ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第5回 "Wagamama"と"Yo! Sushi"はなぜイギリス人にウケるのか

英国にある日本料理店で、現地の人に受け入れられ、もっとも幅広く展開しているにも関わらず、日本人が決して立ち寄らない店がある。それが、今回取り上げる "Wagamama" と "Yo! Sushi"だ。ロンドンの街を歩いていると、そこかしこに店舗が見つかる。

日本人には頗る評判の悪いこの2つの日本料理店、いや、結論を少し先取りしていうとすれば、"Japanese Style Restaurant"と呼ぶべきなのだろうが、これらの店に潜入し、英国人を惹きつける魅力がどこにあるのかを探るのが、今回のレポートの主題である。

 

1.Wagamama

Wagamamaは、1992年に中国系イギリス人によって始められ、現在、イギリスを中心としてヨーロッパその他世界各国に140店舗以上を展開する。

私が訪れたのは、ロンドン中心部から少し北にあるFinchley Roadそばのショッピングモールに入る店舗。休日の夕方、そろそろお腹が空いてくるかなという頃だ。

ガラス張りの店内はかなり広く、私が入ったときはまだガランとしていた。店の片隅に身を寄せて様子を探ることにして、カップルの隣のテーブルに落ち着く。そのときはまだ、私の"Wagamama"ライフがこんなに楽しいものになろうとは思ってもみなかった...

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Wagamamaのメニューは、ラーメンに焼きそば、丼もの、カレーなど幅広い。ウェイターがやってきて、何やらいろいろ説明したそうにしていたが、それを遮って焼きそばを注文。それからだった。笑いが溢れそうになるのをずっとガマンするはめになったのは。

まずは、私の右隣にいた東欧系のカップル。

注文をとりにきたこれまた東欧系の若いウェイターに、彼女がいきなり「私、お腹空いてないんだよね」と言い出す。「腹減ってなかったら店来るな!」と日本人なら怒り出すところだが、ウェイター君は嫌な顔ひとつせず、少食の女性にお勧めのメニューを次々と紹介し始める。ついでにお互いの母国の話なんかも出てきて、5分ほど楽しい会話が続く。この女、おしゃべりに満足して帰っちゃうんじゃないかと心配し始めた頃、ついにカツカレーをご注文。

ついでに彼氏の方は、日本語の勉強でもしているのか、したり顔で彼女に「ヤサイとはベジタブルのことだよ」とか解説している。そんな彼が注文したのはパッタイ。いやそれ、日本食じゃないから・・・

ちなみに、カツカレーを食べ始めた彼女さん。途中で「このディッシュにカレーは合わないわ」と言い出して、カレーの代わりにテリヤキソースをぶっかけていました。カレーの神様がきっと泣いてる・・・

 

さて次、私の左隣に白人の若いお姉さんが一人で座った。イギリスにも「おひとりさま女子」がいるんだ!

彼女は座るなりウェイターに「私の注文はもう決まってるの」と言ってラーメンを注文。そしてメモ帳を取り出して、夢中で何やら執筆活動を始める。

ほどなくラーメンがやってきたが、執筆活動を止める気配はない。3分経過・・5分経過・・・。お姉さん、ラーメンは早く食べたほうがいいと思うんだけど。。

もう十分に麺が伸びたと思われる頃、ようやく食べ始めた。それでも美味しそうに食べてるんだから、俺の心配は余計なお世話ということか。

 

さらに左隣に座ったのは白人の老夫婦。日本食は初めてなのか、店に入ったところから、しきりにメニューを見ながらウェイターに何かを聞いている。

途中から話し声が聞こえてきたのだが、どうやらラーメンのスープがどんな味なのかをすべての種類のラーメンについて詳細に聞いているらしい。これまたウェイター君は嫌な顔ひとつせず、丁寧に解説を繰り返している。残念ながら、この老夫婦が注文を決断する前に、私がしびれを切らして店を出てしまった。お望みのラーメンは見つかったのだろうか。

私と入れ違いに入ってきたのは、若い白人夫婦と2人の子供。子供ははしゃいで店内を走り回っている。若夫婦はメニューをテーブルに放り出して、何やら真剣に話しこんでいる...

 

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私が食べた焼きそばの味はどうだったかって?そんなことはどうでもいいんだよ。ちゃんと完食しました。

それよりも、この店にとって大切なことは、私といっしょにいた東欧系のカップルも、白人のお姉さんも、老夫婦も、若い家族も、家に帰ったときに「今日はJapaneseを食べて楽しかった」と思ってもらえること。そんなサービスをこの店は届け続けているのです。

 

2.Yo! Sushi

Yo! Sushiは、回転寿司スタイルのレストラン。1997年創立以来店舗を増やし、現在、ロンドンを中心に70店舗以上。海外にも進出している。

今回はBaker Street駅に直結した店舗に潜入。Wagamama同様、日本人駐在員の評判がかなり芳しくないこの店の実態に迫った。

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日曜午後3時という閑散時でもあり、私が入ったときにいた客は、東洋系4人家族とおひとりさまの旅行者らしいおばさんのみ。定点観測のため1時間ほど粘ったところ、その間に、白人と黒人のおじさん2人連れが来ては去り、白人の父子が来ては去り、東欧系の女性二人組が来ては去り、中華系のカップルが来るといった状況。かなり回転が速い。寿司の回転じゃなくて、客の、ね。

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ベルトコンベヤーには、カリフォルニアロール(写真左:£3.6=650円)と枝豆その他が少々回っている。コンベヤーはスカスカだが、店員は特にこれを埋める気はないらしい。

ちなみに、カリフォルニアロールにサーモンを載せて七味をかけるとサーモンドラゴンロール(写真右:£4.5=810円)となる。どの皿も蓋に値札のようなものが貼ってあって、これで製造時間がわかる仕組みになっている。

この店の寿司がマズいという日本人は多いが、果たしてどうか。現地系スーパーでサンドイッチと並んで売っている寿司ロールと比べて、どれだけ違いがあるだろうか。というか、カリフォルニアロールなんて、誰が作ってもウマくもマズくもならないように思うけど。

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この店の売りは、なんといってもメニューのわかりやすさにある。日本食の知識がまったくなくても、回っている皿をとるか、あるいはメニューの写真を指差せば注文ができる。実際、客の多くは、座ったらまずコーラを注文し、それからメニューを手当り次第に指差していた。

ところで余談だが、客の注文した寿司が既にコンベヤーで回っているとき、店員はどうするか。日本では必ず新しい寿司を握って出してくると思うが、ここでは店員がコンベヤーを見廻してヒョイとその皿を持ってくる。この国に「新鮮さ」という概念は無い。

 

店内には料理担当が2人、ウェイトレスが1人。シェフという雰囲気ではなく、客の注文に応じてマニュアル通りに淡々と小皿を作るアルバイト職人の様相。

スキルの不要な調理法を確立して、回転の速い客を捌く。サービスを最低限に抑え、広い店内を少ない店員で回す。わかりやすいメニューで一見客の敷居を下げる。これってまさにファストフードの戦略だよな。

"Japanese Style"と「回転寿司」というアイデアを活用した新たな形態のファストフード店。それがYo! Sushiだ。

そうだとすれば、日本国内で複数のハンバーガチェーンが競っているように、競合が現れればロンドンも激戦地帯となるだろう。Yo! Sushiの質が低いとみるならば、高品質にこだわって勝負することも可能だと思う。ただ、1500円超の時給が求められるハイパー物価高のこの地で、大規模なシステムを整えた寿司チェーン店を新たに立ち上げることができるかどうか。これまでのところ、そんな気概のある日本人を私は知らない。

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ロール系寿司3皿と焼きそば、味噌汁(お代わり自由)を注文して、£19ちょっと。これでお腹いっぱいにはなる。この国ではFish & Chipsとコーラで£15を超えるわけだから、まあまあ許容範囲か。

それから、焼きそばは完食できませんでした。どの店でも焼きそばはハズレがないと思っていたのだが。。

第4回 英国スーパーマーケット界の"風雲児" ALDIとLIDL

英国のスーパーマーケット界は、"Big Four"といわれる大型チェーン店、すなわち、Tesco, Asda, Sainsbury's, Morrisons の寡占状態が長らく続いてきた。そこに割って入ろうとしているのが、ドイツからやってきたディスカウント店、Aldi(アルディ)とLidl(リドル)である。 

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                                                            出典 Kantar Worldpanel

11月、AldiとLidlを合わせて、イギリスにおけるシェアの1割を突破したことがニュースとなった。3年前には5%だったというから、競争の激しいこの業界にあって、破竹の勢いで勢力を伸ばしているということだ。

AldiとLidlの特徴は、何を差し置いても、商品価格の安さだ。これが業界全体の値引き合戦を誘発しているのだが、どのスーパーもこの2店にはかなわない。Asdaの社長が「Aldiとの価格差を半分に縮めたい」と述べているのを見たことがあるが、戦う前から白旗を挙げているようなものだ。

スーパーマーケット界を挙げた価格競争の影響は、各所に現れている。低価格帯で勝負してきた業界最大手のTescoが売り上げとシェアを減らし、米国Walmart傘下のAsdaも振るわない。

ロンドンの好景気を反映して住宅価格などの高騰が進む中、食料品価格は下落が続き、英国の消費者物価指数の上昇に歯止めをかけている。英国市民には嬉しいニュースだが、一方で、供給サイドへの買いたたきも社会問題となっている。農民が牛を連れてスーパーに殴り込みをかけるニュースを見たことがないだろうか。これも価格競争の結末の一端である。

 さて、そんな話題のAldiとLidlだが、高品質志向の日本人駐在員には、あまり訪れる機会もないだろう。そこで、今回私が潜入取材してみることにした。

 

1.ALDI

ドイツに拠点を置くディスカウントスーパーマーケットのAldiは、1990年にイギリスへ進出し、現在500店舗以上を英国内に展開している。

今回私は、ロンドン中心部から車で1時間ほど北へ向かったNorth Finchleyの店舗を訪れた。近くには、日本人駐在員が多く住む閑静な住宅街が広がるが、この店に買い物に来る日本人はそう多くはないだろう。

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商店の立ち並ぶ幹線道路沿いにAldiを発見。午後5時だというのにすっかり暗くなった街に、"ALDI"の文字が輝いている。外から見た感じでは、他のスーパーマーケットと大差ない店構えだ。

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店内に潜入。明るくて整然としている。仕入れ箱をくり抜いて、そのまま陳列しているのが特徴。見たところ、箱にもともとミシン目を入れて切り取りやすくしているようだ。キレイに並んでいるので見た目に違和感はない。

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大量買いする人は、キャスター付きのカゴをガラガラ引いて店内を回る。日本では見たことがないな。

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客層が下がってくると陳列が荒れるのは、欧米ではいずこも同じ。衣料品コーナーが少し荒れていたが、床に商品が散乱していないだけ、Pr○m○○kよりよほどマシかと。

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レジも整然としている。お姉さんたちの愛想もよい。これはAldiの雇用待遇が他のスーパーマーケットより良いからかもしれない。英国政府が提唱するLiving Wage(生活水準賃金(最低賃金よりも高い))に合わせることをいち早く宣言したのがAldiである。

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てなことで、いつの間にやらこんなに買ってしまいました。パスタもチキンも美味しかった。Aldiよありがとう。また来るよ。

 

.LIDL

Lidlもまた、ドイツに拠点を置くディスカウントスーパーマーケット。1994年にイギリスへ進出し、600店舗以上を展開する。

土曜の午後、ロンドン北西部のCricklewoodにある店舗へ行ってみた。移民の多い街である。

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人と車で大混乱の狭い道を抜けたところに、Lidlを見つけた。店構えは広いが、駐車場が意外と狭くて、ここでもまた大混乱。

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なんとか店内に入りました。やはり箱のまま陳列されている。店舗が大きいためか、生鮮品も充実。農場で箱詰めされたままの状態で販売されている。

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客が多くなると陳列が荒れてくるのは避けられないことなのか。。

客も多いが、店員の姿もたくさん目に入る。夢中になって買い物カゴに商品を放り込む客たちと、次々に新たな箱を運んでくる店員とのせめぎ合いの中で、なんとか店の秩序が維持されている。

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みんなあまりに大量買いするので、レジも混乱気味。それでもレジ係の対応は悪くない。様々なスーパーマーケットを見てきたが、店の高級さとレジ係のサービスは反比例するように思うのは私だけか。

自分も少しばかりお買い物して、店を出た。今度来るときは、周りの客に勢いで負けないよう、しっかり準備して来よう。

 

最後はお買い物日記みたいになってしまったが、以上がAldiとLidlの訪問記でした。どちらの店も、店内の清潔さ、商品の品質、店員のサービスともに納得できるレベルを維持している。それでいて、この低価格が実現できるのはなぜか。さらに興味が深まるばかりだ。

第3回 ロンドンのラーメンブームに秘められた可能性

 近頃ロンドンに増えつつあるラーメン店。味のレベルはなかなかに高く、(値段を除けば)日本人駐在員も満足している。今回はそんなロンドンのラーメン事情に焦点を当てたい。

なんだって?ロンドンまでやってきてラーメン屋巡りやってんの??という声が聞こえてきそうだ。いやいや、単にラーメンが好きだからというわけではない。(いや、ラーメンは好きだが。)この地でラーメンがさらに伸びていくポテンシャルがどれ程あるかを検証するのだ。(麺は伸びてはいけないが。)

ごちゃごちゃ言う前に、早速ラーメン巡りのスタートである。

 

1.IPPUDO

ロンドン中心部、大英博物館の近くのオフィス街に、お馴染みの一風堂(IPPUDO)が店を構えている。

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訪れた人は、全面ガラス張りのお洒落な外装にまず目を奪われる。店を入るとバーカウンターがあって、その奥のレセプションには案内係の美しい女性が控えている。 ここまででもう、この店がモダンなNYスタイルを目指していることが理解できるだろう。

店員たちの元気な”Irasshaimase!!”に迎えられて席に着く。白丸£10(=1850円)、赤丸£11(=2000円)に替え玉£1.5(=270円)は、財布には優しくないが、この国では許容される範囲内だ。味も極めて原点に忠実。麺が少し軟らかめにでてくるので、注文時に""KATAME!"と叫んだ方がよい。

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何度かこの店を訪れたが、客層の大半は中国系などアジア系で占められているようだ。世界中に店舗展開することで、どの国でも勢力を保つアジア系住民への浸透に成功している模様だ。

IPPUDOは、ロンドンにもう1軒店を出している。近年ロンドン東部でオフィス街として大規模に開発されたCanary Wharf に2店目がオープンした。

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仕事のついでに立ち寄ったのは平日の午後2時。店のピークは過ぎた感じだったが、それでも半分以上の席が埋まっていた。

真ん中に厨房があって、その周囲に大きなカウンターが配置されているのがこの店の特徴だ。「おひとりさま」の私は当然カウンターに通されたのだが、隣には白系の若い男性がひとり、さらにその隣にも東欧系の若い女性がやはりひとりでラーメンを啜っていた。

ロンドンではふつう、パブ・バーやコーヒー・ファーストフードチェーンくらいにしかカウンターがなく、ひとりでふらりとレストランに入るのが憚られる雰囲気がある。そんなとき、英国人はだいたいテイクアウトで済ますようだが、ロンドンのオフィス街にも「おひとりさま」の需要はあるはずだ。この新たな市場を開拓することができれば、ラーメン業界のさらなる躍進が期待できそうだ。

 

2.KANADA-YA

IPPUDOの道を隔てた目の前に、KANADA-YAがある。地元の情報誌に度々取り上げらる人気のとんこつラーメン店だ。

土曜の夕方、無性にラーメンが食べたくなって、KANADA-YAへ急行したが、長い行列。待つのを断念し、向かいのIPPUDOへ。

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この前は時間帯が悪かったと反省し、日曜12時の開店時に駆け付けたところ、さらに長い行列を目の当たりにして断念。また向かいのIPPUDOへ。

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結局まだ一度も店内に入れていないので、ラーメンのレポートをすることができません。

客層は、店外の行列を見る限り、8割方アジア系の模様。きっとアジア人の心を打つラーメンが提供されているのだろう。

 

3.Muga

新旧のラーメン店が集まるPiccadilly Circus からちょっと離れたところに最近オープンしたMugaがある。

カウンター主体のお洒落な店内に日本人オーナーが優しく迎えてくれる。塩、味噌、しょうゆ、とんこつといったオーソドックスなラーメンは、しょっぱすぎず脂っこすぎず、落ち着いた味わい。

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ラーメン1杯£9.90 (=1,800円)は平均的な値段だが、うれしいのはランチセット。ラーメンに半チャーハンか餃子がついて£8.90 (=1,600円)は、この界隈のランチ価格としては最安値だ。

店内には常連客らしいグループが何組か。学生時代のほとんどを”ラーメン+半チャーハンセット”で過ごした私には涙が出るほどありがたい店ではあるが、我々のそんなB級生活を知らない英国人が店に飛び込んできたら、このメニューの妙を果たして理解できるのだろうか。

それにしても、胃にも懐にも優しいラーメン屋さん。ぜひ頑張ってもらいたいところだ。

 

4.Bone Daddies

Piccadilly Circusの北東に広がるSoho地区は、エスニックな料理店やらパブやら怪しいマッサージ屋やらがひしめき合う混沌地帯。そんなごちゃ混ぜ文化をカッコいいと思う若者たちに支えられて、ラーメンは実力をつけてきた。

その中でも最先端をゆくラーメン店がBone Daddiesだ。白系もアジア系も東欧系も、若い男女が店外まで溢れかえっていて、店内にはロックンロールが響いている。

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メニューもまた最先端だ。Sour Pepper Ramen とか、T22とか、なんだかよくわからないが、注文してみれば、意外に本格的なラーメンが出てくるのが驚きだ。

ラーメンの基本はやはりスープと麺。これさえしっかりしていれば、少々奇抜なトッピングを加えたとしても、ラーメンの美味しさは揺るがない。本格ラーメンを提供しつつ、ロンドンの若者文化との融合を模索し続けるこの店の姿勢には敬服する。

これからもロンドンのラーメン界の先頭を突っ走っていただきたいところだ。

 

5.Shoryu

 日本食材卸売スーパーのJapan Centreが手掛けるとんこつラーメン屋。徐々に店を増やして、現在5店舗を経営する。

私が訪れたのはRegent St 店。Piccadilly Circus と Trafaflgar Circusの真ん中あたり、歴史的な建物が立ち並び、人々が常に行き来する大通りを歩いていると、”ええ?こんなところに!?”という感じでラーメン店が出現する。

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店内に入ると、店員がにこやかにやってきて、メニューを手渡しつつ「メニューの説明しようか?」と話しかけてくる。さすがに私は"No Thank you" だが、隣の客への説明を聞いていると、とんこつの原料は何か、トッピングはどうやって選ぶか、替え玉とは何かなど丁寧に解説している。確かに、初めてラーメン屋に入った人にはわからないことだらけだろう。ラーメンの客層を広げたいというこの店の意気込みが伝わってくる。

私が座ったのは表通りに面したカウンター席。一面ガラス張りなので外から丸見えだ。ひっきりなしに通り過ぎる人々がじろじろと店内を覗いてゆく。多くの英国人にとってラーメン屋はまだまだ珍しい存在なのだろう。

一組の白人カップルが足を止めた。店頭のメニューと店内を何度も見交わしては何やら相談している。私の食べかけのラーメンを覗き込んできたので、渾身の笑みを浮かべて美味そうに食べてやった。すると、とうとう意を決したのか、二人で店内に入ってきた。すかさず店員がメニューの説明を始める。

ロンドンのラーメンファンを二人増やすことに貢献した満足感で胸がいっぱいだ。(腹もいっぱいだ。)

第2回 ロンドンの食品コーナーで日本食材が買えるか

ロンドンには日本からたくさんの食材がやってくる。

日々の暮らしを日本食で過ごす駐在員や日本に長年滞在していた英国人家族は、日本食材を求めてJapan Centreなどの専門店に顔を出す。しかし、友人に誘われるまま寿司レストランに行って日本食ファンになったような英国人は、まずは自分がいつも通っている店の食品コーナーで日本食材を探すだろう。

そこで今回は、英国人の通う食品コーナーでどれくらい日本食材が買えるかを調査してみた。まずは、高級デパートとして言わずと知れた "Harrods" の食品コーナーと、品質の高い品揃えが売りのスーパーマーケット "Waitrose" にて調査を開始した。

この調査の難しいのは、私が訪れた店・日時に置いてあった商品しか報告できないことだ。たまたまその時だけ売り切れだったかもしれないし、私が見落とした可能性も否定できない。

もし「こんな日本食材もあったぞ!」という方がおられれば、どうぞ私に、いつ・どの店の・どのあたりの棚に置いてあったかを教えていただきたい。早速その店へ参上して、自分の目で商品が確認でき次第、喜んで記事を追加させていただく。

 

1.Harrods

高級デパート "Harrods" は、ロンドンの中心部 Knightsbridge駅のそばにあり、地元の富裕層に観光客、アラブ系やアジア系と、あらゆる階層の人々で年中ごった返している。

由緒ありげな玄関をくぐると、高価そうな宝石や時計が並んでいて面食らうが、そこを抜けるといきなり食品コーナーに様変わりし、これが地上階の中心部を占めている。

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Harrodsの食品コーナーは4部屋に広がっているが、一部はイートインや対面のナカ食カウンターとなっているので、食材そのものの売り場はそれほど広くない。私は、日本食材を探して、この4部屋をグルグルと歩き回ってみた。

なお、地上階の4部屋の他に、地下にはワイン・スピリッツの部屋がある。実はここで日本産ウィスキーが驚くべきプレゼンスを誇っていたのだが、その話はまたの機会にご報告することにしたい。

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食品コーナーを何度も往復し、棚に並ぶ商品をくまなくチェックしたが、私が見つけられたのは、Kikkomanの醤油と和牛だけだった。醤油はドイツ産だから、純粋に日本からやってきた食材は和牛のみということになる。

精肉コーナーにおける和牛の地位は非常に高い。壁の至るところで、和牛の品質がいかに高いかが説明されている。

ところがこれがまた微妙なのだ。"Wagyu Beef" として売られているのは、実はオーストラリア産なのだ。EC規則に従ってしっかりと原産国表示がされている。そしてその横に、"Kobe Wagyu Beef" が置いてある。これは "Japan Hyugo"(兵庫県?)産とされていて、両者相譲らずといった風情である。

オーストラリア産Wagyuは£20-30(3700円-5500円)/100gの値札がついていて、一般の牛肉とは桁が違う。さらに日本産はその倍の値段を付けていて、異次元の戦いを繰り広げていたのであった。

 

2.Waitrose

"Waitrose" は、品質にこだわった食材を揃えるスーパーマーケットとして他のチェーン店との差別化を図りつつ、ロンドンに広く店舗展開している。上中流階級の人々や生活に余裕のある老夫婦のほか、食品の品質に神経質な日本人駐在員も多く訪れる。

今回調査したのは、ロンドン中心部より少し北側にある Finchley Road 店。日本人駐在員(及び私)が いつもたむろしている店なので、食材の取り揃えもちょっと日本人向けになっているかもしれない。

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ここWaitrose に限らないが、スーパーマーケットで日本食材を調査する際には、商品の置かれているのが "Oriental" コーナーの棚であるかどうかにも注目する必要がある。

Orientalコーナーとは、アジア食材がまとめて置いてあるスペースのことで、日本人を含むアジア人や、アジア食材に関心を持つ客層が立ち寄る。

もちろん、Orientalコーナーに日本食材が置かれるのは喜ばしいことだ。ただ、このスペースが近日中にどんどん拡張されるとは思えないから、日本食材を増やすということは、中国やタイの食材を減らすということと同義だ。現地系メインストリームに商品を卸していながら、実はアジアでの戦いを挑んでいることを認識しなければならない。

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Orientalコーナーには、2種類の醤油、Kikkomanと香港系が置いてあった。この他、日本産の海苔、ガリ、わさび、味噌。これらと並んでS&Bのカレーがあったのには驚いた。さらに、日本では見ないブランドの各種調味料がずらりと並んでいて、このうち米酢とみりんは、日本産原料をマレーシアでパック詰めしたと書いてある。

中華・タイ系食材がメインのコーナーに日本産がなんとか食い込んでいるといった戦況か。

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Orientalコーナー以外の棚では、なかなか日本食材が見つからない。ようやく見つけたのは、ビールコーナーに並ぶアサヒの瓶と、インスタント味噌汁だった。

インスタント味噌汁は、カップスープのコーナーに2種類が並んでいた。これは、コーンポタージュなどのスープ類の代替品として、味噌汁が認識されていることを意味する。英国人の家庭への浸透ぶりが伺える。

新発売のタグのついた "Miso Tasty" を買ってみた。スマートな色彩とデザインが目に留まり、つい手を伸ばしてしまった。

商品の説明書に製造者の自信の程が見えて、興味を惹かれる。HPを覗いてみると、さらに商品への想いが溢れていた。味噌がなぜ体にいいのか、子供に食べさせても大丈夫か、作ってみたらお湯から味噌が分離してゆらゆらしているが心配ないかなど、初めて味噌に接する人でも安心できる説明が詳しく載っている。

原料の味噌は、長野県でアルプスのきれいな水を使って作られていると書いてある。自分で作ってみたら、少ししょっぱかった。異国の地で食材を売り込むとは、こういうことなんだな。

 

ロンドン食材調査はまだまだ続く。

第1回 ロンドンで日本食はどのように食べられているか。

ロンドンは物価がめちゃくちゃ高い。給与水準もそれなりに高いが、それでもウッと唸る高さだ。
特に、外食が高い。そのあたりのレストランに適当に入って、メニューの中で一番安い料理を頼んでも、£8.5+ドリンク£3.5はする。この中には20%のVAT(付加価値税)が含まれている。さらに、12.5%のサービスチャージを加えて£13.5になると、日本円で2500円を超える。(£1=190円で換算)

レストランで食事している人々を見ていると、恋人同士のデートだったり、週末の家族団らんだったり、特別な時間を過ごす場所という雰囲気で、友達や同僚と「なんか美味しいもん食べに行こうぜ」という感じではない。

寿司レストランなどは高級な方に入るので、誰もが気軽に入れる店ではない。では、「日本食が好き」と言うロンドン市民は、何を食べて「好き」と言っているのか。これが第1回のテーマである。

 

ロンドンの人々にとって最も馴染みのある日本食は何か。私の推測は、「テイクアウト(take away)の日本食」である。

外食のバカ高いロンドンでは、テイクアウト店が大繁盛している。なぜならテイクアウトにはVATがかからないからだ。地下鉄の駅前には必ずサンドイッチ店とコーヒーショップがあって、多くの人が利用している。これらの店と並んで必ずあるのが、「テイクアウト寿司店」である。

 

そこで今回は、ロンドン市民と日本食とのつながりを語るのに外すことのできない「テイクアウト寿司店」をご紹介したい。

 

 1.Wasabi

私がロンドンに来てから最も目にする店。ロンドンを中心に40店舗ほどあるらしい。

ガラス張りで店内に入りやすい雰囲気になっていて、夜遅くまで多様な人種でごった返している。店内には日本語表記がちらほら見られるが、店員に日本人はもちろんいない。日本語はデザインの一種なのだろう。

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£3.99(760円)のBox Set。陳列にあった握りのほとんどがサーモンだった。味は悪くない。枝豆は余計だが。

これでも、店内(ガラスの向こうに見えているテーブル)で食べると、20%のVATが加わって£4.98(950円)となる。


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サーモンテリヤキそうめん£2.99(570円)。何を目指しているのかわからん。
チキンテリヤキ弁当£4.95(940円)。アメリカが発祥だと思うが、テリヤキとは「甘くした醤油だれ」と認識されている。どちらかというと「あんかけ」に似ている気がする。

 

2.itsu

Wasabiの特徴は、明るくクリーンな店内と、ヘルシーな食材にあると思われるが、さらにこれに磨きをかけ、"eat beautiful" を前面に押し出したのが itsu である。

ロンドンに60店舗を展開する。店の前を通っただけでは、日本食店だと気付かない。店はとてもファッショナブルにできていて、レジでは白人の若い男女が笑顔で対応してくれる。店内で食べている客も白人の若者が多い。  

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寿司box£4.99(950円)。握りはマグロ、エビ、サーモンの3色。味噌汁は£1.99(380円)。このときは開店記念か何かで寿司に付いてきた。わかめがたくさん入っていて、普通に味噌汁の味がする。

サーモンテリヤキ弁当£4,19(790円)。こちらのご飯は固いものが多いが、これはそんなに固くない。テリヤキソースはやっぱり甘い。醤油をかけて食べればよかった。

 

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ここにも変わったスープがあった。中に春雨が入っている。"Classic Chicken Noodles"とある。

そうか。わかった!! チキンヌードルは決してクラシックな日本料理ではない。アメリカやイギリスでお馴染みの、塩味のスープにチキンとショートパスタを入れて、ハーブを散らす、あのチキンヌードルだ。そのショートパスタを春雨に替えて、ヘルシーにしているのだ。

考えてみれば、先ほどのWasabi のそうめんも、由来は同じかもしれない。和風テイストを工夫して導入した結果が、サーモンテリヤキそうめんになったのかも。

 

ここまで見てきて、あることに気が付いた。

itsu は、日本食レストランではないのかもしれない。ヘルシーでおしゃれな食べ物を求め続けた結果、日本食が棚の中心を占めるようになったのだろう。実際、寿司box の隣にはヨーグルトフルーツが置いてあって、healthy & beautiful を追求するこの店の姿が表れている。店内に日本語は一切ない。そもそも "itsu" が日本語かどうかも定かでない。

 

サンドイッチを食べ飽きたロンドンの若者の間で、寿司をはじめとする日本食が、healthy で beautiful なメニューとして受け入れられている。

第1回レポートはここまで。

 

 

ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドン在住の間、ロンドンの食とイギリスの農業について、毎月レポートを書き続けようと決意。

知識のあやふやなところや、分析不足のところも、まずは文章にしてみて、後から修正していこうと思っています。「ここが違ってるよ」というご指摘もいただけると大歓迎。