのかもしれない。「ふっくらつやつや炊き立てご飯」を、これとよく合う料理とともに、イギリス人に味わってもらいたいものだ。