第19回 湖水地方のマーマレード祭り
ロンドンから電車で北へ3時間、無数の湖と大自然で有名な湖水地方は誰もが知る大観光地であるが、その北の端、Ullswater(アルズ湖)を囲むあたりは、まだまだ未開の自然に囲まれた神秘的な空間が残っている。
自然に囲まれたUllswater
地域の起点となるPenrith(ペンリス)駅から車で10分ほどのところに、Dalemain(ダルメイン)と呼ばれる土地がある。古い屋敷と美しい庭園をもつダルメインでは、年に一度、マーマレード祭りが開かれている。今年も3月に開催されたマーマレード祭りにお招きいただいたので、ここでご報告をさせていただく。
1.ダルメインの歴史
©Hermione McCosh photography
ダルメインとは、ヘイゼル家が17世紀以来代々受け継いできた屋敷と庭と広大な領地のことをいい、現在は12代目となるジェーンさんがその歴史と伝統を守り続けている。
ジェーンさんは長年かけて庭の改良に取り組み、2013年にHistoric Houses Association によってBest Garden of the Year(2013年最高庭園)に選ばれた。その美しさは、NHKが昨年夏に放映した「魔法の庭 ダルメイン」によって日本にも広く知れるところとなっている。
ジェーンさんの努力は庭園だけに留まらなかった。ダルメインの屋敷に代々伝わるマーマレードの秘伝のレシピを発見したことをきっかけに、2005年にマーマレード祭りが始まった。
World Original Marmalade Awards & Festival(世界初・マーマレード大賞祭り)と名付けられたこのお祭りも、初年度は50ほどしか出品者が集まらなかったというが、今では3,000以上の応募が寄せられる。英国内だけでなく、オーストラリアや米国、シンガポールなどからも応募があり、最近は日本からの応募が大変増えているという。
ジェーンさんのマーマレード
2.マーマレード表彰式
世界中から出品されたマーマレードは、Artisan Awards(職人の部)とHomemade Awards(手作りの部)の二つのカテゴリーにわけて審査が行われる。審査員が3,000以上のマーマレードを実際に試食するというから大変だ。味だけでなく色や食感なども細かく審査され、それぞれに点数がつけられる。
Artisan Gold Winners(職人の部金賞)は、プロフェッショナルにマーマレード作りを手掛ける人々の中から選ばれる。
選ばれたマーマレードは受賞シールを貼って売ることができるので、販売促進にも大きく貢献する。ジャムメーカーのMackaysや食品メーカーFortnum & Masonがスポンサーにつくなど、業界の注目度の高さもわかる。
「職人の部」の表彰式はダルメイン屋敷内で行われ、50組余りの職人が金賞を受賞した。
日本各地のジャム工房などで活躍する方々も、ユズや日本酒をうまく取り入れたマーマレードの新製品を投入し、10組ほどが堂々と金賞を受賞していった。日本から遥々来られた着物姿のご婦人方が表彰式に参加されると、豊かな国際色がさらに彩りを増す。
ゲストとして招かれた鶴岡在英大使より表彰状を授与
Homemade Winners(手作りの部)には、世界各地のマーマレードファンたちから自慢のマーマレードが送られてくる。
日本からも数多くの応募があったという。瀬戸内海の小さな島からも、地域おこし協力隊と地元グループが丹精込めて作ったマーマレードが、おばあちゃんたちの写真を添えて国際郵便で送られてきたというエピソードも教えてもらった。
©Hermione McCosh photography
2,000を超える応募作は10余りのテーマに分けて審査される。「セビルオレンジの部」や「アイデア(twist)の部」もあれば、「子供の部」「男子の部」「お年寄りの部」などもあって、すべての作品に平等にチャンスが与えられているようだ。
朝、屋敷の前庭に出てみると、地元の人たちが大勢集まってきていた。地元小学生がかわいらしい歌をうたったあと、テーマごとの表彰式が行われた。こちらも国際色豊かで、アメリカやオーストラリアからも受賞者が駆け付けていた。
「マーマレードすきすき~」
マーマレードフェスティバルへの参加費用は、すべて地元の非営利団体に寄付され、ホスピスの運営費に充てられるとのことで、このイベントが地域コミュニティに暖かく迎えられている秘訣となっているようであった。
「子供の部」は地元の幼稚園が受賞した。小さなこどもたちが先生に引率されて前に出てきたとき、表彰式を見守る人たちの拍手は最高潮に達した。
3.地元の人たちと
午後から屋敷は一般の人たちに開放される。駐車場にはみるみるうちに車が押し寄せ、満杯になった。マーマレード作りのデモンストレーションが行われ、受賞したマーマレードが飛ぶように売れる。お祭りの雰囲気が高まってきた。
表彰式の後、ペンリスの町に戻ってきた。町の中心では、マーマレード祭りとの同時開催で ‘Go Orange’ キャンペーンが展開され、屋台でマーマレード関連商品が販売されたり、店のショーウィンドーがオレンジで装飾されたりして盛り上がっていた。
マーマレード祭りに合わせてペンリスでキャンペーンが開催されるのは2年目で、昨年よりも規模が大きくなったとのこと。祭りの主催者とペンリスの行政や商工会との連携がうまく機能しているようであった。
4.ロンドンにて
受賞した商品がFortnum & Mason(フォートナム・メイソン)で販売されていると聞いて、ロンドンに戻ってからピカデリィの本店を覗いてみた。
毎時、フォートナムさんとメイソンさんの人形が出てくる
あった。あった。金賞受賞作がきれいに並べられ、華やかな店内にさらに彩りを添えている。日本から遥々やってきたユズ&ライムも並んでいる。透き通った黄色味とライム皮の緑が新鮮だ。
小ぶりの瓶が日本っぽい。
日本のマーマレードがさらに飛躍することを祈念して、一瓶買って帰ってきた。おいしくいただきます。