ロンドン食と農の便り(Monthly Report)

ロンドンの食とイギリスの農業について毎月レポートを書きます。

第22回 速報 オープン・ファーム・サンデー開催!

6月11日、年1度の農業イベント'Open Farm Sunday'(オープン・ファーム・サンデー)が開催された。

Open Farm Sunday とは、普段は都市住民との交流もない一般の農家が、年に1度だけそのゲートを開放し、農業の現場を見てもらうことで、消費者との距離を近づけようというもの。

2006年に始まり、今年で12回目となるこの取組は、英国全土で300以上の農家に20万人以上の市民が訪れる大掛かりなイベントとなっている。

Open Farm Sunday Logo

 

<農家訪問>

今年のオープン・ファーム・サンデーに家族を連れて訪問したのは、ロンドン郊外にある'Road Farm'。

Road Farm Countryways

Greater London(大ロンドン都)の外周を囲むM25(東京外環道のような高速道路)を越えると、風景は急に緑一色となる。開発が厳しく制限されているグリーンベルト地帯に入ったからだ。ロンドンの中心から1時間も経たないのに、既に静かな田舎のたたずまいとなっている。

f:id:LarryTK:20170612070800j:plain f:id:LarryTK:20170612070619j:plain 

 

道路沿いの小さな看板を見つけて砂利道へ入る。開放された丘の上に車が30台ほど止まっていた。'Open Farm Sunday'のロゴマークと、小さく手書きされた'Road Farm'の文字を見つけて、間違いなく目的地にたどり着いたことを確認する。 

入り口におばさんが立っていて、農場の見取り図をくれる。入場料は無料。このイベントではお金儲けをしないことが原則だ。

 

f:id:LarryTK:20170612072804j:plain f:id:LarryTK:20170616154948j:plain 絵心あるね

この農家の経営耕地面積は約100ha。イギリスの農家の平均耕地面積が70haくらいだから、中規模程度の農家ということになる。どのくらいの広さかというと、見渡すかぎり丘のてっぺんまで全部が自分の農地という感じだ。

 

f:id:LarryTK:20170612071736j:plain f:id:LarryTK:20170612071913j:plain

農地の広さに比べると、家畜を飼っている畜舎は意外と簡素で小さい。つがいの牛が一組と子牛が2頭。羊の数も同じ程度か。。と思ったら、大間違い!!

f:id:LarryTK:20170614073844j:plain f:id:LarryTK:20170614075108j:plain

私が見たのは繁殖用の畜舎だった。残りの家畜は広大な牧草地に放し飼いされている。牛40頭に羊300頭いるそうだ。

 

農家のおじさんが、家畜を育てる苦労を一所懸命説明してくれる。最前列に陣取った子供たちにも何かが伝わったはずだ。

f:id:LarryTK:20170612072357j:plain f:id:LarryTK:20170612072444j:plain 鶏小屋で本物のエッグハント

蜂の生態を教えるおばさんや様々なパンフレットも用意されていて、このイベントが農業教育の場として高いレベルを実現していることがわかる。

f:id:LarryTK:20170612071120j:plain f:id:LarryTK:20170612071531j:plain

 

f:id:LarryTK:20170612071938j:plain

畜舎の一角が緑のカーテンで覆われている。フォークリフトがうまく使われているなどと感心しながら中を覗くと、、

f:id:LarryTK:20170612072010j:plain 

こどもアーチェリー会場。本格的な矢がビュンビュン飛び交う。親にイヤイヤ連れて来られた子供たちも、これで大満足だ。

 

こちらの農家では、牧草地の他に、畑で小麦とライ麦を栽培している。どちらも栽培面積はさほど大きくない(日本の農家よりはるかに大きいが)ので、市場に出荷するというよりも、主に自家用の家畜の餌となるのだろう。

 f:id:LarryTK:20170612072540j:plain f:id:LarryTK:20170612072632j:plain ライ麦畑。風が通るたびに緑が波打つ。

f:id:LarryTK:20170612072912j:plain 小麦畑。大麦・小麦・ライ麦の違いは、穂が出るまではほとんど見分けがつかないそうだ。

 

大自然の中で自由気ままに農業を営んでいるようにみえるが、実はイギリスの農業は非常に緻密だ。

ライ麦と小麦を栽培しているのは、環境にダメージを与えないための作物ローテーションの一環。牧草地の外周には一定距離以上の緩衝帯を設け、小鳥が巣作りする季節には生垣を刈ることができない。

f:id:LarryTK:20170615152252j:plain 細かく描き込まれた営農計画図

 

<散歩道> 

f:id:LarryTK:20170612072954j:plain 

小麦畑を散歩していると、ドングリマークのついたゲートを発見。これは例のfootpath(フットパス)の入り口じゃないか!まさか畑のど真ん中で出会うとは。

larrytk.hatenablog.com

小麦をかきわけるように細い道が続いている。footpathは、常に人が通行できるように整備しておかなければならない。これは広大な土地を占有するイギリスの農家の果たすべき社会責任なのだ。

f:id:LarryTK:20170612073041j:plain 「小麦畑でつかまえて♫」

footpathは小麦畑を突き抜けて、さらに先に続いていた。踏み台を使って策を乗り越えると、、

f:id:LarryTK:20170612073141j:plain f:id:LarryTK:20170612073235j:plain 「止まれ!見ろ!聞け!」

なんと、列車の線路に達していた。そしてfootpathは、踏切の無い線路を横断して、その先の畑の中へ続いていく。。

f:id:LarryTK:20170612073340j:plain 線路内無断立ち入りじゃないよ。

 

散歩を終えて戻ってきた頃にはお腹がペコペコ。ホットドッグがおいしいよ!という声につられて購入。

f:id:LarryTK:20170612072234j:plain f:id:LarryTK:20170612072112j:plain ぱさぱさパンに焦げた豚肉ソーセージがゴロン

イギリスの味を強く噛みしめながら美味しくいただいた。

 

<まとめ>

以上が、今年の現場からの報告。昨年訪れた農家では、トラクターの後ろに乗って畑を一周したりして楽しんだが、今年の農家はこじんまりとしていて、これまた非常に面白かった。

農家にとって、都市の住民を敷地内に迎え入れるのは、とても勇気のいる行動に違いない。家畜に害を及ぼさないだろうか、子供が怪我したりしないか、畜舎が汚いなどと非難されないだろうか。不安はたくさんあるだろう。

オープン・ファーム・サンデーを主催するチャリティ団体のLEAF(リーフ)では、イベントに参加する農家に対して、無理をせずできる範囲で市民を受け入れるようアドバイスしているという。不安が大きければ、開放時間を限定したり、立ち入り禁止区域を作ったり、宣伝を控えめにすればいい。人数を限定したツアーを組んでもいい。

LEAFから農家に補助金が出るわけではない。農家からの相談に丁寧に対応し、農家のやりたいことをHPに掲載し、都市住民に向けてPRすることで、農家と都市住民の距離を縮めていくことがLEAFの役割だという。とても柔軟なアイデアだと思う。

いつか日本でもこんな取り組みが広がればいいなと思いながら、来年のオープン・ファーム・サンデーの日付け(2018年6月10日)にしっかりとチェックを入れて、今回の報告はここまで。