ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第36回 6月の週末は農場へGO!

f:id:LarryTK:20180701143154j:plain

イギリス中が待ちに待った6月。夜9時過ぎまで明るくて、半袖で外出できるほどに暖かくなってくると、屋外でのイベントが目白押しとなります。

農場や庭園でも、ふだんは一般人の立ち入れない区域が開放されて、いろいろなイベントが行われます。農場好きの私たちには願ってもないチャンスですよ!

 

1.都会の農園

ロンドンの住宅街を歩いていると、緑豊かな庭園に突然出くわして、しかもそこだけ鉄格子で囲われて立ち入れなくなっていることがあります。そういった庭園を年に一度開放しようという取り組みが "Open Garden Squares Weekend" です。

ホームページに掲載された数多くの庭園の中から、目ざとく"Kitchen Garden"(キッチンガーデン)というタイトルを発見。またまた美味しそうな匂いがするではありませんか!

 

f:id:LarryTK:20180701143235j:plain f:id:LarryTK:20180701143309j:plain

ロンドン北西部、Ladbroke Grove地区は静かな住宅街。道の両側に家が立ち並ぶSt Quintin通りを歩いていくと、住宅の途切れた一画にカラフルな風船を見つけました。

ここが今回の訪問地、St Quintin Community Kitchen Gardenです。

f:id:LarryTK:20180701143505j:plain f:id:LarryTK:20180714161846j:plain

元はテニスコートだったという小さな敷地内に、木板で囲われた花壇がいくつも並んでいます。しかし植わっているのは草花ではなく、野菜やハーブばかり。

青々と茂ったトマトの葉っぱをこっちの花壇で見つけたと思ったら、あっちにはまだ背丈の低いトマトがあったりして、どうも統一感を欠きます。ここはいったい何なのでしょうか。

 

よく観察してみると、ひとつの花壇がさらに2~3の区画に分割されていて、それぞれに番号が振られているのがわかります。隣り合った区画でも、野菜の種類や育ち方が全然違っています。

f:id:LarryTK:20180701143346j:plain L字型の花壇が3区画に分割されている

ようやく気付きました。ここは市民農園なんです。分割された小さな区画ごとに市民に貸し出されているのです。

運営の方に尋ねたところ、ここはRoyal Borough of Kensington & Chelsea (ケンジントン・チェルシー区)の管理する市民農園で、約100区画が貸し出されているとのこと。とても人気が高く、5年待ちのウェイティングリストができているそうです。

 

英国ではどの家にも庭が付いていて、野菜や花を大切に育てていますが、アパート暮らしの人々は庭を持つことができません。そこでこうやって区画を借りて、せっせと野菜を育てているのです。

この一区画が、借主にとってかけがえのない畑なのです。畑の真ん中にドカンと棒を立ててインゲン豆を育てている人もいれば、あちらにレタスをちょこっと、こちらにニンジンをちょこっと植えている人もいて、それぞれが創意工夫してこの小さな畑を精一杯に使っています。統一感の無さは個性の現れなのです。

 

 f:id:LarryTK:20180701143415j:plain 懸命に働くお兄さん

屈強な体格のお兄さんが畑仕事に精を出しています。声をかけて、兄さんの畑に案内してもらいました。

 f:id:LarryTK:20180701143438j:plain

これはなんとも立派な!

20種類以上の野菜や豆、ハーブが小さな畑ですくすくと育っています。5年前に始めた頃はうまく根付かなかった野菜も、工夫を重ねるうちに立派に成長するようになったとのこと。今年もまた新たな種類に挑戦して、試行錯誤を繰り返していると楽しそうに話してくれました。

 

f:id:LarryTK:20180715000338j:plain

この市民農園がオープンしたのは2009年。区内初の取り組みとして大きな注目を集めたとのこと。当初は造園の専門家が派遣されて、利用者に畑づくりなどを教えていたそうですが、さっきのお兄さんのような上級者も現れ、活気あふれる農園となりました。現在では、区内各地にこのような市民農園が作られ、多くの市民に利用されています。

仕事帰りに畑を覗いて手入れするのが日課だというお兄さん。農園は、英国人にとっての心のふるさと。面積は小さくても、大都市ロンドンでの慌ただしい市民生活に潤いをもたらす貴重な場所となっているようです。

 

2.ロンドン郊外の野菜畑

f:id:LarryTK:20180715003619j:plain

今年も待ちに待ったOpen Farm Sunday(オープンファームサンデー)がやってきました。英国中の農場が一斉に開放される年に一度のお祭り。3年前から参加している私も、今年はどこへ行こうかと胸が高鳴ります。

過去2年は酪農・畜産を訪問したので、今年は野菜農家を見たいなとホームページを検索します。どんな作物を栽培しているか、どういったイベントを開催するかなど、アイコン化されて一目でわかるようになっていて、とっても便利。

 

そして見つけたのが、ケント州にある Laurence J Betts 社のChurch Farm。栽培作物は "salad"(サラダ)となっています。サラダ菜専門農家?これは興味津々です。

f:id:LarryTK:20180715003651j:plain f:id:LarryTK:20180715004230j:plain

ロンドンから車で1時間。予想外に大規模で近代的な施設にビックリ。このデカいトラクターでサラダ菜を刈り取るわけ??今日は学ぶことがたくさんありそうです。

 

まずは恒例のトラクターツアーで農場内を案内してもらいます。これまたドデカいトラクター3台がフル稼働でお客さんを運んでいます。

f:id:LarryTK:20180715003730j:plain 1時間の農場ツアーに出発

この土地の農場としての歴史は1,000年前から続いていて、社名の由来であるBetts家がここで農業を始めたのが100年前とのこと。古い権利関係の記録がしっかりと残されているのですね。

この農場は130haの広さがあって、サラダ菜と麦類のローテーション栽培を行っているそうです。130haのサラダ菜畑とはいかに??

 

f:id:LarryTK:20180715100047j:plain f:id:LarryTK:20180715003838j:plain

ずず~ん。

見渡す限り、地平線のかなたまで、サラダ菜。見に来てよかった。

 

隣の畑では、トラクターを使ったデモンストレーションが始まりました。 

f:id:LarryTK:20180715003916j:plain 

野菜移植機。畝にくぼみを作って苗を落としていきます。トラクターの後ろにいるお姉さんたちが足で土を被せます。

聞きたいことがあってお姉さんに声をかけてみましたが、英語があまりお得意ではない模様。EU離脱懐疑派が、イギリス農業は東欧から出稼ぎに来る移民に支えられていると主張していますが、実際にこういうことなんですね。 

f:id:LarryTK:20180715003944j:plain ビデオでお見せしたかった

続いてこちら。hoeing(ホーイング:くわ入れ?)というので何のことかと見ていたら、長~い棒のようなものが伸びてきて、苗の周りをクルクルと回ります。これで土を掻き回して除草するらしい。

くわが苗をなぎ倒すことは無いのかとハラハラしていましたが、上手に苗を回避していきます。どうしてそんなにうまくいくのかと尋ねたら、運転席にモニターが付いていて、進路を微妙にコントロールしているとのこと。何気にハイテク機器でした。日本にもあるのかな?

 

f:id:LarryTK:20180715004110j:plain

トラクターツアーの途中で、サラダ菜の収穫作業に遭遇しました。幅広い収穫機の後ろにお姉さんたちが並んで、一つ一つ丁寧に刈り取っていきます。やっぱりこれは手作業なんですね。

私たちも収穫作業を体験できるようです。お姉さんの手ほどきで、ナイフを使ってサラダ菜を刈り取ります。

f:id:LarryTK:20180715004133j:plain 自分の刈ったサラダ菜を持ち帰れると聞いて喜ぶおじさん

その後、パック詰め工場も見学して、気が付いたらもう夕方。まるまる一日をこの農場で過ごしました。夕食の食卓に産地直送の瑞々しいサラダが彩りを添え、サラダづくしの充実した日曜日となりました。

f:id:LarryTK:20180715004159j:plain

 

後日、Borough Market(バラマーケット)で買い物をしていたら、八百屋さんで L. J. Betts ブランドを発見。私たちの見てきたサラダ菜は、多くのロンドン市民に愛されているのですね。

f:id:LarryTK:20180715232938j:plain f:id:LarryTK:20180715233000j:plain

 

3年間、イギリスの食と農の様々な姿を皆さんとみてきました。何気なく前を通り過ぎていたお店や土地にも、それぞれに長い歴史や深い社会背景があって、知れば知るほどその魅力に引き込まれていく日々でした。この国を知り尽くすには、3年では全然足りませんね。いつかまた、続編を書ける日が来ることを願います。

次回は最終回。私が3年間お世話になったロンドンの日本食レストランをできるだけたくさんご紹介したいと思います。