第18回 個性あふれる英国の競馬場
競馬発祥の地イギリスには、たくさんの競馬場があります。ひとつひとつの競馬場は、規模もそれほど大きくないし、日本の競馬場のような立派な設備も整っていませんが、それぞれに特徴があって、多くの人に愛され続けています。
ロンドン近郊にもたくさんの競馬場があって、これまたすごく個性的なんですよ。
1.Royal Windsor 競馬場
エリザベス女王の居城Windsor城の近くには、Royal Ascotで有名なAscot競馬場がありますが、もうひとつ、'Royal'の冠の付いた小さな競馬場があるのです。
Royal Windsor(ロイヤル・ウィンザー)競馬場の発祥は150年前とのこと。歴代国王の住んでいた地だけに、王様や貴族たちが持ち馬を競い合わせていた時代から徐々に現代競馬が形作られてきた歴史を感じることができます。
競馬場への行き方がまたユニークなんです。車やバスでも行けますが、断然のおススメはこれ!
ボートに揺られて競馬場へ。
ウィンザー駅の近くにテムズ川が流れていて、そこから競馬場行きのボートが出ているのです。競馬場に着く前から、もうワクワク感満載!
このボートに乗って行くのね!
ボートに揺られること約15分。船着き場の目の前は、もう競馬場の入り口です。
いざ、場内へ。
ここで、Royal Windsor競馬場のコースを解説しましょう。
なんだこの8の字コースは!?
日本ではゼッタイにお目にかかれないですよね。どうやって走るのかと混乱しそうですが、よく見れば非常に効率的な造りです。ゴールポストの裏側からスタートして、いったん直線走路を横切り、ぐるっと回ってまた直線に戻ってきます。
コースの交差するところで馬が衝突しないかって?馬は一団に固まって走るので、まあ、あり得ないでしょう。複雑な形をしているけど、事実上、コーナーの急な左回りコースと考えていいのではないでしょうか。それにしても、誰がこんな形を考案したのでしょうかね。
さて、場内を周ってみましょう。スタンドは小さいけれど、レースが始まる度に観客が集まってきて、結構な盛り上がりです。
パドックでは手を伸ばせば触れる距離に馬が。
レースの合間には、仲間同士集まって、お酒を飲んだりご飯を食べたり。競馬場は大きなパーティー会場でもあります。Royal Ascotほど格式は高くなくても、みんなきれいなドレスを着て、優雅に楽しんでいます。これがイギリス競馬の姿ですね。
我々も英国名物Pimm'sで乾杯。
結局、戦績はどうだったかな。途中からお酒を飲んでたことしか覚えていませんわ。。
2.Epsom Downs競馬場
ロンドンから南へ電車で1時間くらいのところに、Epsom Downs(エプソム・ダウンズ)競馬場があります。ここも、こじんまりとした田舎の競馬場という感じです。
この競馬場のコースの特徴は、なんといってもこれ。
一周できない。
ずっと奥の方から走ってきて、ゴール板を通過したら行き止まり。内馬場はなんだか用途のわからない草原になっていて、真ん中を一般道が突き抜けていきます。
ゴール板の先にあるパブからは、入場料を払わずに競馬観戦できるらしい。
さらに、直線走路が内側に向けて斜めに傾いています。こんなところ走ったら、馬がみんな斜行するじゃないか!
そして、この競馬場のいちばんの驚きは、こんないびつなコースで、競馬界最大のイベント、ダービーが200年以上開催されているという事実です。
2016年ダービー優勝馬の騎手の服
競馬の原点がみえるような気がします。だだっ広い原っぱで、貴族が自慢の馬を走らせてどっちが速いかを競わせたのが競馬の始まり。コースがぐにゃぐにゃ曲がってたり傾いてたりしていて当たり前なんですね。そんなワイルドなコースで勝ち残った馬にこそ、最強馬の栄冠が与えられるのです。
将来の伝説の名馬をめざして、Epsom Downsでは今日も熱い戦いが繰り広げられています。
3.Cheltenham競馬場
イングランドの西部、ロンドンから電車で2時間ほどのところに位置するCheltenham(チェルトナム)競馬場は、コッツウォルズの丘のふもとに広がる世にも美しい競馬場です。
海外競馬のバイブル「グローバルレーシング」(アラン・シューバック著)には、「世界にチェルトナム競馬場より美しい競馬場があるとすれば、人はまだ目にしていない」という、最大限にまわりくどい褒め言葉が書き連ねられています。
丘と一体となったコース
この競馬場のコースは、ぐるぐると何周もできるように複雑に作られているのが特徴。その理由は、この競馬場が距離の長い障害レースをメインとしているからなんです。
障害レース!
日本では、土曜の昼休みにこっそりとやってるような印象ですが、イギリスではとても人気が高いんです。夏は平地、冬は障害と、きっちりと住み分けができているのもこの国の特徴ですね。
障害レースにもいろいろ種類があって、hurdleレースでは、馬がぶつかるとヘニャと曲がってしまうような低い障害を飛びます。陸上のハードル競走を見ているようで、迫力があって面白いです。
資料画像
生垣や小川を飛び越えながら、広大な丘を馬たちが駆け回っていた時代の名残が、Cheltenham競馬場のコースにはまだまだ残っているようです。
4.Kempton Park競馬場
ロンドンから電車で西へ40分。Kempton Park(ケンプトン・パーク)競馬場は、ロンドン中心部にいちばん近い競馬場です。先の「グローバルレーシング」は、この競馬場がある町を「典型的なイギリスの村で、アガサ・クリスティ作品の推理小説でミス・マーブルがテーブルの下に死体を発見するかもしれないような村である」と褒めたたえています。
そしてこの競馬場では、ナイター競馬が開催されているのです。
よし。仕事帰りにGo!
急げ急げ
だんだん日が暮れてきて、暗闇に煌々とライトが映える頃、ようやくレースが始まります。
この競馬場のもう一つの特徴は、オールウェザーコースがあることです。
なにそれ?
日本の競馬場には、芝とダートの2種類のコースがあります。人工素材を馬場全体に敷き詰めたオールウェザーは、見た目はダートのようですが、ダートとは別の第3のカテゴリー。雨が降っても水たまりができないとか、クッション性がよくて馬が故障しにくいなど多くの利点が言われる一方で、新しい製品なのでいろいろ難点が挙げられたり、こんなの本来の競馬じゃないと言われたり、議論百出のコースなんです。
ナイター競馬をみていると、いつもにも増して胸が高まってくるのは私だけでしょうか。途中から雨が降り出しましたが、白熱のレースにはまったく影響なし!なんといってもここはオールウェザーですからね。
パドックも怪しく光る
このKempton Park競馬場が閉鎖されるというニュースが飛び込んできました。残念ですが、まだ何年も先のことらしい。それまでに美しいナイター競馬を十分に楽しんでおきましょう。
5.付け足し
最後に私信を一言。たくさんの競馬場をご案内いただいたF所長、ありがとうございました。これからも英国競馬場の探検を続けていきます。東京に戻られてもお元気で!